第17話 風俗店 告白編

お店でのプレイから、しばらくアオイさんには会えずにいる日々が続いたある日、仕事中にアオイさんから連絡が来た。


[今日、会えませんか?]

いきなりだったので、すぐには返事できない俺は家に帰って七海の動向を確認してから連絡しようと思った。


仕事の帰り際にアオイさんからまたメッセージが届いた。

[今日はあなたに本当の事を話そうと思っているんです]

凄く意味深なメッセージ、そしてアオイさんに会いたい気持ちをグッと抑えて返事はせずに家路を急いだ。


家に帰ると当然部屋の灯りは点いていた。

もしかすると、七海が出掛けているのではないかと期待したがそうはならなかった。

アオイさんにどう返事を返そうか考えながら、リビングへと続く扉を開く。


ソファーには着物姿の女性。

来客かと思ったが振り返ったその女性の顔を見て俺は驚きのあまり持っていたカバンを床に落とした。


「あまりにも連絡が返ってこなかったので来ちゃいました」

そう言って振り返ったのは紛れもなくアオイさんだった。

俺の家のリビングのソファーにアオイさんが着物姿で座っている。

どういう状況なのか、驚きのあまり言葉も出ない。

そして、さらに驚いたのはアオイさんの目の前にはあの風俗店のラバー人形が縛られ、首から七海と書かれた名札をぶら下げて正座させられていた。

その周りにはラバーらしき黒光りするものが敷き詰められている。


俺にはこの状況がさっぱり分からない。

どう声を掛けて良いのかも分からずに、恐る恐るアオイさんに声を掛けてみた。

「どうして?」

俺の言葉に対してすぐにアオイさんが口を開く。

「どうして?それは結婚している事も、同じマンションに住んでいる事も知っているってことかしら?」

とアオイさんが語気を強めて言った。

おっとりとしたアオイさんの気迫に押されて俺は何も言い返せない。

自分の妻がラバー人形にされ、縛られて動けなくされていてもその事に触れる事すらできなかった。


アオイさんはソファーから立ち上がると、ラバー人形の背後に周り、こちらを見ながらクッキリと浮き彫りになったラバー人形の両乳首を指先て摘むと、ラバー人形は体を震わせた。

