天道明日奈との出会い

第7話 仕事と先輩と新たな出会い

 カチャカチャとモンキーレンチを使って、ナットを締めこんでゆく。本当はスパナを使うべき場面だろうが、モンキーレンチのほうが力が込めやすいことと汎用性が高くて使いまわしがきく。そのため、こうして多用してしまうのが僕の悪い癖であった。


「おーい、神崎ぃ~」

「何ですか??」


 作業が遅いからだろうか?下で待機している先輩から呼び出しを食らってしまった。


「作業はもう少しかかると思いますー!!」

「いやっ、それは慎重にやってくれて構わん。むしろ、ケガとかミスがあるほうが面倒だからしっかりしてくれ」

「わかりました!!」

「さっき、課長がお前のこと呼んでたからあとで行くぞ!!」

「了解ですっ!!」


 ん?課長が僕を呼び出し?.........え?なんで?


 課長に呼出しを食らうほどの大きな何かをしでかした覚えはないんだけどな。僕の仕事はまだまだ見習いの意味合いが強いし、自分にできることも少ないけど。

 まさか、戦力外通告?自分の天職ではないとはいえ、万能に対応していると思ったんだけどなぁ。


「ちなみに、10分後には移動するからボケっとせずに手を動かせーー!!」

「すんませんっ!!」


 課長に呼び出しを食らったというパワーワードのことばかり考えていたら、機械の上で立ち尽くしてしまっていたようだ。悪い癖だな、思考の海に入り込んでしまうのは。


 まぁ、なるようになるでしょ。この時の僕は、そんな感じに軽く考えていたのだった。これがまさか、あんな大きな話に発展するとは考えてもいなかった。




「神崎ぃ~、じゃあ会議室に行くぞー」

「了解しました!!」


 課長の間延びした声に、若干緊張しながらも元気よく返事をしてついていく。まるで金魚の糞みたいだなと思うが、今はそんなことを考えている暇はない。

 だって、何をして呼び出されているのかわからないんだもの。


「よし、じゃあそっちに座れ」

「わかりました」


 ドカッと椅子に腰かける課長に対して、僕は身なりを整えながら椅子に腰かけた。

一体これから僕はどうなってしまうのだろうか?


 課長が持参した資料を見ながら、何度か僕の表情を伺っては何やらパソコンで文字を入力している。一体、今の僕の何を評価されているのだろうか?

 会議室の中で、少し重めの空気が流れ緊張感が走った。そのタイミングで、やっと課長がその重い口を開いた。


「まぁ、正直お前が緊張しているのもわかるが、そのうえで言っておく。別に悪い話ではないから、安心していいぞ。むしろ、お前の成長のきっかけになると思う話だからな」

「.........はぁ~~~、安心した」

「なんだよっ、そんな緊張しなくてもいいのになぁっ」


 課長は大きくため息をこぼした僕を見て、さぞ愉快そうに笑っていた。いや、呼び出し食らった側からすると全くもって笑い事ではないんですが。むしろ、逆の立場の時、貴方はどうしていたんですか。そこが非常に気になるんですが。

 そんな僕の心情を知ってか知らずか、課長は話を進めてくれた。


「神崎には、今度行われる社内広報にかかわってもらおうと思っている。各課の紹介で、新人の仕事の様子やこれからの意気込みなどを紹介するコラムに乗ってもらうつもりだ。その内容についての打ち合わせなどがあるから、来週一杯はそっちの仕事を優先的に推進してほしい。頼んでもいい?」

「別に僕は大丈夫ですよ」



 むしろこの話には拒否権があったのだろうか?もし本当に拒否権があるのであれば、全力で拒否したいものだ。だって、知らない人と話すの怖いし面倒だし大変だし。あと、めんどくさいし。


「ほんと!?よかった。じゃあ、そういうわけだから、あとはよろしくお願いしますね」

「え?」


 課長のセリフに僕が疑問符を問いかけると同時、ガチャッと会議室のドアが開く音がした。

 ちょうど僕の真後ろにあるそのドアのほうへと視線を向けると、とても美人な社員の方がちょうど入ってきたところだった。

 

「課長さん、この度はお話を通してくださりありがとうございました」

「いえいえ、別に構いませんよ。彼も前向きに参加の意思を表明してくれたので、全然使ってもらって構いませんから。あとは、若い者同士で話を煮詰めてください」

「すみません、ありがとうございます」


 課長は美人さんと一言二言交わしてから、だらしない顔をしながら退出していった。


 う~~ん、完全に課長に嵌められた気しかしないんだけど......まぁ、会社なんてこんなもんだよね。仕方ないか。


「では、改めまして今回の企画でともに仕事をさせていただきます天道といいます。私は今年で三年目になるから、君の一つ先輩になりますね。よろしくお願いしますね、神崎さん」


 そういって、美人の社員さん。天童先輩は、誰もが見ほれるような微笑みを浮かべながら、僕に小さくお辞儀をしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る