第三話 ー花菱草ハナビシソウー

「さ……ぁ……さまぁ……ご主人様ぁ!」

突然の大きな声に、僕ははっと目を覚ました。

一面白い壁に覆われた、何もない無機質な部屋が目に入る。

なんだ、ここ……。どこ、なんだ……。

「ご主人様っ!目を覚まされましたかぁ。よかったです……。」

僕の混乱をよそに、一人満足そうにしている女の人がいた。

年齢は、僕よりも年上に見える。中学生くらいだろうか。

腰ほどまである長い髪は、銀色に輝いていてとても綺麗だ。その銀色に淡い水色のワンピースが映える。ヒールを履いているからなのか背が高くスラッとして見える。

「ご主人様、おめでとうございます!ご主人様は前世での行いが認められ、生まれ変わりの権利を得ました!」

そう女の人は言うと、満面の笑みを見せる。

生まれ変わりの権利を得ました……。生まれ変わり……。

「え、生まれ変わりっ?!どういうこと?!」

僕の大きな声に驚いたのか彼女はふぇっ、と間抜けな声を出した。

「ご主人様、もしかして覚えていないんですか?車にひかれて、ご主人様は死んで……」

ご主人様は死んだ……。死んだ……?

「あ……と、ご主人様は死んじゃったのですが、本来はここで死ぬ予定、ではなかったんです。だから、神様が特別に、生まれ変わりの権利を与えてくださったんです。」

手元のカンペをちらちら見ながら、笑顔を僕に見せる。

「僕って死んだのか!?え、じゃあここはどこ?今僕生きてるじゃん!」

僕の矢継ぎ早な質問にも、女の人は冷静さを欠かず淡々と返す。

「はい、ご主人様は車にひかれて死にました。スピード違反をしていた車だったそうで、ほぼ即死でした。で、ここは生まれ変わりの中継地点で、現世と異世界を繋ぐ場所です。今のご主人様の姿は、身体が存在しているわけではなく、魂がこの空間の力により具現化しているだけです。」

ちらちらカンペを見ているのは抜きにして、今までの愛嬌が嘘かと思うくらいの真面目な顔で僕を見つめる。

ご理解いただけましたか、とまっすぐな目で言う彼女に気押されて、首を縦に振ることしかできなかった。

すると女の人はにこっと、優しい笑顔を見せた。

「ではでは、説明も終わったことですし。ご主人様には次なる世界へ行ってもらいましょー!」

女の人は、何やら聞いたことのない言葉を、ぶつぶつと唱え、手元に光を作り出し始める。なんだか嫌な予感がして、僕は気になっていることをぶつけた。

「あの、次なる世界ってことは、赤ちゃんになるってことなのか?」

作り出した野球ボールくらいの光を維持しながらも、素早く僕の質問に答える。

「いいえ、あくまでご主人様はまだ生きれるはずだった命を生きつくしていただく、ってことですので、十一歳からのスタートになります。」

他に質問はありませんか、と僕に聞いている間にも光はどんどん大きくなっていく。僕は慌てて女の人に聞く。

「僕は、どの世界に行くの?見た目とかは変わらない感じ?」

「ご主人様は今までいた世界とは別の世界に行ってもらいます。異世界転生ってやつです。言葉は通じるのでご安心を。見た目は……好きな感じにしていいですよ。私からのサービスです。」

そういって光はそのまま、僕をじろじろと見つめる。

「ご主人様は背が低いですね。148cmくらいか……。背を高くしときましょう!後は、顔をスマートにしときます!」

満面の笑みで、僕の方を向いてくる。

え、と僕はつまり不細工ってことか……。

「あ、いえ、そんなことはございません!ただ、ご主人様が気にされてるかもって思いまして!」

やっぱ、気にしそうなくらい不細工なのか。トホホホ……。

「あぁ、いけない!もう時間です!最後に神様からのプレゼントで、強力な『何にでも挑戦』スキルをあげます。」

そういうと女の人は、大玉サイズ以上の光を僕に投げてくる。

「何にでも挑戦」って何だか雑魚スキルって感じが否めない、なんて何晏が得ている僕の周りを光が包み込む。僕を励ますような女の人の声が、途切れ途切れに聞こえてくる。

僕はやっとあの世界から解放される。いじめられて最悪だったあそこから解放される。嬉しさでいっぱいだった。

あ、聞き忘れてたことがある。届くかわからないが、僕はできる限りの大きな声をあげる。

「あの、お名前はなんていうんですかー!」

いよいよ光が強が鼓膜を貫く。

そして辺りが最大級の大きな光に包まれ、何も分からなくなった。







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