第18話 ソロキャンプのお誘い
「ソロキャンプって、一人で行くものなのでは?」
よくわからないが、なんでかソロキャンプに誘われた。でも。ソロキャンプって一人で行って、帰宅するのがルールなのでは?
ほら、遠足だっていって無事に帰宅するまでが遠足でしょ?
「神崎君、極めてるねぇ~」
「何をですか?」
「え?ひとり遊び」
困惑している僕を他所に、天道先輩は少し楽しそうだ。むしろ、困っている僕を見て楽しんでるまである。
「いろいろと調べてみるとね、ソロキャンプ仲間で集まってソロキャンプすることもあるんだって。それで、私は完全ソロをしてる時にこのソロキャンプの集まりを発見したんだけど、現状知ってる人が君しかないの。それに、安心してソロキャンプに動向をお願いできる人も結構限られてくるしね」
「ソロキャンプ仲間ですか......」
ソロなのに仲間。ボッチなのに、仲間………きっと別の世界線で活動されている方々の話なんだろうな。うん、ボッチなのに親友がいるとか、趣味仲間は大量にいるとか。
そんなの、全然ボッチしてないじゃないか。なに?一世代前のラノベの主人公ですか?
「もしかして、本当に全然ピンと来てない感じかな?」
「はい、そうですね。ソロなのに、仲間って……どういうことですか?」
「そこからなのね.......」
僕の反応が演技ではなく、本当に知らないことを理解した先輩は一度深く呼吸をしてから、説明してくれた。
「簡単に言うと、ソロキャンプをする人たちで集まってキャンプするの。普段のソロキャンプをしながら、夕飯を一緒に食べたり、晩酌したり。でも、その参加や寝る時間、次の日の起床時間なんかはバラバラで、各々好きなように行動するの。私の持っているイメージだけど、共有できる時間は共有するけど、無理はしないし好きなようにするって感じかな」
「はぁ、なんとなくイメージはできますね」
うん、正直ソロキャンプを好んで行うようなメンバーが集まったところで、そんな感じになるだろう。何なら、晩御飯すら一人で食べるから、近くに似たようなソロキャンプをしている人がいるだけ。そんな感覚でも、キャンプができるかもしれない。
「伝わってよかったよ。でも、何がそんなに不思議なの?」
「いえ、単純に一匹狼なのにどうやってその仲間を発掘していくのかなと。僕のような、正真正銘のボッチにはわからないなぁと思いました」
僕の素直な気持ちを伝えると、先輩はキョトンとした表情を浮かべた。次いで、「あははっ」とこれまた声を上げて楽しそうに笑う。
ん?僕は回答をミスしてしまったのか?そんなおかしなことを言った覚えはないんだけど。
「え、そんな変なこと言いましたかね?」
「いや、だってね?神崎君」
「はい」
かしこまって言い直す天道先輩だが、いったいどうしたというのだろうか?思わず僕も姿勢を正して、先輩の次の言葉に神経を集中させた。
「私、君が不思議がっているそのソロキャンプ仲間に誘っているんだよ?どれだけ君が孤独だ、一人だ、ソロだ。そう思っていても、きっとどこかで誰かとつながってるんだよ。今の君のように。そうして、そんな人から声を掛けられるんだよ」
「っ!!」
まるで迷子になった子供に、行く先を照らし示すかのように先輩はそう言った。
孤独でも、誰かとつながっている。確かにそうだ。人間はどう頑張っても完全ソロでは生きていけないし、会社に勤めている時点で僕だって多少なりとも繋がりができている。大事なのは、自分の環境を冷静に判断して、自分を見つめること......か。
ソロ、一人、ボッチ。そんな言葉にとらわれて、一方的に固定概念を植え付けて。自分を卑下し続けていたのは、ほかでもない僕だったのか。
「そんなに驚くことでも、考え直すことでもないよ。あたり前なことで、意外と見落としやすい事実なの」
「そう、ですね。僕は、ソロと言っている時点で孤高でほかの人が入る空間がないような。本当に、孤独でなければならないと思っていたのですが、確かにその必要はないですよね」
孤高である事と、孤独であることは全く違う。独りであることと、一人であることが全然違うように。
もっと柔軟に、無駄な固定概念や思い込みをなくして考えてみるべきだった。
「神崎君って、本当に素直だよね。それに、わかりやすいね」
「わかりやすいと言われたのは初めてです」
「そうかな?だって、君は人の意見を素直に聞けて、自分の中で消化できる子でしょ?それに、自分の意見も持ってるから何かあれば正直に話してくれる。表情も、聞いていたより、何倍も豊かで人間味があるよ」
「そうですか」
僕の呟きに、「ええ、そうよ」と天道先輩は相槌を打ってくれた。
改めて、天道先輩はそのきれいで小さな手を僕に向けて差し出した。
「そうなの。それで、かなり話はそれてしまったのだけど、ソロキャンプ。どうかしら?」
改めてそう問いかけてくる先輩に対して、僕が言えることなんて一つしかなかった。もともと、断る理由なんて特になかったのだし。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
そういって、僕は天道先輩の手を取るのだった。
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