「ほら、気持ち良さそうでしょ、もっと気持ち良くさせてあげるわ」

アオイさんはそう言うと、ラバー人形にされて動けない七海にラバーマスクを被せる。

そのラバーマスクには呼吸穴は確認できないが穴は開いているようで七海が苦しむ様子は見られない。

ただ、呼吸する度に拘束された顔面がラバーマスク越しに浮き彫りになる。


俺はアオイさんに謝罪する。

「すまなかった、俺はアオイさんに夢中になり過ぎて結婚している事を話すと、アオイさんとの関係が壊れてしまいそうな気がして言えなかったんだ」

俺の言葉にアオイさんは頷きながら、また七海にラバーマスクを被せ始める。

ラバー人形は動かせない頭を僅かに揺らしながらマスクを被せられるのを拒もうとするが、アオイさんにあっさりとラバーマスクを被せられる。


アオイさんがまた口を開く。

「私に夢中という事は浮気心があったという事で間違いないかしら?」

そう言いながらもラバー人形にさらにラバーマスクを被せるアオイさん。

ラバー人形もラバーマスクを3枚被せられて、だんだんと苦しくなってきたのか、これ以上ラバーマスクを被せないで欲しいと懇願するようにしきりに頭を揺らしている。


アオイさんはそんなラバー人形にほとんど視線を向けず、全く気にも留めない様子で4枚目のラバーマスクを手にするとラバー人形に被せながら話しかけてくる。

「同じマンションである事を黙っていたのはなぜ?奥さんに私との関係が知れられるのが怖かった?」


俺はにこやかに話しかけてくるアオイさんに恐怖し視線を逸らせた。

4枚ものラバーマスクを被せられたラバー人形の七海も気になり、そちらに視線を向けるとラバーマスクの重ね着ですっかり顔面の拘束具の痕跡は消えかかっていた。

ラバー人形の七海は苦しそうに呼吸していることが鼻の辺りが細かく動いている。

見ているだけで呼吸が苦しいことは俺にでも分かる。


視線を逸らしながら俺は答える。

「アオイさんの言う通りです、同じマンションである事を知られれば妻に関係がバレてしまいそうで怖かったからです」

アオイさんは俺の話を聞きながら5枚目のラバーマスクを手に取り、またラバー人形に被せる。

「そう!という事は私は遊びで奥さんが大事だったということかしら?」

アオイさんは質問をしながら、6枚目のラバーマスクも被せていく。

俺が返答に困っていると、さらに苦しそうに酸素を求めて呼吸するラバー人形の七海にラバーマスクを重ね着させること7枚。

ラバーマスクの重ね着が多過ぎて、その顔は拘束具の痕跡どころか人の感じすら、すっかり消えてしまっていた。


「じゃあ、私のどこが良かったのかしら、実は私ではなくラバープレイだったりして?」

俺とアオイさんの出会いはラバープレイのお店。

ラバープレイがキッカケである事は間違いないが、ラバースーツを纏っているのがアオイさんだからこそ興奮し夢中になれた。

アオイさんには俺を惹きつける魅力がある。

それを言葉にして伝えようとするが上手く言葉が出てこない。

俺が言いあぐねているとアオイさんが話し出す。


「これで最後にしてあげるから私のこと抱いて!」

そう言うと、アオイさんは着物を脱ぎながらラバー人形を押し倒して俺の方へと向かって来た。

アオイさんの裸には体毛が一切なく、とても綺麗でまるで人ではないように見える。

そんな神秘的な全裸のアオイが、俺に抱きついてくる。

確かに今の今まで、アオイさんの肌に直接触れることはなかった。

「初めてよね、直接私の肌に触れるのはどうかしら?」


全裸のアオイさんと抱き合った事はなく、常にラバー越しに抱き合ったり交わったりしていた。


アオイさんは俺の手を取ると、自分の胸へと持って行く。

やはり、近くで見てもアオイさんの肌は美しく人肌を超越した人工物にも見えなくない。


俺は全裸のアオイさんを抱きしめようとした、その時ラバー人形が体を震わせ苦しみ始めた。

かなり苦しいようで、拘束され身動き出来ない体を全力で震わせているのが分かる。


アオイさんはそれに気づくとラバー人形の元へ行き、ラバーマスクを一枚、また一枚と脱がせ始めた。

初めて風俗店の待合室で見たラバー人形の姿にに戻すと、アオイさんは着物を羽織りスマホで何処かへ連絡し始めた。


それが終わるとまた俺と向き合う。

「ラバー人形には退場してもらうから、ゆっくり体を交えてお話ししましょう」

そう言うと、アオイさんは着物を簡単に羽織った状態で俺の手を引いてソファーに2人で腰掛けた。


俺は気になった事をそのまま聞いてみる。

「ラバー人形には退場してもらうって、どういう事?」

「すぐに分かるわ」

アオイさんはそう言うと、着物の帯を簡単に締め直した。


『ピンポーン!』

緊張感が張り詰めた中、どれくらいの時間が経ったか分からないがインターホンが鳴った。

アオイさんは立ち上がり玄関へと向かう。

玄関では男性の声が聞こえてきて、アオイさんが対応している。

程なくして部屋へと入ってきた男性の顔を見て俺は驚いた。

入ってきた男性もまた俺の顔を見て驚いている。

「お前!」

「植草さん!」

俺と植草さんが顔を見合わせていると、玄関から戻って来たアオイさんが言う。

「ユズを引き取ってもらっていいですか?もう必要なくなったので」

そう言って、ラバー人形を指差すアオイさん。

植草さんは俺とアオイさんの顔を見たあと、頷くとラバー人形の元へ向かう。

“え?ユズって、あのラバー人形は七海じゃないのか?“

俺の頭の中は少しパニックを起こしていた。


先ほどまではアオイさんとラバー人形にされた七海の板挟み状態だった。

