第44話 キスとそれぞれの想い

 「先輩!どう云う事ですか!?」

霧嶋がまた俺の所に来るなりご立腹だ。

「なにが?」


「昨日、真古都さんを、駅向こうの怪しい喫茶店に連れ込んだでしょう!」

「おい、連れ込んだなんて…人聞きの悪い事言うなよ…」


まぁ、霧嶋にとっちゃあ面白く無いだろうな…


「あんな如何わしい場所に真古都さんを連れ込むなんて!先輩の品位を疑いますよ?

一体何してたんです!」

「周りの奴らに彼氏アピールだけど?」


霧嶋は〔彼氏〕と云う単語を聞いて、

新たにまた怒りを込み上げている。


「真古都さん!

もう、あんな如何わしい所行かないで!」

霧嶋は真古都の後ろから抱きついてそう言った。

「霧嶋くんたら…

瀬戸くんと一緒だから大丈夫だよ」

真古都は霧嶋を窘め離れようとするが、霧嶋が離さない。



『真古都さんてば…だから危ないんじゃん!

ぐぅっ…だけでも忌々しいのに…

あんな所に連れ込むなんて

何かあったらどうするんだよ!』


「じゃあ今度は僕とお出掛けして!」

「えっ?」

「もっと良い所につれていってあげる!」


霧嶋のヤツ、また真古都にベタベタしやがって!


「お前…彼氏の前でヒトの彼女誘うなんて

良い根性してるな…」

俺はなるべく冷静に言った。

「いいじゃん、なんだから

僕はなりたいの!」


「わ…判ったから、今度ちゃんと時間作るから、そんなに拗ねないで」

真古都は駄々っ子をあやすように、自分の胸の辺りで組まれている霧嶋の腕を軽く叩いた。


おい、冗談だろ?


「約束だからね!」

「はいはい」


霧嶋はご満悦のようだが、今度はこっちに心配の種が出来た!

霧嶋は真古都を本気で落とそうとしてるんだ…

そんなヤツと二人っきりに出きる筈無いだろ!



「真古都、あいつの言う事、真面に訊かなくていいんだぞ」

帰り道の途中で俺は真古都に言った。

「…?…霧嶋くんのこと?

二人でお茶に行ったから拗ねちゃったね」


おいおい…

霧嶋が拗ねたのはお茶に行ったからじゃない

俺と行ったからだ…

相変わらず鈍感なヤツだな…


「今度一緒に買い物でも…」

「ダメだっ!」


俺は真古都の言葉を打ち消すように、

彼女の後ろにある壁を思い切り叩いた。


「瀬戸くん?」

俺は真古都に顔を近づけると、彼女の額に自分の額を軽くぶつけた。

「霧嶋と二人だと?俺の忠告は忘れたのか?

この間抜けが!」

「ご…ごめんなさい」


二人きりになったら、霧嶋は多分全力で真古都を落としにかかるだろう…

そんなことさせてたまるか!


「俺のいないところであいつと二人っきりになってみろ!また変な噂が立つだろう!

もっと慎重になれよ!」


瀬戸くんの叱責が続く…

『また…瀬戸くんに怒られてしまった…』


俺は周りから聞こえてくる

《霧嶋に取られるかも》

と云う噂を気にしていたのかもしれない

霧嶋と真古都を二人きりにさせないため

思いの外必死で…

真古都にキツく当たった


「あっ…あれ何か怒ってる?…怒鳴ってるし…」

「あんな彼氏やだな~怖い…彼女さん可哀想…」


近くを通りかかった女子の声で我に返った


ちっ!

恥ずかしくて真古都の顔が真面に見れなかった

きっと真古都も同じように思った筈だ…

「俺は…無骨者だから、

こんな物言いしか出来ない……悪いな」


「やだな~瀬戸くんは実直過ぎるだけだよ

それに、わたしにも十分優しいよ

そりゃ、

怒ると凄く恐いけど、いつもわたしの為じゃない

きっと瀬戸くんが一番わたしに優しいと思う

時々いじわるだけどね」


真古都がいつもと変わらない笑顔を向けてくれる

そうだな…

コイツはこう云うヤツだ…


無口で仏頂面の俺を中学のクラスメイトは

根暗で陰気な、感じの悪いヤツだと揶揄った

だけど真古都はそんな風には見ない…


霧嶋が真古都を好きなのも

こんなところなんだろうな…




「と…とにかく霧嶋とは二人きりになるな

どこで、誰が見てるか判らないからな」

「わかった」


「じゃ、また明日…おやすみ」


別れ際、真古都の額にするキスも大分慣れた

だけど…

真古都の方は相変わらず俯いている

中々慣れないみたいだ…



その日の放課後

俺のとは違う真古都を見た


「真古都さん」


なんだ霧嶋のヤツ

また真古都の後ろをついて回って…


「真古都さん大好き」

霧嶋が真古都の頬にキスをする。

耳にはしてたが、実際に見たのは初めてだった。

「もう、恥ずかしいでしょ!」

「い~の」


……!?

「えっ?」



「瀬戸くん、今日もありがとう」

「おう…」


「真古都…」

俺はいつものように彼女の側に近づいた


「はい」

真古都は目をぎゅっとつむる


「真古都…そんなに俺からのキスは嫌だった?」

「えっ?」

俺は真古都を抱き締めて訊いた

とてもその答えを、

顔を見て訊く勇気がなかったからだ


「はっきり言っていいよ」

「あの…」


「お前、霧嶋にキスされても

平気な顔してるよな」

「えっと…」


「俺の時はいつも俯いてるだろ…」

「だって…」


「むしろはっきり言ってくれた方が…」

「だって瀬戸くんが悪いんだよ!」

真古都がいきなり大きな声を出した


「霧嶋くんのこと妬いてるとか言うから…

本気じゃないの判ってるけど…

でも、やっぱりなんか恥ずかしいだけ!

嫌だなんて一度も思ってないよ!

そんなの思う訳ないじゃん」

真古都は言い終わると、俯いて真っ赤な顔を

両手で隠している。


俺は真古都の肩に手を置くと、彼女の顔を覗き込むようにして話しかけた。

「真古都、していいか?」

真古都は真っ赤な顔でコクコクと頷いてる。


「おやすみ」

「はい」



アイツ…

さっき恥ずかしいって言ったよな…

霧嶋のことで俺が妬いてるから…


俺のこと…

少しは意識してくれてるんじゃん


くそっ!

メチャクチャ嬉しい…












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