第8話 仕事と人間関係と息抜き

「それでは早速仕事内容に入らせていただきたいのですが、問題ありませんか?」

「自分としましても、そうしていただけると助かります。よろしくお願いします」


 先輩が話を進行してくれるスタイルみたいだから、それに乗っかる形で話をすることに。正直、何一つ理解できていないから助かる。


「それでは、神崎さんは今回の仕事の内容に関してですがどれくらい理解していますか?先ほどの反応を鑑みるに、話を聞いたばかりなのかなと見受けられたのですが」

「あっと、その今しがた課長に呼び出されまして。正直、企画があることとそのメンバーとして自分が選ばれていることも今知った感じですね。はい、すみません」


 ここではしっかりと課長を売っておこう。無理に見栄を張っても、自分の首を絞めて自滅する未来しか見えていないし......。企画の趣旨すら把握できない状態で話を進めることに何の意味もないしね。


「やはりそうですか」

「やはり、とは?」


 一体どういうことだ?そういう意味を込めて視線を送ると、天道先輩は小さくため息をこぼしながら僕に教えてくれた。


「この話自体、今日の朝に決まったことなんですよ。なのに、この時間帯ですでに会議をしているのです。私が自分の上司を通して企画の内容が周知されてから、いまだ30分しか経過していないんです。どう考えても異常です」

「なるほど、自分の連絡確認ミスなのかと心配していましたがそうではなかったのですね。よかったです」

「すみません、こちらの不手際でご迷惑をおかけしましたね」


 そういいながら先輩は今一度、深く頭を下げた。


「いえ、そんなことないですから。自分のほうも協力することに関しては吝かではありませんが、つまりまだ企画の詳細までは決まっていない段階で僕はインタビューのようなものにこたえていく感じになるのですか?」

「ええ、そうなりますね」


 確認をとると、なんとも言いにくそうに先輩は返事をしてくれた。その成端な顔つきをこれでもかと隠すように、目を逸らしながら。


「では、自由に質疑応答してもらう形で行きましょうか。社内電話を交換しておけば最悪電話で質疑応答ぐらいはできますからね。天道先輩も二度手間防げますしね」

「でも、それだと時間がかかりませんか?」


 まぁ、確かに時間がかかるし今回の話は全部パーになる可能性がある。それでも何度も呼び出しを食らうのも嫌だし、今後少なくともかかわりが出る人ならある程度人間性を把握しておきたい。

 全く未知の人とかかわるのは、正直つらい。


「自分のほうは今日は時間が余っているので問題ありません。なので、天道先輩のほうで時間が許す限り自由に質疑応答していただいて問題ありませんよ」

「わかりました。でしたら、私のほうが1時間ほどで別の会議の予定がありますので、それに合わせて終わる感じでいいですかね」

「了解しました。では、40分くらいを目途にやっていきましょう。今日はよろしくお願いしますね」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします」


 こうして僕と先輩のファーストコンタクトは、グダグダな感じになってしまったのであった。




 自分の仕事に対するモチベーションや、考え方。今仕事で意識していることなど、仕事に関係することを基本として休日の過ごし方など、結構ざっくばらんに質問をされた。

 それらに関して、正直に答えつつ気が付けば制限時間が来ており先輩は「今日はありがとうございました」と言って、自分の事務所に帰って行かれた。


 あんな仕事は絶対に自分にはできないんだけど、今回のこの企画。なんだか、嫌な予感しかしないんだよなぁ、というのが正直な感想である。


「おっ、神崎。天道さんとの会議は終わったのか?」


 会議室から出るとすぐに、課長と出会って声をかけられた。僕のほうに声をかけているのに、視線はチラホラと何かを探して彷徨っていた。

 あ~、うん。やっぱりそういうことなのね。


「ええ、今しがた終わりました。天道先輩は何やら次の会議があるとのことで、少し前に出ていかれましたよ」

「ん?ああ、そうなのか」

「はい。今回の企画では、打ち合わせも少ないとのことでしたので今後はそこまで本業のほうに支障は出ないと思います」

「う~ん、あぁ、分かった」


 今後はそこまで時間がとられない。すなわち、天道先輩はもう来ないと暗に伝えると、課長はあからさまに肩を落として回れ右をして帰っていった。


 美人すぎる人っていうのも、苦労するんだろうな。こんな、むさ苦しい男ばかりの職場に放り込まれてしまっては。


「さて、僕のほうも切り替えてさっさと工事に行きますかね」


 先ほど中断した作業は、すでに直属の先輩が終わらせてすでに次の仕事を開始されていた。自分にできる仕事を探して何かしないといけないのだが、どうしたらいいのだろうか?


「今から工事に行ってもいいが、それだと時間が微妙だし。事務仕事を片付けつつ、できることなら持ち帰り部品の分解・確認をしておくかな」


 簡単な事務仕事を片付けつつ、メールの確認。材料・部品の発注を行いながら、片手間にメールで配信されている社内情報を確認していく。無駄にアンケートを取っているけど、これって本当に意味があるのか。永遠の謎であるのは、僕だけなんでしょうか?


「って、ん?」


 メールを確認していると、新着メールが一件入ってきた。せっかくメールを処理していたのに、と思いつつ中身を確認してみると天道先輩からの連絡だった。


 内容は、今日はありがとう。また何かあれば、よろしくね。という、ただの挨拶メールだったが、忙しい中わざわざ連絡をしてくれるのは凄いなと思った。僕にはそんな気遣いは無理。


「結構まめな人というか、律儀な人なんだな」


 そんなことを呟きながら、僕もそのメールに返信をするのであった。

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