第15話 先輩とソロキャンプ-2

「それでね神崎君、私は今回のソロキャンプを通して見つけたことがあるの」

「そうなんですね。ちなみにその発見の内容を聞いてもいいですか?」


 普段の僕じゃあ、絶対に口にしないようなことを質問してみる。先輩は僕に話を聞いてほしくて、こんな場所に呼び出しているんだろうし。

 何より、奢ってもらっているからな。


「ソロキャンプって、私が思っていたことよりもだいぶ奥が深いなって感じたの」

「グルキャンとは、また違った魅力がありますからね」

「そうなのっ!!グループキャンプだと、基本的に暇になることって少ないのよね。だけど、一人だと結構暇だし、寂しく感じることも、もちろんあったわ」

「へぇ~、そうなんですね」


 寂しく感じることがなかったので、よく分からない。暇になってしまうのは、とても理解できるんだけど。僕もキャンプに行ったら、4割以上は暇な時間といっても差し支えないだろうし。


「でも、その本当に解放された自由な時間をどう過ごすかって大事なのよね。なんていうのかしらね、今を全力で生きる。まさに、この一言に集約されていると思うの」

「今を全力で生きるですか.......」


 なんとも、僕のキャンプスタイルとはかけ離れたセリフだ。なんでも経験してみないと分からないが、同じような経験をしてこうも価値観が違う。


 だからこそ、人間は面白くて、理解することが難しいのだろう。


「ええ、自分の感じたままに、何も考えずに自分の直観に従って行動するの。普段の私には絶対にできないことだけど、後先考えないで自分のやりたいことを満喫するって、とても重要なことじゃない?もちろん、それで他人に迷惑をかける分けにはいかないけどね」

「,,,,,,確かにそうですね」


 他人に迷惑をかけてまで楽しもうとするのであれば、引きこもってほしい。アウトドアブームからか、何なのか知らないが、最低限のマナーは守りましょう。


 これ、大事ですね。


「ちなみに先輩は、どんな感じでソロキャンプを過ごされたんですか?」

「う~ん、あんまり自慢できることじゃないけどほとんど何もしなかったのよねぇ。はじめは、焚火してある程度は料理もするつもりだったんだけどね。結局、焚火も料理も適当にやって終わったのよね」


 言いながら先輩はコーヒーを一口。いったん喉を潤してから、つい先日の出来事なのに、昔の記憶をたどるように話し始めた。



「テントサイトについて、テント張るところまでは順調だったのよ。でもね、そのあと机広げて椅子をセットして。なんとなく、家から持ってきたインテリアを飾ってみたりして。自分がくつろげる、心安らぐ空間を構成したのよ。一番初めにね」

「はい」

「焚き火用の薪はホームセンターで購入しておいたから、キャンプ場では何も購入することなくてね。忘れ物の確認だけして、キャンプ場の散策をしてたの。多分、2時間くらい当てもなく彷徨っていたと思うわ。ゆっくりのんびり、時間を気にせず自然を満喫するって、本当にいい時間だったと思うわ」

「普段、時間だったり人間関係だったり。いろんなものに束縛されているからこそ、アウトドアの自由さって魅力ですよね」


 天道先輩の言い分は、痛いほど理解できた。登山するとき、キャンプするとき。よく言われるのが、一人でそんなことして何が楽しいのか。友達がいるから、楽しいのではないか?ということ。

 それは否定しないが、自分一人でのんびりと過ごすのも悪くはないと思う。何より、自分のために行動して自分のために考えて、自分のためだけにリソースを割ける。これほどまでに、贅沢なことって、そうそうないと僕は思う。


「ええ!!そうなのよ。私も久しぶりに時間を忘れてゆっくりしたんだけどね、いざテントまで戻ってきて、寝転ぶじゃない?そしたらさ、おなかが減っていることを除けば、心が満たされていてもう何でもいいなって思っちゃったのよねぇ」

「2時間も歩けば、そこそこ疲れますからね。足の疲労や日々の生活での疲労も蓄積されていたんじゃないですかね?」

「たぶんそうなのよねぇ」


 何度目かわからないが、天道先輩は本物の完璧超人だ。眉目秀麗、頭脳明晰、おまけに人当たりもいい。どうにか裏がないかと探してしまうが、どう頑張っても何も見つからない。

 最終的には、こうして普通に表面上は仲良くなっているしな。僕、チョロすぎだよね。


「で、その疲労感を満喫しているうちに太陽さんもお休みムードになって、やる気が終わったパターンですか?」

「いや、それが違うのよね。確かに、神崎君の言うようにお日様が沈んだ時はぐったりしてたんだけどね。でも、時間も遅くなるとお腹が空くじゃない?ご飯食べたくなって、調理道具広げたから思っちゃったの!」


 その時のことを今でも鮮明に覚えているのだろう。両手をパンっと合わせると、満面の笑みで先輩は言葉をつづけた。


「別に、袋ラーメンでいいんじゃないかなぁって」

「まぁ、無理におしゃれなご飯を作っても仕方ないですしね」

「ええ、だから手抜きで満足しちゃったのよね。材料だけはしっかり準備、保管しておいたし。野菜炒めラーメンにして終わっちゃったのよね~」


 言いながら先輩は再度、コーヒーに口をつけた。今度はそのまま、購入していたお菓子に手を伸ばしているあたり、ラーメンを思い出してしまったんだろう。


「家でアレンジして食べるラーメンとは、また違った味がしますよね。よく料理は愛情だなんだといいますが、結局はその空間が大事なんだって思います」

「やっぱりそうよね。自分に合った場所で、その場にあったコンディションで食べるご飯が一番おいしいわよねぇ~」


 それからしばらく、どんなご飯を作って食べるのか。調理器具はどんなものがあると便利なのか。そんな話題に花を咲かせることになった......


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