第45話 二人の週末

 「合宿の場所もある程度候補を絞れたし、後は旅行会社に行って細かいこと決めるだけだな」

「うん」


俺たちは喫茶店で合宿の話をしていた。


「明日からの土日で、旅行会社の方は俺行って

粗方纏めてくるよ。何かあったらラインで知らせるから」

「えっ? 折角のお休みなのに…瀬戸くん一人で行くの…?」


真古都が気を遣って訊いてくれる。


「大丈夫だ。 この土日は丁度用も無いから

部活の仕事に当てても問題はない」


「あ…あの……」

真古都が少し口篭っている。


「どうした?」

「そ…それ…わたしも行っちゃダメかな?」


真古都はコミュ障なところがある。

人で賑わう土日の外出は苦手な筈なのに…


「め…迷惑かけないよう頑張るから…

二日間ダメなら一日だけでも…」


「折角の休みが潰れるぞ?」

「瀬戸くんだって同じでしょ?

わたしもお手伝いしたい……休日まで

わたしなんかと一緒は嫌かも知れないけど…」

    パシッ!

「いったぁ~い!」

俺は真古都の額に中指を弾いてデコピンする。


「バカじゃねぇか

どこの世界に彼女に逢いたくない彼氏がいるんだよ!」

「そ…そうだけど……」

『わたしたちだから…』


「こき使ってやるから覚悟しとけよ!」

「うん」

俺は嬉しくて、照れ臭い気持ちを気づかれないように、真古都の頭をガシガシと掴みながらそう言ったが、彼女は嬉しそうに笑ってた。



「ごめん…待った?」

真古都が待ち合わせ場所にきた。


「いや…大丈夫だけど、お前眼鏡どうした?」

「実は…本読んでたらそのまま寝ちゃって…

壊した…恥ずい…」

真古都は恥ずかしそうに話している。

「間抜けなお前らしいな」

そう云えば真古都の私服姿は初めてだった。

よく見ると、スカートの裾辺りが汚れている。


「お前スカート汚れてないか?」

「やだっ…さっき転んじゃって……」

真古都は慌ててスカートをパタパタと叩きだした。


「何やってんだよ…危ないな…俺に掴まって

歩けよ」

「ありがとう」


俺たちはまず旅行会社に行って話をする。

場所の候補と予算の中で色々絞ってもらった。


休みの日に、私服姿の真古都と腕を組んで歩く…

『だけど…これじゃあ

まるでデートみたいじゃん』

眼鏡が無いせいか、しっかり俺の腕を掴んでいる彼女がいつもより可愛いらしく見える。


『よく見えないから、逸れないようにしっかり掴んでよう…』


お昼の食事に二人でお店に入った。


「お前、眼鏡無くて不便じゃないの?

見えないだろ?」

真古都に訊いた。

「ごめん…休みの日まで腕掴んで…」


「腕はいいよ…

それよりお前、眼鏡無い方がいいな

コンタクト買ってやるよ」

真古都の顔に触れ、近づいて言う。


「えっ?」

俺の提案に困惑している。

「明日も一緒に回ってくれるんだろ?」

「そ…そうだけど…でも…あの…」


遠慮している彼女を、

食事の後、眼鏡売り場へと誘う。

「どうだ?」

「メチャクチャ良く見えます!」

自分の手を見ながら言う彼女が可愛い。


「なんだそりゃ…

高い買い物してやったんだ

部活じゃしっかり働けよ」

「も…勿論だよ!!」



翌日も合宿の準備に二人で逢った。


「俺、会計済ませてくるから待ってろ」


瀬戸くんが合宿先の関連雑誌等を買ってくる間、

わたしは売り場の外で待っていた。

『瀬戸くんとお買い物楽しかったな』


その時、わたしを呼ぶ声がする。

「三ツ木? やっぱり三ツ木か?」

「えっ?」


声のする方を向くと塚本先輩だった。

「あ…あの…お久しぶりです」


「学校の時と雰囲気違うから一瞬判らなかった」

先輩はわたしをじろじろとしつこく見てくる。


「ちょうどいいや

今のお前なら付き合ってやるわ、俺と来いよ」


「えっ…あの…」

「俺のこと好きだっただろ?」

肩に手を回され引き寄せられる。


「でも…あの…」

「今日はヒマなんだ

どうせまだ彼氏もいないんだろう?」

躰に触れてくる手が気持ち悪い…


『やだっ…どうしよう…

いや…いや……誰か…誰か…』

わたしは怖くて泣きたくなった。


「せ…瀬戸くん!!」

わたしは怖くて瀬戸くんの名前を叫んだ。


「どうか…あ…先輩…」

売り場から出てきた瀬戸くんが

先輩と顔を合わせる。


「なんだ、お前と一緒だったのか

部活の買い物か、三ツ木は連れて行くから

後は勝手にやれな」


彼女があんなに好きだった先輩の腕の中にいる。

俺は…どうしたらいい?


決まってる!

俺は真古都に回された手を振り払うと

彼女を自分の胸に引き寄せた。


「先輩離してください!

彼女嫌がってるでしょう!」


「お前先輩に口ごたえするつもりか?」


「口ごたえも何も、コイツ今俺の彼女なんで

先輩の言う事でも訊けません」


相変わらずクズだな。


「ちっ!

こんなに可愛い格好してるのに

ただの買い物な訳ないでしょう?」


俺は聞こえるよう、あからさまに舌打ちした。


「俺らデート中なんですよ

俺の女に変なマネするの止めてくれませんか?」


真古都を両腕でしっかり抱えて言い放った。


「三ツ木!お前が誰の女でもいいんだよ!

俺が相手してやるって言ってんだよ

その男よりよっぽどいい思いさせてやる!」


『よくそんな恥ずかしい事言えるな…』


「わ…わたし…

瀬戸くんと、お付き合いさせてもらってます…

す…凄く大事にしてくれるので…

わたしも瀬戸くんをお慕いしています…

瀬戸くん以外は…嫌です…」


俺の胸にしがみついて震えてる真古都が言った。


「そんな女お前にくれてやる!」

先輩は真っ赤な顔をして

そのまま怒って行ってしまった。


「瀬戸くんごめん…ついあんな嘘ついちゃって

わたし…結局いつも瀬戸くんに助けてもらってばかりで…ごめんなさい」

真古都が頭を抱えて謝っている。


「お前が間抜けで、鈍臭くて、

一人じゃ何も出来ない、

手のかかるヤツだって事は

一年の時からの付き合いでよく判ってる

今更心配するには及ばない

今まで通り

俺の言う事訊いてればいいから」


俺は、先輩の誘いを断わってくれたのも

たとえその為だけだったとしても

〔瀬戸くんをお慕いしています〕

そう言ってくれたのが死ぬほど嬉しくて

照れ臭いのを気づかれないようそう言った。


「ご…ごめんなさい!」


「判ったらちゃんとついてこいよ」

俺は真古都の頭を優しく撫でてやる。


「うん!これからもよろしくね」


うっ…一生ついて来て欲しい!











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