⑧小オアシスでの尋問

 サーポという男の身長は160の後半ほどで、どこか自信の無さそうな印象を与える。年若い青年の相貌通りに年齢は17歳らしい。

 詳しく聞き出した所、

*役割は荷物持ちである

*隊商(キャラバン)で護衛任務についていたこと(そしてほぼ全滅したこと)

*荷物持ちになってから二週間経っている

*最初は襲撃に参加していたが砂漠カンガルダ乗りが下手であり、誰も殺してこなかった

*ガンジュとは以前、グロリア大街道にて出会っている。その時は盗賊に襲われ、あわやという所で通りがかりのガンジュ一行(ちなみにブラッソはその中にいない)に助けられた際に、七日間ガンジュ一行についてまわっていた。


 この五点が分かった。


「覚えているか、オマエ」

「いやあ、それがさっぱり……」


 申し訳無さそうにするガンジュを見て、青ざめていくサーポの顔というのはどこか絶望感があり、この世の終わりのような顔をしていた。

 ブラッソは記憶の追求を特にしない。


「けど、可哀想だ」

「それは分かっている。殺しはしてないし、嘘はついてないのは《真実》で分かったからな。サーポ、お前は特に処断しない。安心しろ」

「……? ……あ、え。いいんですか……?」か細い声で尋ねるサーポ。


 椰子木の胴体に身体がもたれ、椰子木の樹皮から編んだヘルガ特製の簡易拘束縄は解かれ、晴れて自由の身になるサーポは涙ぐみ、頭を下げる。


 《真実》。中奇跡の一つ。フレイヤ教がもたらす神秘の言葉の側面。

 ブラッソが尋問中に示した奇跡は、言葉が真実であるか否かを看破する。フレイヤ教のとある部署の一つである審問官には無くてはならない奇跡の一つ。

 「神が見通した真実」の前に人は嘘をつけない。


「ありがとうございます……ありがとうございます……!」

「フレイヤ神の奇跡と今日までの行いに感謝しろ」

「よかったねえ」うんうん、と頷くガンジュ。


 そうしてから顔を上げたサーポはふと、まじまじとガンジュの顔を見つめる。

「……ガンジュさん、雰囲気変わりましたか?」

「そ、そうかなあ」目が泳ぐガンジュ。


 そうしてサーポの件は済んだ。

 もう一人の生き残った盗賊の方へ向かうガンジュとブラッソ。

 別の椰子木の下、こちらも簡易拘束縄でぐるぐる巻きになっている襲撃者。こちらはヘルガが見張りをしていたようで、二人が戻ってきたのを見ると襲撃者から距離を取り、ガンジュとブラッソの方に合流する。



 この男の尋問は既に済んでいる。

 以下が判明した真実である。

*襲撃者の名前はパゥマ

*サーポも殺しに参加していた一人である(嘘)→サーポの証言で自身の潔白は証明済

*人はあんまり殺してない(嘘)→(ブラッソがキツく問いただす)→数え切れないほど殺してきた(真実)

*過去の捕縛歴2度あり(真実)→顔と胴体の一部に盗みと殺人を示す罪人の入れ墨あり

*サーポは二週間前に襲撃した隊商から連れてきた(真実)

*出身地はブラッソと同じ地域


 他にも情報は聞き出せたが、ひとまず重要な六点について列挙するとこんな所である。


「俺と同郷かよ……」顔を掌で覆って軽いショックを受けているブラッソ。

ブラッソだったね」

そうだよ」


 ブラッソの生まれた地域での名付け方が、襲撃者――パゥマの名前からも分かる通りに法則性がかなり近い。


 ちなみに余談ではあるが、この世界での罪というのは三罪制(スリーアウト)を取っている。

 アウラ軍師の放免も二度まで(日本語的近い価値観の言葉:仏の顔も三度)。

 この世界では「とある六つの罪」を除いては二回までなら釈放される。もちろん、釈放までに奉仕的労働(という名の強制労働)をさせられたりしてからとなる。


「お、俺をどうする気だよ……」顔をサーポ以上に青ざめているパゥマ。


 これ以上、聞くことはない。聞き込みは終了している。

 ガンジュ、ブラッソ、ヘルガはパゥマを見てから、三人でそれぞれ顔を見合わせる。


「罪人だな。しかも処断対象だ。三回目の罪だ」目が光るブラッソ。

「手慣れているようだったし、容赦なかったからねえ」思い出すガンジュ。

「斬(る)、慣れてる、彼、戦士。しかし、盗む、それ、盗人」目が光るヘルガ。


 ガンジュは処断することにどこか否定気味ではあるが、ヘルガは彼が盗賊であるという概念を理解すると、ブラッソのように処断に肯定的になっている(エルードでも盗みには優しくないのだろう)。


「このまま略式刑死刑で殺ってもいいが」十字架をなぞるブラッソ。

「でも……」曇るガンジュ。

「罪人の扱いは言っていたはずだ。捕縛できれば捕縛。手加減できない時は殺る。三罪者なら殺る。二度までは許す」


 それがブラッソとガンジュの取り決めである。それを忘れてはいけない、というように冷たい言葉を投げかけられたところで、ガンジュは黙り込んでしまう。

 しかも、ここは砂漠である。大きな町近くの街道や森ならともかく、ここは極地。


然るべき場所死刑場には連れてはいけないぞ。それに危険な場所で罪人護送は無理だ。引き渡すも不可。引き戻すには戻れる地点だが、今回の場合は諦めてくれ」


 ガンジュの心情的にはすぐには殺生はしたくなかったが、ブラッソの言葉は真理であった。どんどん顔が曇り、大きな身体が小さく見えるほどの様子になっている彼であるが、最終的には頷く他ない。

 しかし、そんなガンジュの様子を見かねたブラッソであった。


「ヘルガ」

「何」

「エルード式の罪人に対する刑罰を聞きたい」

「罪人、対(する)、刑罰やりかた?」

 ガンジュは思わず顔を上げた。

 もしかするとエルード式の刑罰ならば、パゥマはどうにかできるかもしれない。


「命、簒奪者、命、捧(げる)。この砂漠、糧、成(る)。同時、苦境くるしみ、受ける。わが、エルードでも、恐怖おそろしい、刑罰」

 ヘルガの言葉を聞くほどにガンジュの顔はまた曇っていく。


「決まりだな、それでいこう」エルード式刑罰に頷きを見せるブラッソ。

「恐ろしい刑罰……」思わず復唱するガンジュ。


 こうしてサーポとパゥマの結末は決まった。

 サーポは無罪放免、パゥマは死刑となる。

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