第5話 一年A組、瀬戸翔吾 #2
「三ツ木くんにも、今の美術部がどれだけ酷い状況か話したんだけど、他人事みたいに取り合ってくれないんだよ」
《わたしみたいなブサイクは女の子としては見てもらえないですから、大丈夫ですよ》
そう言って笑っていたそうだ。
「そ…そりゃあ、お世辞にも可愛いとは言わないけど、彼女が自分で言う程悪くはないと思うんだよ。寧ろ、いつでも真摯な姿勢は好感が持てる。あんな子が、見す見す先輩たちが手を出すと判ってて、部に引き止められないよ」
二年の先輩は、本当に悔しそうに話している。
「部に残りたい
俺は何気なく訊いてみた。
「実は、部長と中学の部活で一緒だったから、また同じ部活でいたいそうだよ。この学校に入ったのもその為みたい」
なんだそりゃ…
憧れの先輩と部活も一緒って云うやつか?
なんて妙な事をするやつなんだ。
俺は半ば呆れて溜息が出た。
「部長も副部長も、一緒にいるのは彼女だから、そうそう直ぐには手を出して来ないと思うけど、もう一人の辻宮先輩は、本当に見境がないから、いつ手を出されても可笑しくないんだ」
この先輩の話しぶりから察するに、本当に危ないのだろう。
「だから瀬戸くん、君からも言ってあげてくれないか?同じ一年の君が言った方が彼女も訊くかもしれないから」
先輩は真剣な顔で俺に訴えてきた。
…おいおい
それ無理だろ。
先輩が言って訊かないのに、初めて逢った俺が言っても訊くわけないじゃん。
所が、これ以上見て見ぬふりは出来ないと、先輩があまりにも熱心に頼むので、俺もつい断りきれず了承してしまった。
『何やってんだかな俺…』
さっさと退部届けを出して帰る筈だったのに…
準備室の前に来ると、また溜息が出てきた。
軽くノックすると、「はい」と女の子の声が聞こえる。
静かにドアを開けると、体操服で床に跪いている彼女と目があった。
薄暗い中、両膝をついて床を磨いている。
『こんな所で篭ってると、ホントにアナグマみたいだな』
俺がそんな事を考えていると、彼女の方が遠慮がちに声をかけてきた。
「あの…すみません。今、片付け中で、何か捜し物なら言ってもらえたら、代わりに取って来ますけど?」
彼女はそう言って立ち上がると、近くに置いてあったタオルで手を拭いている。
俺は話をする為に近づいた。
彼女の方では、明らかに困った様な顔になり、伏し目がちに目をそらしはじめた。
正面に立つと、単刀直入に切り出した。
「二年の先輩に、辞めるならお前も一緒に退部を決めるよう説得を頼まれた」
その言葉を訊いた途端、俺の顔を見たと思ったら直ぐにまた目を伏せた。
「あ…あの…わたし部活辞めたくないです」
二年生から事前に訊いていたから、予想通りの返事で驚きはしなかった。
大体、同じ一年ってだけで、よく知りもしない俺が言って辞めるなら、先輩である二年生が説得した時に、当然退部を決めてる筈なんだ。
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