第11話 反論出来ない苛立ち

 俺はドアの横で、蹲っている三ツ木に声をかけた。

「立てるか?」

三ツ木は頷くが、中々立ち上がろうとしないので、焦れったくなった俺は、彼女を両腕で抱き上げた。

「えっ!?」

気落ちして暗い表情が、たちどころに赤く染まっていく。

「せっ…せっ…瀬戸くん?」

「黙って捕まってろよ、落ちるぞ」

躰を離そうとする彼女に、にべなく答えた。

所謂、お姫様抱っこと云うやつだが、人を横抱きに抱えて運ぶだけなので、大したことはない。


俺は三ツ木を抱えたまま、来た時と同じ渡り廊下を通り、一階の保健室までその状態で階段を下りた。

さすがに階段を下りる時は、近くにいた他の生徒も、こちらを凝視しているのが見て取れた。

『やれやれ、女の子一人運ぶだけで、なんでこんなに注目されなきゃならないんだ?』


保健室に入ると、空いているベッドに三ツ木を下ろして毛布を掛けてやる。

「鞄持ってきてやるから、少し休んだらもう帰れ」

いくら何でもさっきの言い様はあんまりだ。

あのクズ!

自分を何様だと思ってるんだ!?

本当に腹の立つ野郎だ!

『あんなの訊いちゃって、部活続けられるのかな?』

俺はそんな事を思ったが、素より、あいつが部活を辞めてくれれば俺も気兼ねなく辞められる。


次の日、部活に現れた三ツ木の顔は酷いものだった。

顔は浮腫んでるし、目も充血、おまけにクマまで出来ている。

『一晩中泣き明かしたのか?』

俺は半分呆れて彼女を見てた。


そんな三ツ木を見たクソ男が、彼女に声をかけてきた。

「なんだ三ツ木、今日はいつにも増してブサイクな顔だな。よくそんな顔で出てこれるな?女は顔が良くなきゃ価値ねぇだろ!朱音見てみろよ。美人だし、スタイルは良いし、女はこうでなきゃなぁ」

「はぁ…」

嘲笑う部長を前に、三ツ木は相変わらずいつもの乾いた笑顔を見せていた。

「全く、お前がいるとこっちまで辛気臭くなるから、掃除でもしに行けよ!」


俺はその言葉と態度に、他人事ながら激昂する。

誰の所為だと思ってるんだよ!

あそこまで言われて、それでも尚笑顔でいる三ツ木にも腹が立ち、彼女に問い質した。

「お前さぁ、あんな事まで言われて悔しくないわけ?」

三ツ木は不思議そうな顔で俺を見る。

「本当の事言われて、悔しがっても仕方ないでしょ。誰だってブスより美人がいいに決まってるもの」

三ツ木は当然のように言う。

「王子様とのハッピーエンドは、いつだって可愛いお姫様に決まってるし、瀬戸くんだって彼女は可愛い子の方がいいでしょ?」

俺は言葉が出ない。

「何を言われても平気だから。わたし、現実に期待はしてないから大丈夫。わざわざ気にかけてくれてありがとうね」


俺を気遣って笑ってるが、お前のその顔、少しも大丈夫じゃないだろう!

今にも泣きそうな顔してるくせに!


それでも、彼女の言い分に反論できず、今の俺はこいつにかけてやれる言葉が見つからなかった。

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