妻の七海を助けたいが、アオイさんが我が家へ襲来し睨みを効かせていたから何もできなかった。

俺は七海のことを心配しつつ動けず、アオイさんに文句の一つも言えずにいた。


俺の焦った表情を見たアオイさんが言う。

「ユズにはしっかりと耳栓をしているから、私たちの会話は聞こえてないわ」

“そんな事じゃなくて、七海はどこにいる?“

結局、俺はその言葉を発する事ができずにいる。

今のアオイさんの前で俺は、蛇に睨まれた蛙の様だった。


植草はここへ向かう途中で慌てて購入してきたのであろう、まだ値札の付いたままのスーツケースを広げると、そこへラバー人形にされたユズを詰め込んでいく。

そして、スーツケースを閉じると足早に部屋を去って行った。

俺とアオイさんの間に流れるただならぬ空気を察知しての事だろうと思う。


アオイさんは羽織っていた着物を脱ぎ捨てると全裸で再び俺へと向かってくる。

そして、不敵な笑みを浮かべて手を差し出す。

俺はその差し出された手を拒む事ができずに俺も手を差し出した。

アオイさんは俺の手を握り、寝室へと引っ張っていく。


寝室に入ると俺をベッドへ突き飛ばし、ベッドに座った俺に覆い被さるようにして押し倒してくるアオイさん。

そして、俺の服を脱がせ始めた。

俺を全裸にするとペニスを弄り始めるアオイさん。

物凄く上手で気持ちいい。

あれだけの緊張感があったすぐ後でも、勃起してしまう俺はいったいなんなんだろう。


そんな事を頭で考えるも、体はアオイさんの扱きに反応してペニスはドンドン大きくなっていく。

そんな大きくなった俺のペニスを口に咥えるアオイさん。

温かく気持ちよく、もうすぐにでも絶頂に達してしまいそうな俺は体を強張らせてアオイさんに抗う。


その様子を見たアオイさんが俺のペニスを自分へと挿入した。

吐息を漏らし、『ズブっ、ズブっ』と卑猥な音を立てながら俺のペニスはアオイさんの中へと侵入していく。


俺はコンドームをしていない事に気づいた。

普段は2人ともラバースーツを着ているので直接の接触はないが、今は状況が違う。

このまま、俺がアオイさんの中で出して仕舞えば妊娠の可能性はゼロではなくなる。


必死に堪えようとするが気持ち良すぎる。

アオイさんの表情は快楽に身を任せた妖艶で美しい女の顔になっていた。

その妖艶さに一瞬、ほんの一瞬だけ心を奪われた瞬間だった。

俺は堪えきれずにアオイさんの中へ発射した。

もう一度、発射してしまうと理性が飛んでもう止められない。

腰を突き上げアオイさんのより深くへとペニスを突き立てる。

アオイさんも盛大に喘ぎ声を上げながら体を反らせ、俺のギンギンに勃起したペニスを堪能しているようだった。

後は余韻を楽しみ、抱き合いキスをする。

ペニスは依然としてアオイさんに刺さったまま。

これでアオイさんを妊娠させてしまったら。

そう考え始めたが、すぐに考えるのはやめた。


アオイさんと交わっているのに、何故か七海と交わっているような不思議な感覚に陥ったから。


七海とは付き合っていた頃は何度も交わったのに、結婚してから頻度は少なくなっていった。

一緒に住み始めると回数が減るとは周りからも聞いていたが、七海とはそれが顕著だった。


そんな事を考えていると、アオイさんが話し掛けてくる。


「ねぇあなた、いい加減気付かない?鈍感ねぇ」

“???“


見た目はアオイさんなのだが、その口調も声も七海にそっくりだった。

アオイさんは顎の辺りに指を差し込むと、顔を剥がしていく。

アオイさんの顔の下から出てきたのは、俺の妻の七海。

七海は首元も大きく広げてアオイさんの体を脱いでいく。

「え、何それ?」

「ああ、これ?これはシリコンスーツ、特殊なシリコンスーツでラバースーツを着やすいのよ」


もう俺はパニックで何がどうなっているのか分からない。

「え、なに、え、七海?アオイさんは?え、どういう事、え?え?」


混乱している俺に七海が説明を始める。

結婚前から俺と合わない日はラバー専門のお店で働いていたのは事実、そして俺にバレてしまったかも知れないと思い、アオイという架空の人物を作り上げた。


そんな時、またも偶然にラバープレイ専門店に俺がやって来てかなり驚いたそうだ。

連絡先を交換してからは、俺から連絡が来るので、その日だけは入店して俺の相手をしてくれていた。


俺にもラバーの魅力を伝えようとすると、七海の気持ちが通じたように俺がどんどんラバープレイにのめり込んで行ったので楽しくなってアオイという架空の人物を演じ続けたという。


以前からのラバー専門店で得た収入で同じマンションの上階がたまたま売りに出ていたので購入し、ラバーグッズやプレイを楽しめる部屋にしたのだという。

どおりで部屋に行った時、生活感がなかった訳だと今更ながらに納得する。

それにアオイさんと会う時は、決まって七海がタイミングよく出掛けていない事にも合点がいった。


それに年齢も身長もアオイさんと同じで和菓子が好きでドM。

なんで今まで気づかなかったのだろう。


頭を抱える俺に七海が言う。

「貴方もすっかりラバーフェチ、私とラバーフェチライフを楽しみましょう!」

俺は顔を上げ、七海に服従するように頷き、俺と七海の隠し事のない夫婦生活が始まった。


俺は七海にお願いしてみる。

「たまにはアオイさんになってくれないか?」

「私を虐めてくれるなら、なって上げてもいいよ!」

なんだかわが家が風俗店のようになってしまった。



おしまい



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