第14話 先輩とソロキャンプ-1
「神崎君っ!この間はいいキャンプ場を紹介してくれてありがとうね。早速行ってみたけど、結構いいところだったわ」
朝一番、天道先輩の口から発せられた言葉はそれだった。
どうやら、以前紹介したキャンプ場に早速向かったらしい。僕自身はそこまで利用した経験はなかったが、天道先輩が満足そうで何よりである。
「早速行かれたんですね。その様子ですと、特に問題もなかったようで安心しました」
「ええ、初のソロキャンプの場所としてはもってこいだったわ。まぁ、無事に終わったとはいいがたいのだけれどね」
そういって天道先輩は、あからさまに肩を落として見せた。まぁ、キャンプなんて思い通りにいかないことのほうが多いから仕方ないけど。
いったいどんな失敗をしたんだろう?
「その、差支えなければですが、どんなことで失敗したのかお聞きしても?」
「あー、うん。えっとね、その.......ガスバーナーの火でテントに穴をあけてしまったのよ」
「おおぅ」
それは、何だろう。テンションも結構下がるし、何より辛い。それに、言いずらいなぁ。
「それはフライシートのみですか?」
「ええ、幸いにしてインナーテントは無事だったし荷物とかで入り口から中を見えないようにできたからよかったんだけど」
その日一日耐えるだけならなんとかできたようだが、これからもまじめにキャンプをすることを考えるとあまりにつらい出来事である。
キャンプ道具では、テント・シュラフが本気で値段が高い。
「テントのメーカーなどによりますが、フライシートだけで購入とかもできますよ?先輩が使用しているのは、ドームテントでしたよね?」
「ええ。確かに、インナーテントが無事ならフライシートだけ購入すれば、まだまだ使うことができるわよね」
意外と忘れがちだが、国産メーカーのテントである程度人気があればフライシートのみの購入ができる場合もある。先輩から話を聞いてみると、国内ではメジャーなメーカーのテントであり、探してみるとフライシーとのみでの購入も可能だそうだ。
出費がかさんでしまうが、これでまた先輩もキャンプに行けるだろう。テントが無事に使えることを知れて、先輩もかなり嬉しそうだ。
「テントって、フライシートのみで購入できるものなのね。私、そういうのは登山用テントだけだと思っていたわ」
「確かに、数自体は少ないですからね。ただ、メーカーにお問い合わせをしてみて、交渉すれば送ってもらえる事もあるみたいですよ?又聞きしただけなので、本当かどうかはわからないですけど」
「へぇーそんなこともあるのね」なんて言いながら、先輩はpcを高速でタイピングしていく。見るまでもないが、きっと仕事関係のことではないんだろうな。
だって、いつもよりも3割増しで笑顔でタイピングしているもの。絶対、仕事をしている時に浮かべる表情じゃない。
結局、仕事を始めるまでに10分ほどの時間を要してしまった。今日のノルマが結構簡単で、ある程度時間が余ることをはじめから知っていなければ、こんなにゆっくりと会話なんてできなかったなぁ。
「さて、今日までに進めないといけない分はこれで終わりよね」
「そうですね。ついでに僕のほうで、こっちの資料作成も進めておいたんで確認の方をお願いしてもいいですか?」
主に資料を二人で作成、日程を組んで、アポイントメントの取得など。自分の資料を作る以外にも、天道先輩の仕事を手伝っていく。
課長曰く、「天道さんの仕事をなんでもいいから手伝え」とのことだったから、自分の本職をそっちのけでこうして仕事をしている。
こうしてみると、事務仕事も楽じゃないと思う。というか、自動化できることは多いし、面倒なことばかり。なんでこんな仕事に人件費を払っているのか、未だに不思議だ。
そんな愚痴を心の中で零しているときも、天道先輩の手は留まることを知らずに進んでいく。僕の作成した資料を眺めては修正しつつ、自分の仕事と照らし合わせて矛盾がないように確認していた。
ほんと、こうした姿を見ると超人だなと思う。三つの仕事を同時進行してるんだよね、天道先輩って。
「神崎君、休憩に行きましょうか」
「え?あっ、ハイ。わかりました」
しばらく作業を進め、天道先輩の作ったスケジュールと比べると、一日半ほど仕事を前倒しで進行で来ている。天道先輩としては、キャンプの時の話をまだまだしたかったのか、初めて休憩にお誘いされてしまった。
「今の作業が終わったらでいいから、教えてもらえます?」
「後、2分いただければ終わると思いますよ」
「進行速度がだいぶ早いから、そこまで急がなくてもいいわよ」
「ありがとうございます」
進行速度は確かに早いけど、それ以上に天道先輩の作業が早くて足を引っ張らないために必死である。それこそ、天道先輩に隠れて別れた後も自分で作業していたりするぐらいには。
それから、宣言通り2分以内に仕事を片付けて休憩を取りに移動を開始する。道中で、水筒を回収してから少し遠いが会社のフリースペースに移動する。売店も併設されているので、そこで各々ジュースや軽食を買っているようだった。
「へぇ、ここで休憩取れたり仕事できるんですね」
「ええ、事務職の人は結構このスペースで休憩とる人もいるわね。私は基本的に自分の机で休憩をとる方だから、使うことは少ないんだけどね」
「そうなんですね」
確かにこうしたスペースで天道先輩が休憩している姿は、想像はできる。でも、周囲からの視線が鬱陶しいだろうから、結局休憩にならないんだろうな。
美人で有能で、人気者。なるほど、日陰者には絶対に理解できない方面で苦労しているんだな。
「神崎君は、何を買う?仕事手伝って貰ってるし、いいことも教えてもらったし。なんでもおごるわよ」
「すみません、ではコレとコレをお願いします」
「了解したわ。先に、椅子を確保してもらっていいかしら?」
「承知です」
先輩にお菓子と炭酸の飲み物を一つ手渡して、僕は言われた通り椅子を確保市に向かった。
はじめは先輩に奢ってもらう感覚に慣れなかったが、断ったり遠慮したりするのが、かえってよくないと学んでからは遠慮しなくなった。とはいえ、僕が遠慮せずに正直に選ぶと大変なことになるので、そこは常識の範囲内でだが。
「はいこれっ、神崎君の分よね」
「ありがとうございます」
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