ユウキくんの妖怪たち~ご神木をぐるりと廻ると妖怪の世界へ
横浜流人
第1話 カラス天狗の、てんてん と仲間たち
僕の名前は、勇樹(ユウキ)、小学5年生。
東京都内の小学校から、この地区の小学校に転校して来た。
ここは、東京多摩、武蔵野の森の中、僕たち家族は、この地の、いわゆるマンモス団地に住むことになった。今日、引っ越して来たばかり。ここには古代からの森が広く残されている。緑多い、自然豊かな所で、ママは、僕を住まわせたかったようだ。
このマンモス団地の周りの森には、川が通っている。川は、コンクリートで造られてはいない、昔からの、大地を
様々な樹木、花々、虫や鳥達、人間などの生き物、それに化け物、怪物、あらゆるものを、太古の昔から受け入れてきたのだ。などと、この森の近くの、畑のある家に住んでいる、僕のお爺ちゃんに、聞いたことがある。
僕は、新しく自分に割り当てられた部屋に
僕は、その木の有る所に行ってみたくなった。
「ねえ、森の中、少し散歩して来てイイ?」
お父さんからは、
「あまり、遠くに行ってはダメだぞ。まだ、知らない所なんだから」
と、気を付けるよう言われた。
「分かった。すぐそこの、大きな木の所まで行って来るだけ」
ママは、
「気を付けて、あと、スマホ持って行きなさい!」
と、お父さんの言葉に、付け加えた。
「ハ~イ」
と言って、僕は、お父さんもママも、引っ越しの荷物の整理をしているなか、この家を飛び出した。そして、森の一番高い木に向って歩き始めたのだ。森の中を歩くなんて、家族で行ったキャンプ以来のことで、少し、ワクワクしている。大きな木には、意外と早く着いた。大きな木は、ご神木らしく、木の根元近くに、しめ縄が回されている。この樹の周辺を眺めると、小さな、お
僕は、ふと、周りの木々を仰ぎ見た時、僕ぐらいの大きさの白い物が、木の上の方の枝に居て、サッと姿を消したように思えた。それから、近くの小川に目をやると、そこには、僕位の背格好の河童?が、二人?二匹?川でキュウリを洗って食べている姿が、目に入ったのだ。一人?一匹?の河童のギロリとした黄色い目と、僕は、目が合った。その次の瞬間!彼らは、近くの茂みに逃げ込んだのだ。これは、錯覚ではない。僕は、しっかり見たし、それに、目まで合わせたのだから。
今は、シンとした森の中。僕は、何物かの視線を感じて、背筋が寒くなっている。
僕は、ご神木を一回りして、お社に一礼して、元来た道を帰ることにした。ご神木を、廻った時、何か周りの景色が、ボヤっと歪んだ気がしたけれど、疲れか?と思った。疲れるようなことは、何一つ、していないのだけど。確か、此処のご神木に来た時にも、同じような感じがしたのを覚えている。
団地に帰ると、ママが、河童のような、小父さんと挨拶を交わしていた。小父さんは、青い作業服のような物を着て、頭にその服と、おそろいの様な帽子を被っている。背は、僕ぐらいで低い方だが、巨漢に思えた。ママも小父さんも、頭をペコペコ下げて挨拶をしている。小父さんは、5~6本のキュウリをママに渡していた。貰い物なのだろう、ママが頭を下げて受け取っていた。小父さんの手には、僕の家、ママが用意した引っ越しご挨拶の洋菓子の包が握られていたのだった。
引っ越しの挨拶か。しかし、あの小父さん、薄目で微笑んでいると分からないが、たまに見開いた目は、森で会った河童のような目をしている。僕は、知らん顔して部屋に入る訳にも行かず、ママの背中に隠れる様に近づいた。
「あ、ユウキ!森から帰ってきたの。こちら、この団地の管理人さん。ご挨拶しなさい」
と、前に突きだされた。
「あの、ユウキです。宜しくお願い致します」
と、一応、僕は頭を下げて、窺う様に小父さんを上目遣いに見た。小父さんと合わせた目は、森で見た河童と同じだ。口には黒いマスクをしているけれど、マスクを採れば、きっと
ママは、
「それでは、今後、よろしくお願いいたします」
と小父さんに軽く頭を下げて、僕を部屋に
次の日、僕は、新しく転校した小学校に母さんと行って、挨拶とか教科書の受け取りとか、用事を済ませに行った。
学校の教室の入口に傘立てが有って、数本?数匹のカラ傘お化けが、刺さって立っていたのだ。僕は、驚き震えたが、ママは、全然、気にしていない。どうやら、ママには、普通の置き傘にしか見えていないようだ。職員室から、校長室に案内されたが、校長先生は、赤鬼の様な人?で、担任の若い女の先生は、少し首が長い。時々、伸びた首を、両手で戻している。教室で、皆に紹介された時、教室には、化け猫の様な女の子、ひとつ目小僧や、小鬼、河童の子がいた。人の子供の中に紛れている。だけど、誰も気づいてないようなのだ。僕だけが、見えているのか?
