第16話 届かぬ思いと不測の災禍
「おい、少しは嫌いになる努力はしてるのか?」
あれから暫く経った日の部活で、ぶっきら棒に俺は訊いた。
「じゃあ瀬戸くんは、努力したらわたしみたいなブスを好きになれるの?」
「えっ!?」
俺の質問に、突拍子もない返事をされ躊躇していると、
「でしょう?人の気持ちなんて努力で何とかなるもんじゃ無いんだよ。強いて言うなら、月並みだけど時間が解決してくれるよ、きっと」
ひとが折角心配してやってるのに、呆れたような顔で俺を見て言いやがった。
何だよ時間て…
それまでずっと、今のまま傷口を増やしていくのかよ…
こいつは
俺とは正反対だ。
俺は自分を守る為に、相手を拒絶する事を選んだが、あいつは拒絶される辛さを知っているから、いつでも真摯に向き合おうとする。
『くそっ!』
せめてこれ以上傷つかないようにしてやれないのか?
「ねぇ三ツ木さん」
切れ長の目で気の強そうな顔だが確かに美人だ。
「三ツ木さんて、春樹のことが好きなの?」
少し小さめな口を尖らせて、不満そうな顔を三ツ木に向けている。
「えっ?いや…あの…」
突然の事で三ツ木も戸惑っている様子だ。
「春樹が三ツ木さんみたいな控えめな
腕を組み、上から目線で三ツ木に意見している。
「はいっ!すみませんっ」
三ツ木は何度も頭を下げ謝っている。
彼女がその場を離れても、後ろ姿に頭を下げていた。
彼氏の側にいる女を神経質になるのは判るが、いつも絡んで来るのはあの
三ツ木が彼女からあんな言われ方をされる謂れは無いし理不尽だろ!
俺は三ツ木の所へ駆け寄って声をかける。
「おい三ツ木!」
三ツ木は俺の方に顔を向けると、表情を一変させ戯けて笑い始めた。
「彼女さんに怒られちゃいました」
頭をさすって困り顔で笑っているが、彼女の後ろ姿を眺めていた時、あんなに切ない面持ちをしてたじゃないか!
「いい加減にしろよ!」
無理に笑って取り繕う三ツ木の態度に、言い様の無い遣る瀬なさを感じ、つい大声になってしまった。
「あそこまで言われてもまだあいつの側にいたいのか!?お前の一途な気持ちなんてあいつには重いだけなんだよ!!」
いつもいつもそうやって笑いやがって!
なんでそうやって笑っていられるんだよ!
俺はあんまりこいつがバカすぎて、自分の事でもないのに腹が立って仕方なかった。
「そろそろ潮時だろう?あんな男は見限って、部活も辞めた方がいい。それこそ園芸部にでも行けばいいじゃないか」
怒りで興奮気味な俺とは反対に、三ツ木は辛そうな顔でこっちを窺っている。
「先輩の事とは関係なく、絵は好きだから部活は辞めたくない。これからは迷惑かけないよう気をつけるね」
ここまできても尚考えるのは、自分の事より俺の事なのかよ!
いくら自己評価が低くたって、自分を粗末に扱いすぎだ!
今は何を言っても、きっとこいつには届かない。
俺は晴れない気持ちのまま、それ以上の言葉を呑み込んだ。
次の日の放課後、俺はクラス奴等と一緒に、校庭で球技大会の練習をしていた。
サッカーだって?
なんで俺がサッカーなんだよ…
団体競技は苦手だ…
俺はゴール前で試合の流れを見ていると、校舎下の花壇で、植え替えをしている三ツ木が視界の端に写る。
『相変わらず園芸部の手伝いをしているのか』
まあ、あいつにとってはいつもの事だから…
と、思ったのと同時に、別の物が目に飛び込んできた!
「三ツ木危ない!」
そう叫んだが間に合わない!
二階から落ちた鉢植えは、途中でぶつかり割れたものの、その破片があいつの頭に容赦なく降りかかった。
俺が彼女の側に駆け寄ると、散乱した破片と一緒に倒れ、右側の額を押さえている。
「おい、大丈夫か!?」
「痛い…」
押さえた手の間から血が流れ、地面に吸い込まれていく。
「三ツ木ごめん!」
俺は着ていた体操着を脱ぐと、押さえていた手を力づくでどける。
血塗れの手を引き剥がすと、ザックリと割れた傷口から、次から次へと血が溢れる様に流れていた。
俺は脱いだ体操着を傷口に押し当てた。
三ツ木の血が、彼女と俺を赤く汚していく。
不安と恐怖が俺を襲った。
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