第16話 先輩とソロキャンプ-3
天道先輩としばらく会話を進め、前回のソロキャンプ反省会が終わったころ。先輩のファンというか、取り巻きというか。
そんな感じで面倒な輩が、こちらをチラチラと確認しながら声をかけるタイミングを伺っているようだった。
「さて、それじゃあ仕事に戻りましょうか」
「そうですね。ありがとうございます」
注目を浴びることに慣れていない自分とは違い、ある程度慣れている先輩が気を使って休憩を切り上げてくれた。
「こればっかりは、私も慣れないから仕方ないよ。私のほうこそ、巻き込む形にしちゃって、本当にごめんね」
「それに関しては先輩が誤る必要はないですよ。僕もある程度は覚悟していたのですが、経験値不足で......申し訳ないです」
いや、できればこれくらいの注目気にしない人間になりたいんだけど。さすがに無理。できるだけ意識しないようにしていたが、正直精神的に辛い所はあるし。
これにこれまでずっと一人で耐えてきたであろう先輩はすごいな。
「?.......ふふっ、そんな言い方をされたのは初めてだよ」
「そうなんですか?でも、実際問題こればかりは先輩が悪いのではなく、周囲の対応が悪いんですから。先輩が気に病むことはないですよ。むしろ訴えてもいいレベル」
「あははっ!!神崎君は、今まで出会った人と考え方が全く違うねっ!」
天道先輩は面白そうに笑いながら、荷物を持って歩き始めた。その歩みは、ここに休憩しに来た時と同じようにとても軽やかなものでまるで彼女の気分を示しているようだった。
「さて、今日はこれで終業ね」
「そうですね。今日もお疲れさまでした」
あの後も、テンション高めな天道先輩はいつも以上のハイペースで仕事を片付けた。その集中力を維持したまま、数日分の仕事を終わらせた。
何がどうやればそこまで集中力を維持できるのか。今日は天道先輩の仕事量を減らさないようにすることが大変だった。
「それでは先輩、また明日です。失礼しますね」
「あっ、ちょっとまって!」
「はい?」
少し焦った様子で天道先輩は僕に静止の声をかけた。いったいどうしたのだろうか?
「あのね、神崎君。今日この後、時間あるかしら?」
「えっと、時間はありますが。何か不手際がありましたか?」
「ふふっ、そんなことはないから安心していいわよ」
何が面白かったのか、微笑みを浮かべながら天道先輩はそう言った。視線を彷徨わせた後、一呼吸おいてから先輩は口を開いた。
「その、前のキャンプについてまだまだ語り足りないところが多くてね。それに相談したいこととか結構あるの。だから、その......今日晩御飯一緒にどうかなって思って」
「晩御飯ですか......」
夕飯かぁ。会社の先輩と晩御飯を食べに行くなんて初めての体験だし、それが天道先輩とか難易度高いな。幸いにして話題が予め分かっているのが利点だが。
というかそもそも僕は食べ歩きとかしないから美味しいお店なんてわからないんだけど、大丈夫だろうか?いや、ここはいったん断るべきでは?
「いや、別に時間がなければいいんだけどね。神崎君も用事があると思うし空いてる日時を教えて貰えれば合わせるけど。それとっ!」
僕が考え込んでいると、天道先輩は何やら焦った様子で言葉を並び立てていた。
もしかして、断ろうとしていると勘違いされた?確かに悩んではいたけど、断る理由は先輩の面子だけだったからなぁ。
「先輩にご迷惑でなければ、ご一緒させていただきますよ」
「ホントっ!?それじゃあ、17:25分に正門でどうかしら?」
「了解です」
25分に正門ってことは、少しゆっくりめな時間配分だな。着替えて、トイレに駆け込んで少し身なりを整えるくらいの時間はあるか。
まぁ、僕ごときが少し着飾ったところで、誤差の範疇なのだが。最低限のマナーは守れる男でありたい............と思う。
「こうして来てみたはいいけど、移動方法はどうするといいのかな?」
僕は徒歩で通勤しているからだけど、天道先輩も徒歩だった場合近場のお店。先輩が車だったら、どこにでも行けるけどこれだと申し訳なさ過ぎて、心が痛いし。
「う~~ん、どうするべきか」
「何に悩んでるのかなっ、神崎君」
「えっ?」
悩んでいると、後ろから天道先輩が。全く気が付かなかった。
考えすぎはよくないなと思いつつ、先輩の方へ振り向いて固まった。
そこにいたのは、いつもと様変わりした先輩が。黒を基調としたシャツに、白いズボン。シャツは胸元にワンポイントでアクセントがついていて、キラリと輝くシルバーのネックレス。
自分の語彙力が皆無で悲しいけど、自分の魅力の引き出し方というか。自分の魅せ方を理解していると感じる......これがセンスというものだろう。
「どうしたの?神崎君」
「すみません、何でもないです。ただ、いつもの雰囲気と違ったので、驚いていました」
先輩はキョトンとした表情を浮かべた後、口元に手を当ててにやりと笑うと一言。
「もしかして、私に見ほれちゃったな?」
「そうですね、すみません」
「まぁ、仕方ないよ。そればっかりは」
そういってどこか悲しげに微笑んだ先輩は、「それじゃあ、行こうか」と言って駐車場のほうに向かって一人歩き出した。
そんな先輩の後ろを、「ちょっと待ってくださいよ」と声をあげながら、僕は必死になって追いかけるのだった。
なんだか、今すぐにでも追いかけないと先輩が消えてしまいそうな気がして。
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