それから数日後、連休を挟んで、次の週からは、僕は、学校に行くのが、面倒になってしまった。というか、妖怪が怖かったし、また、前の学校と同じようなことになるのが、怖かったのだ。複数人からの暴力には、対抗できない。友達と思っていたのに、裏切られる。まだ、何も起こっていないのに、結局、僕は、前と同じように部屋に
ゲームを長時間、やり続けたり、マンガを読んでばかりしていると、目が悪くなる!とお父さんから言われたことがある。たまには、遠くの自然、緑をじっと見ることが視力低下を防ぐのだそうだ。だから今、僕は、窓の外を眺めている。
先ほどから僕は、何か?外から見られている様な視線を感じていた。誰かに見られているような・・・・・・
そんな気がしているのだ。
ここは、5階建て棟の4階である。
「そんなバカな?誰が?」
まずは、向かいの棟の窓を見渡してみた。誰も、こちらを見ている姿はない。そして次に、目の前の森の中の高い木のてっぺんに、目をやった。
「いた!」
僕と同じくらいの子供ではあるが、着ている物は、白い、修験者(しゅげんしゃ)、行者のような羽織(はおり)と袴(はかま)である。顔は鼻が異常に長く、目は大きく、そして吊りあがり、黒い色の、嘴(くちばし)?のようなマスク?をしている?背中には鳥の怪獣のような巨大な白い羽があった。
「カラス天狗の子供?」
と僕は思った。何かのマンガか、ゲームで見たことがある気がしたのだ。
僕は彼と目が合った!と思った瞬間、彼は、姿を消していた。森を、くまなく眺め回してみたが、
次の日も、僕はまた、彼を見かけたのである。今度は向かいの
僕は、彼と目があった。
次の瞬間、やはり昨日と同じく、彼は姿を消してた。
彼は、何を見ていたのだろう?自分のことだったよな?と僕は思う。
僕は、
巣に連れて行かれて、食い殺されるのでは?と思うのである。
次の日も僕は彼を見かけた。本物のカラスと一緒に、近くの電線の上に止まっていた。下駄履きなのに、器用に電線に止まっている。そして、また、僕は彼と目があった。
次の瞬間、今度は、彼は僕の部屋の前のベランダに素早く飛んできたのだ。
僕は、心臓が止まるか?と思うほど驚いた。
そして、お互いに目を見開いて、僕たちは、窓ガラスを挟んで見つめ合うことになった。
僕は、恐る恐る、窓を開くと、彼は、ニコッと笑い、うつむきながら自己紹介を始めたのだ。
日本語だ!よかった。話せば分かる。
僕は逃げようにも、色々な思いが頭の中を駆け巡り、身体が動かなくなっていた。いつも、ここにズ~っと座って居るから、自分の身体に根でも生えたのか?と思ったくらいだ。
「僕の名前は、てんてん、少し前から、この森に住んでいるの。君たち人間は、僕らのことをカラス天狗と昔から呼んでいるらしいね?」
そして、次は僕の番である。
「僕の名前は、ユウキ。小学5年生。少し前に、この地域の小学校に転校して来たんだ」
それから毎日のように、彼は僕の部屋の前のベランダに現れるようになった。こうして、僕たちは、友達になり、僕の部屋で、一緒にゲームをしたり、話をしたりするようになったのである。
ある時、てんてんから、この森には、色々な友達がいることを聞いた。
「今度、カッパの萬ちゃん、紹介するよ。多分、ユウキ君と同じ小学校に行っていると思うけど」
「エッ?」
と、僕は声を出したのだけれど、それ以上、何と言って良いのか?分からなかった。
河童(かっぱ)の萬(まん)ちゃんは、小学5年生。背格好は、同級生とくらべれば中肉中背、ほぼ普通。頭のお皿は、ウィッグ(かつら)で隠して、中に保湿剤を入れている。河童は、頭のお皿が乾くと致命的な打撃となると言われている。嘴(くちばし)は、黒いマスクで覆い隠し、背中の甲羅は、大き目の服に自然に隠れている。
河童族は、日本の鎌倉時代から、人の世界に潜り込んでいたらしい。体長が、子供くらいまでは、変装して人の子供達の中に紛れている事が多い。河童は、日本では
カッパの萬ちゃんは、玉川中流から武蔵野森の上水あたりに移り住んだそうだ。そこで、カラス天狗のてんてんと知り合ったのでした。
ある日、てんてんは、僕を外に誘ったのだった。
「電車を乗り継いで、森の近くの湖に行こうよ。湖岸に居るだけで気持ちいいよ⁉」
僕は、電車を乗り継いで、多摩湖という人口湖に行くことになった。観光名所らしい。大正から昭和初期にかけて、東京の飲み水確保の為につくられたダム湖だそうだ。湖の底には、川沿いにあった村が沈んでいると言われている。
