第17話 一途な思い
わたしは間違った事は言ってない。
芸能人だって、スポーツ選手だって、奥さんはみんな美人だ。
誰もブスなんてもらわない。
〔人は心だ〕と、言うけれどそんなの詭弁だ。
男子がわたしに対して向ける、冷ややかな視線や酷い扱いが全てを物語っている。
だからわたしは現実に何も期待しない。
部活に行くと、先輩が色々と用事を与えてくる。
ちょっと大変な時もあるけど、何より先輩がわたしの方を見て、話しかけてくれるのが嬉しい。
一番辛いのは無視される事だから…
先輩が卒業してしまったら、もう会うこともないだろう。
この一年間だけが、先輩との思い出を作れるチャンスなんだ。
何を言われてもいい。
話しかけて貰えれば声が聞ける。
先輩の顔を近くで見る事が出来る。
卒業した後、もし何かの折りにわたしを思い出してくれた時、なるべくなら良いイメージで思い出して貰いたい。
だから先輩の前では、絶対辛い顔はしたくない。
無理にでも笑う。
先輩が帰った後、わたしが後片付けをして帰ることになった。掃除をして、安全確認をして、部室の鍵を職員室に戻すのが役目。
同じ新入部員の瀬戸くんも残っていた。
「あっ…瀬戸くん、あとわたしがやっとくから帰ってね。遅くまでありがとう」
きっと帰ってする事もあるのに、わざわざ今まで残ってくれてた彼にお礼を言う。
せめて今からでも帰って、家でゆっくりして欲しい。
「お前、あの先輩のどこが良くて好きな訳?あんなクズ」
瀬戸くんは先輩の事が嫌いらしく、よくクズと呼ぶ。
瀬戸くんから見て、先輩のどこがそんな風に見えるんだろうか。
瀬戸くんにも言ったけど、中学の頃はもう少し優しい部分もあった。
ワンマンな所もあったけど、部活を纏めようと頑張ってた。
高校に入って、環境が変わって色々あったのかもしれない。
中学の時とは変わってしまった先輩を、わたしはどうしても嫌いにはなれなかった。
「だけど…変わったからってすぐには嫌いになれなくて」
そう答えるわたしを、瀬戸くんはとても呆れていた。
「お前はもう少し、自分の事を考えた方がいいぞ」
淡々とした話し方だけど、瀬戸くんの実直な性格がよく判る優しい一言だった。
部活で、一年生はわたしと瀬戸くんの二人だけだから、雑用等の仕事を一緒にする事は多い。
「おい、少しは嫌いになる努力はしてるのか?」
作業をしているわたしに瀬戸くんが訊いてきた。
好きだった
「じゃあ瀬戸くんは、努力したらわたしみたいなブスを好きになれるの?」
ちょっと意地悪な質問だったかな…と思ったけど言ってしまった。
予想通り瀬戸くんは少し困っている様子だった。
「でしょ?人の気持ちなんて努力で何とかなるもんじゃ無いんだよ。強いて言うなら月並みだけど時間が解決してくれるよ、きっと」
先輩からの言付けに、毎回奔走しているわたしを、瀬戸くんが心配してくれてるのは判ってる。
でも、気持ちはどうにもならない…
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