先輩とのソロキャンプ

第19話 山奥の無料キャンプ場


 荒れた地面、整備されていない駐車場。誰かの親切でおいてある、スポンジに角にはゴミがたまった手洗い場。屋根なんて当たり前のようになくて、足元のコンクリもひび割れている。洗い場のタイルも、ところどころ破損しており、どことなく小学校を思い出す。

 辛うじてあるトイレも、出入り口にはやや砂が上がっておりトイレの中もキレイとは言い難い。男子トイレと女子トイレがあるが、男子トイレに至っては扉すらないので、つい立ての後ろに回れば丸見えだ。


 しかし、そんな人工物から目を逸らすように視線を遠くに向ければ、雄大な自然が姿を見せる。最高だ。山間部の峠道から、支線を渡って車で15分。すれ違いすらできないような、とても細く荒れた道を進めば、この自然を独り占めできる。


 ここからさらに崖のような道を下れば、2級河川がある。川はそこまで太くないが、流れが速いことが特徴。川の流れでそこにある岩は、多様な形に抉り取られており、その景色に目を奪われる。急流が作り出すその絵画は、行く度に変化がみられ毎回楽しみにしていることの一つだ。


 肝心のテントスペースだが、こちらも凄まじい荒れようだ。机や椅子が備え付けられていないことは勿論、テントサイトを区切るようなロープもない。直火はNGであるキャンプ場なので、灰置きが設置されている。これが唯一の人工物だが、灰置きと言ってもただの箱だ。出入口となっている場所の通行さえ邪魔しなければ、好きなようにテントを貼る事が出来る。


 さて、そんな荒れ果てた土地ともいえるような場所に、決して似合わない容姿のお方が一人。


「わぁ、こんなキャンプ場もあるんだねぇ~!!」


 そういって子供のようにはしゃいでいるのは、天道先輩だ。


 今日は、以前約束したソロキャンプ。僕が普段使っているキャンプ場に、二人で訪れていた。


「かなり荒れていますし、知っている人も少ないですからね。僕も、地元民以外で出会ったことはないですね」

「いいなぁ、そういうの。知る人ぞ知るキャンプ場って感じだね」

「みんな、せっかくキャンプするならもっと設備が充実している場所を選びますからね。それに、ここは立地も悪いですからね」


 立地に関しては、良い悪いというレベルではない。近くにはコンビニしかないが、そこまで片道45分。しかも、夜間営業はしていないため、もしも夜中に何かあれば1時間半の移動は覚悟しなければならない。

 しかも道路には明かりはないし、ところどころカーブミラーが折れていたり、ガードレールも歪んでいる。正直、夜中に運転はしたくない。


「確かにそうだね。ド田舎とは聞いていたし、説明されていたんだけどね。それでも、いざこうして実感すると驚くよね」

「そういうものですかね」

「そういうものだよ」


 ド田舎出身の身としては、このくらいの田舎は割と普通だったからなぁ。バスやタクシーが当たり前に当たり前にあるとは思ってほしくないね。都会の人や地方の人は、もっと自分の住んでいる場所がいかに優れた土地で、イベントに溢れていて、魅力的な場所なのか。それを自覚してほしいまである。


「それで?これからどうすればいいんですか?」

「さあ?好きなようにしたらいいんじゃないかな?」


 今の時刻は、14:30で、いつもキャンプするときは日暮れにキャンプ場に到着するのが恒例だから正直困った。

 キャンプって、何もすることないんだよなぁ。


 幸いにして何をしても良いと言われているし、晩御飯だけ一緒に食べていればOKだから、ここからは好きにさせてもらおう。


「じゃあ、僕はテントを建てようと思いますでのまた晩御飯の時にでも集まりましょう!」

「えっ?あっ、ああ、うん。わかったよ。それじゃあ、またね」


 先輩に声だけかけて、僕は自分のテントを張るために整地作業に入る。いつもだったら手抜きで終わらせるが、今日は日も登っているし何なら時間だって体力だってたくさんある。

 ゆっくり寝るためには、地面をきれいにして少しでも凹凸を減らすのがコツだよね。


「ふぅ、こんなものかな」


 テント場の整地作業を終わらせれば、焚火に使用する薪を探す作業の開始だ。生木を使用するため、ある程度小さいものを選んでくる必要がある。それに、僕の焚き火台はサイズが完全にソロ使用なので、大きな木を選んできても仕方ない。


 小さな焚き火台は、正直便利だけど調理をするために火力を出すと、常に薪をくべ続けないといけないのが問題点なんだよなぁ

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