第20話 晩御飯前のひと時
「んっ………」
いつもとは違う、背中に感じるごつごつとした感触。手を出そうにも、袋状のものに包まれているからか、そのまま手を上げることがかなわない。
あれ、今どこにいるんだっけ?
そんなことを思いながら、億劫に感じる瞼を気合で持ち上げれば、何やらいつもとは違うペラペラの天井が。
「んーー、あー。そっか、キャンプしに来てたのか」
そこまでつぶやいて、やっと現状を把握した僕はモゾモゾと寝袋の中で寝返りを打って二度寝の準備をする。その際、カサカサとビニール生地のこすれる音が、なんとも心地よい。
どうでもいいが、皆さんはキャンプの際にはエアーマットを使用されるのだろうか?それとも、安心と快適を両立した、インフレータブル?壊れにくさと手軽さNo1の、クローズドセル(フォーム)マットだろうか?
ちなみに僕は、鬼のクローズドセルマット派閥である。手軽かつ壊れない。最悪の場合、銀マットで代用可能というこの強み。最近は、インフレータブルマットもエアーマットも激安なものがあふれているので、正直昔ほど値段さは激しくない。だが、入手性の高さと、利便性、安心・安全なところなど。そうした観点から、僕は圧倒的に、クローズドセルマットを利用している。
自分の体質とキャンプスタイルに合ったマットをきちんと選択できれば、睡眠の質は十二分に確保できる。貧乏性な僕には、このクローズドセルマットがちょうどよかっただけ。
「あっ、神崎君。おはよ~」
「んっ?あぁ、天道先輩。おはようございます」
テントから這い出ると、僕のテントの横に設置されたテントから天道先輩が声をかけてくれた。テーブルとイス、それに小さなコンテナBOXを一つ外に出しており、自分のスペースをしっかりと確保していた。
結局、僕のテントの横に張ったんだな。今日は他に誰もいないから、もっと広く使ってもよかったのに。本人がそれでいいなら、問題ないけど。
「ぐっすり眠ってたねぇ~。しっかり眠れてるの?」
「あはは。最近はそうですね、ちょっと寝不足気味ですね」
「睡眠不足はだめだよ~」
ふざけた様子で、しかし母親のようにピシッと指を差して先輩は僕に注意を促す。
「確かにそうですね。注意します」
「うん、がんばろうね」
とはいえ、せっかくの休日なのだから自分の家でぐぅたらするのが個人的に最高なのだ、昨日は、今日のキャンプ場に乗り入れがかなり速かったので、あらかじめ昼寝はする予定だったんだ。
あっ、今何時だろ?太陽こそまだ沈んでいないが、場所さえよければきれいな夕焼けが拝めそうだ。それが確信できるほど、現在お空は真っ赤に染め上げられていた。
先輩も晩御飯の料理の支度に入っているし、そこそこいい時間になってると思うんだよな。
「今は、もうすぐで18:45分目前だよ」
「えっ?もうそんな時間なんですか?すみません、思いっきり寝坊ですね」
「気にしないでいいよ」と言いながら、先輩はテキパキと食材を調理する準備を続けていく。
晩御飯の時間はざっくり19:00と決めていたので、さすがにこれは不味い。
「僕のほうも、すぐに準備しますね」
「ゆっくりでいいのに。夜は長いんだからさぁ」
「ありがとうございます」
天道先輩のやさしさに甘えつつ、自分の買い込んだ食材たちを調理するために準備していく。とはいえ、僕が持っているのはアルミ製のクッカーセット一つなんだけどね。
「神崎君は、今日の晩御飯はどんな感じにする予定なの?」
「僕はそこまで料理が上手ではないので、簡単に済ませますよ。天道先輩はどうするんですか?」
言いながら、僕は天道先輩の手元を盗み見る。
そこには、かなりの材料が切り刻まれており、後は火を通して調理されるのを待っている状態の食材たちがゴロゴロと。
一口大にカットされた鶏肉や、あえて切らずにとってあるヒレ肉。少し太めに切られたキャベツの千切りに、薬味の数々。がっつりお肉系の準備が整っている一方で、既にサラダは一品盛り付けが完了されていた。横を見れば、いくつかの調味料が作られているのが分かるので、結構本気で料理しているようだ。
「私は見ての通り、ご飯を楽しんでるよ。といっても、まだサラダしかできてないんだけどね。これから、このメインディッシュに火を入れていく予定なの。材料は少し多めに用意してるから、遠慮なく一緒に楽しもうね」
「先輩料理好きなんですね。僕のなんちゃって料理とは違って、高級そうなものができそうですね」
いやほんと、完璧超人様様って感じだよね。手際を見ている感じ、料理も苦手ではないようだし。というか、料理ではなく「ご飯を楽しんでいる」と言っていたということは、この程度の料理は朝飯前ってこと?
「そんなことないよ、私が料理してもそんなに味なんて変わらないよ」
照れたように言いながらも、手を休めず先輩は作業を続ける。
そんな姿を見ながら、僕とはいろんな意味で比較できない人だなぁと、改めて自覚したのだった
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