第四話 ぼたん
なるほどね、と先生はうなずき、視線を本からそらす。
今までの話は何ら普通の異世界転生と変わらない、いや、それよりも面白くなかった本だった。
この本のどこに、子供たちは惹かれるのか。
多分、面白いのはここから先なんだろうけど、読む気がうせた。
外が段々騒がしくなってくる。五年生と六年生の授業が終わったらしい。
ということは、きょう君もそろそろ本を取りに来るか。
内容はきょう君に聞いてみよう、と先生は本を閉じてカウンターの上に置いておく。
でも、蘭ちゃんがもっと置いてほしい言ってたし、もっちょい探してみるかな。
そう先生がぼそりと意気込んだ時、きょう君がやって来た。
「ぼたん先生!異世界天職の本あるー?」
ランドセルも背負わないで走ってきたのだから、慌ててきたことが分かる。
先生は優しく微笑むと、貸出手続きをしてきょう君に渡す。
そしたら、きょう君は嬉しそうにして、久しぶりに借りれるーと、小躍りして喜んだ。
でも、やっぱり分からない。この本の何がいいのかも、きょう君に聞いてみよう……。と先生が思ったとき、大きな声をあげて誰かが図書館に入ってくる。
「きょう君のばかー!!本の予約はダメなのにー!」
声の正体は蘭ちゃんだ。ちょっと泣いたような怒ったような顔でずけずけと図書館に入って来る。
「ルール違反は駄目だよ!一年生の時言われたじゃん、読みたい本があっても先生に予約は頼んじゃ駄目って!」
詰め寄って来る蘭ちゃんに、きょう君も必死に抵抗する。
「だって、五年生は授業で忙しくて、なかなか図書館に来れないんだぞ。誰かさんに、本がとられちゃうから予約しなきゃ借りれないんだよ!」
「でもルール違反だよ。ぼたん先生は来たばっかりだし知らなくてもしょうがないけど、きょう君は知ってたでしょ !」
その言葉が先生の胸に深く突き刺さる。私、何にも知らないで、きょう君のお願い、聞き入れちゃった。私のせいだ……。
「六年生が終わったらもう卒業するんだぞ。そしたらもうこの本読めないじゃん!ちょっとくらい読ませてくれたっていいだろ!」
喧嘩はどんどんヒートアップしていく。この騒ぎに、うるささに、図書室にいるみんなが注目している。
「ストーップ!喧嘩はやめて。図書室では静かに……。」
先生がそう、喧嘩を収めようとしたとき、バシッと大きな音が響いた。
蘭ちゃんの頬には爪でひっかかれたような跡と、血がつうっと流れていた。
「痛い。血が出てる、痛いよぉ……。」
とうとう蘭ちゃんが泣き出してしまった。
この惨事をどこで聞きつけたのか、きょう君の担任の先生がやって来た。
きょう君の担任の先生が、てきぱきと事態を対処してくれたが、先生は為す術がなく、茫然としているしかなかった。
ただ事態が片付くのを見守るしかなかった。
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