てんてんは、電車の中の席には座らない。電車の屋根の上に寝っ転がっているし、あちこちに飛び移ったりしている。そうこうして、僕達は、多摩湖に着いた。
綺麗な景色だ!湖岸で
もうすぐ、陽が落ちる夕暮れ前、僕は、ボーっとしていたが、ふと隣を見てゾッとした。そこには、見たことも無い、いいや、漫画の世界、ゲームの世界では見たことがあるかもしれない、子泣き爺の様な、お地蔵さんの様な
僕は驚いて、一瞬、叫びそうになった。
「こんにちわ?いい眺めじゃろ?」
と、そのお地蔵さんの様な小父さんは、微笑みながら僕に話しかけてきた。
「君には、ワシらが見えるんじゃな?」
お地蔵さんの様な小父さんは、質問のような感じで、独り言のように
「多摩の森には、大きなケヤキの木が有るじゃろ。その木を中心に、昔、
日照り坊の小父さんは、僕を、足から、頭まで眺めて、
「ワシら、古代からいる物より、凄い力じゃよ」
と、僕に言った。また、湖面を見つめながら続ける。
「ここには、色んな悲しい運命を背負っている妖怪?とよばれる者が居るんじゃヨ」
などと呟き、僕とは反対側を向いて顎で示した。そこには、湖から上がって来たであろう河童の子供が居て、それに大蛇がいた。
河童が、にこやかに口を開いた。
「僕たち、コノ湖の底に沈んだ村に住んでいるの。僕の名前は、萬(まん)、カラス天狗のてんてんの友達」
そして、お地蔵さんの様な小父さんは、静かに語り始めた。
「ワシは、昔から人々に、日照坊(ひでりぼう)と呼ばれておる。大昔、ここには大日如来(だいにちにょらい)様でもある、大神様、その分身で
「神社は、今では湖の底に沈んでしまったが、ワシは、この辺の子供を、千人以上、石の地蔵に変えたかのう・・・・・・」
日照坊(ひでりぼう)の小父さんは、しみじみとハナシを続けた。
「アマテラス様は、気分屋、お天気屋さんで、急に天に帰られ、ワシはここに残された。それからは、ワシは、地蔵を作る必要もなくなった。アッ、それから、こちらの大きな蛇は土蛇(つちへび)様じゃ」
と、カッパの萬ちゃんの横に鎮座している大きな蛇の怪物を紹介してくれた。
「大人しくて優しいのに、見た目で誤解されておる。ワシが地蔵にしてしまった子供たちは、(全てこの土蛇が
タマコチラは、僕の方に顔を向け、コクリと挨拶をしてくれたような感じ。
(優しい神様・・・、なんだ)
と、僕も、頭を下げて挨拶をした。
タマコチラ、土蛇様は、僕の方に顔をス~ッと近づけて来て、長い舌で僕の顔を舐めた。それから、ニコっとした気がする。その後、スルスルと湖の中に静かに消えて行ったのだ。僕の顔には、まだ、タマコチラの生ぬるい舌の感触が残っている。
日照坊さんは、タマコチラの去って行った湖面を眺めながら、微笑みながら、静かに誰にでもなく言った。
「珍しいのう?土蛇様が人前に出てくるとは・・・・・・」
「ワシのせいで、人々に誤解され神社に埋められてことから、人嫌いになられておったが」
そう呟く日照坊さんの横で、カッパの萬ちゃんは、うんうん、と頷いて湖面を眺めていた。
カッパの萬ちゃんは、この多摩湖の底に沈んだ村に来る前に、多摩の森で、てんてんと知り合いました。多摩の森の中で、好物のキュウリを川で洗って食べていたところ、そこへ、カラス天狗のてんてんが、森の木の上から、萬ちゃんの所に、舞い降りました。カラス天狗のてんてんは、高尾の山から、この森へ移り住んで来たばかり。
カラス天狗の子供?だ。
びっくりしたカッパの萬ちゃんは、腰を抜かしてしまいました。カラス天狗のてんてんは、萬ちゃんの手に持っているキュウリを指さして、
「それ、美味しいの?」
と不思議そうな顔で萬ちゃんを見つめ、聞きました。
萬ちゃんは、少しオドオドしながら、てんてんに話します。
「うん、キュウリは、僕たち
「君は天狗様?僕たちを食べるの?」
と、恐る恐る聞いたのです。
てんてんは、びっくりしたように、
「え?君を食べる⁉そんなの聞いたこともないよ。僕はカラス天狗の子供で、名前は、てんてん。高尾の山からこの森に、最近、
と言って、こうして、二人は友達になったのです。その後、河童の萬ちゃん達は、森を去り、湖の底に沈んだ村に移り住んだのでした。
カラス天狗のてんてんは、よく、湖のカッパの萬ちゃんを訪ねて、遊んでいました。そのうち、湖に住む、日照坊や、タマコチラとも友達になったと言います。
多摩湖に行ってから数日後の、ある日、てんてんは、顔から、腕、足とアザだらけで、いつも真っ白な装束はスス汚れた姿で僕の前に現れたのです。
驚愕である!
