③砂漠横断中その1
「ああな゛あ゛……」
「何言ってるか分からねえよ。……喉が乾きすぎて、声帯が機能してねえぞ。水で潤いを与えろ。……おっと一気に飲むなよ。あと、水は貴重なんだ。何かあった時の俺の生命線だからな」
(保護者やろうか?)
ベンタニア砂漠の日中の気温は四十度を超えている。照りつける太陽の熱光線は等しく三方に降り注いでるように見えて、身体の大きいガンジュにはより強く照りつけられていた。なので、喉がカラカラになるのも人一倍早い。
砂漠カンガルダの些細な左右の動きにより、自らガンジュの方に近寄ったブラッソは水筒を渡している。それを眺めていたレオダラだが、時折、周囲の警戒を怠らない。
「砂漠カンガルダがいない場合、小オアシスまでの道のりはだいたい2日かかりますよ。しかも、移動速度が人間の歩行の場合、砂漠ヒョウとかの四足歩行の危険生物に補足されたりしぃ、逃げ切るのがむつかしかったりしますよ」
砂漠に入るなり、そう説明していたのを時々思い出すブラッソ。
時々、視界の端で四足歩行のネコ科らしき生物が躙り寄って来て、獲物に襲いかかるような気配で睨めつけているが、砂漠カンガルダの軽快な動きで砂漠を進む姿を見るなり、彼らは諦める。狩りとして追う獲物に対して、仕留めきれた時の回収できるエネルギーは大きいが、速く動く獲物を無駄に追い求め、無駄に力を消費した時の損失の方が大きい。砂漠という過酷な環境での損得勘定は意外とシビアである。
ちなみに砂漠カンガルダの操作技術は既にブラッソが軍を抜いていた。ガンジュと共に併走しても問題無いほどであり、些細な左右の動きも物にしているのを見て、レオダラは舌を巻いていた。乗馬センスに近いものがあるのかもしれないが、レオダラの話だと短期間で乗りこなせる人は少ないらしい。
一方で。
「あれ、止まった?」
「馬鹿、手綱を強く引っ張ったな。今すぐ――引っ張ったけ!」
「おっ、進んだ進んだ」
(こっちは対照的やなあ)
止まった分だけ距離が離れてしまうので、途中から大声になるブラッソ。ガンジュはその声の通りに従い、手綱を引っ叩く。砂漠カンガルダは再び動き出す。
ブラッソとガンジュの対照的な様子がレオダラにとって印象的に映る。
さて、軽快に進んでいた三人であるが、手頃な日陰に入った所で一端休みを入れる。
時間としては太陽が一番上に来ている正午の時間帯であった。
「きひひ。小休止を軽く入れますけど、長くはおらんですわ。長場で休んでおると余計な生き物が近づいてくる可能性がありますから。オアシスまでは先を急ぎまひょ。ペースもめっちゃええですわ。砂漠カンガルダに乗り慣れてへん人はこの最初のオアシスまでの道で他の方向へ大暴走したりしぃ、余計な時間を食ったりしますからね。その点、旦那方は問題なし! 完璧!」
「それはどうも。……今のうちに軽く飯も入れておくか」
完璧とまでいくとリップサービスがすぎるのでは? と思ったが口には出さないブラッソ。
荷物の中から携帯用の保存食を取り出す。封を軽く解くと、乾燥して干した
ブラッソはそのまま干し肉を齧っていると、ガンジュが岩の陰で何かを見つめていることに気がついた。
「何見てるんだ、お前」
「虫」
「ん、ああ。砂漠小サソリやね。こっちからつついたり攻撃せぇへん限りはおっきい生物に自分から襲ってはこないヘタレな生物や。ちなみに毒持ちやから気ぃつけや」
体長は一五cmから二〇cmほどの小さなサソリが岩場の上に居た。身体は茶色っぽく、砂漠に合わせた保護色の様な甲殻質となっている。ゆらゆらと尾っぽを逆立てていて、ガンジュの方に差し向けているが、警戒しているだけらしい。
「サソリっていうんだな、この虫」
「俺も初めて見たな。………ん、小サソリってなんだ、小って」
「はい、学者曰く小サソリっていうのは通称で、細かい種類に分類すると小中大はそれぞれ別種扱いになるらしいんやけど……っと。まあ、ようはおっきうて、身体がおっきい相手でも平気で襲ってくる黒色の中サソリとか、白色の大サソリとかいるんですわ。」
「黒色と白色は危険。茶色は安全。覚えたか」
「覚えたとも。……、……あっ」
ガンジュと相対していることにプレッシャーを浴びせ続けられた砂漠小サソリはそそくさと退散していた。保護色のせいで砂漠に紛れ込んだのか、それとも近くの岩場に普通にいるのか全く分からなくなっていた。恐るべし。
レオダラも昼食を軽く食べ終えた辺りで、「あれ、
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