西洋から来た妖怪たちが、森に点在している焼却場に爆薬をしかけ、この森を大火事にして、周辺の住民を焼き尽くす計画だ!と、カラス天狗は情報をつかみ、みんなで分担して、焼却場の幾つかの煙突の上に立ち、監視をしていたらしい。
それがワナだった。
カラス天狗ら一族が、焼却場の煙突の上に集まっていたところを、煙突が爆破されてしまったのだ。
てんてんのお父さんは、カラス天狗の集団の首長らしい。カラス天狗の皆にテキパキと指示を出し、軽傷な者達で、隊をたてなおした。そして、森に潜む西洋妖怪の隠れ家に向かって行ったのである。
ドラキュラ、魔女、狼男ガ居るという。
僕は、出来るだけ多くの天狗の救護にあたった。
その後、てんてんと僕は、多摩湖に急いだ。
湖畔の木の枝から、気絶したタマコチラが吊るされていた。
木の根元には、日照坊が、石の地蔵になって、頭を割られて座り込んでいる。それをカッパの萬ちゃんが、泣きながら手当をしている。湖畔には、悲しそうに萬ちゃんの姿を眺めている傷ついた河童一族の姿が並んでおり、ヤラレタ感が漂っている。
河童たちの話では、こうだ。
この日の昼、何処からともなく、女性の綺麗な歌声が聞こえてきたのだと言う。金色の長い髪の女性が、湖畔の公園で歌っていた。その美しい歌声に、近くで散歩や、サイクリング、ジョギングをしていた人々が吸い寄せられるように集まって来たらしい。そこで、歌っていた、その女性は、急に妖怪に変貌し、皆を食い始めたのだという。日照り坊、タマコチラは、その妖怪と戦った。しかし、そこへ、髪の毛が蛇の魔女が現れて、残っている皆を、石に変えてしまい、大きなハンマーを振り回して、叩き割り出したのだ。日照り坊も一撃を喰らったが、タマコチラが、追撃をうける前に助けてくれたのだと言う。カッパの萬ちゃんは、日照り坊を介抱していた。多摩湖の河童一族の反撃で、西洋の妖怪たちは、一応、退散したが、こちらは
西洋から来た妖怪たちが、人類を滅亡させようとしている、との情報は本当であった。
ヨーロッパの深い森に潜む妖怪と、地中海の太古からの魔人たちが、西は南アメリカから、そして東は、この日本から、両方から人類を絶滅させていく計画だという。
てんてん達のテングの一族は、この広大な武蔵野の森を、玉川上水沿いに西洋妖怪を退治しながら都心へ向かう予定だと言う。そして、河童一族が、都心から、西洋妖怪や魔女を退治しながら北上し、井之頭公園あたりで、天狗一族と合流する計画であるらしい。
去り行くカラス天狗の一隊は、ユウキに深々と頭を下げて感謝の意を示した。
振り返り、ユウキを悲しそうに、寂しそうに見つめる てんてん。
僕は、戦いがいつ終わるのかを知らない。何時またてんてんに会えるのかも分からない。
てんてんが、戦っている所に出くわしたなら、しっかり助けられるようになっておこうと思う。色んな、運動、勉強、とにかく役に立つようにしておく。
ユウキくんの妖怪たち~ご神木をぐるりと廻ると妖怪の世界へ 横浜流人 @yokobamart
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