第9話 風俗店 再会編
俺はラバーグッズ取扱店へとやって来た。
雑居ビルの4階に店はある。
小型のエレベーターで4階へと向かう。
薄暗い廊下の突き当たりがお店だ。
独特の雰囲気のあるお店に、少し躊躇したが足を踏み入れた。
店内は想像していた通りラバーの独特な香りが立ち込めて、置いているものもラバーの衣装や拘束具やガスマスクなど、あまり普通のお店では見かけないものばかりが並んでいた。
だが、店員さんの対応は至って普通。
「いらっしゃいませ、何かお探しでしたらお声がけください」
実際、俺以外の客に対しも普通に接客していた。
女性店員を期待して見てみたが、アオイさんではなかった。
客の中には女性客もいたが、アオイさんではなかった。
ラバースーツをオーダーするとどれくらいかかるのか等を聞こうと思っていたが、意外なほど客が多く、結局店内を軽く見ただけで出てきてしまった。
家を出る時は張り切って出てきたのだが、何も出来ずに帰路に着いた。
駅前の和菓子屋さんから着物を着た女性が出てきた。
大和撫子を具現化した趣きのある雰囲気を醸し出していた。
今しがた、ラバーグッズを見てきた俺とはかけ離れた存在に感じる女性の顔を見て絶句した。
その女性がアオイさんだったから。
俺のことには気づかずに駅へと向かう。
俺もアオイさんを追って駅へと向かった。
改札口を抜けたところで、ようやくアオイさんに追いついた。
「あのー、アオイさん?」
俺が声を掛けるとアオイさんは振り返って俺の顔を見ると笑顔になった。
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
「今日はお出掛けですか?」
俺が尋ねるとアオイさんは手に持った和菓子屋さんの包みを見せていう。
「私、ここの和菓子に目が無くて」
そう言って目を細めるアオイさんも美しい。
「あ、そうだ、今から私の家でこの和菓子一緒に食べませんか?」
アオイさんからの誘いを断る理由はどこにもなかった。
「はい、是非!」
2人とも笑顔でホームへと向かう。
「ところでご自宅は遠いですか?」
「いえ、電車に乗ったらすぐですよ、すぐ」
アオイさんは子供のようにはしゃいでいるようにも見える。
そんなアオイさんを見ていて俺も楽しくなる。
駅のホームにも電車も人が多く、昨日のラバープレイの話題には触れられなかった。
その代わり、アオイさんの情報が引き出せた。
アオイさんは独身で俺よりも3つ歳下の24歳、妻の七海と同じ歳だった。
アオイは当然、源氏名で本名は佐倉 水無月(さくらみなづき)で、名前からも分るように6月生まれなので、それにちなんで源氏名をアオイにしたそうだ。
アオイさんが名乗ったのに、自分だけ名前を伏せているのもと思い、俺も名乗った。
そんな話をしているうちに、電車は目的の駅に到着した。
「着いたよ」と言ってアオイさんが降りた駅は偶然にも俺の最寄り駅でもあった。
そして、先導してもらいながら、アオイさんのマンションへと向かう。
まさかとは思っていたが、そこは俺のマンションでもあった。
さすがに階までは同じではなかったが、過去にアオイさんとすれ違った事があったのではないかと思い返すが覚えているはずもなかった。
俺が住む階よりも上の階で角部屋、独身という事で部屋を広々と使っている。
「和菓子とお茶用意するので、座って待っていて下さいね」
そう言われて、広いリビングに置かれたソファーに腰掛ける。
美人で独身、体の相性もバッチリなアオイさんにますます惹かれていく。
和菓子とお茶を出してくれる着物姿のアオイさんの所作に目を奪われ、目の合ったアオイさんに心も奪われる。
和菓子を口にお茶を飲みながら、昨日の事を話した。
昨日のスリーピングバッグで真空パックされながら、ラバースーツを着たままエッチするのはアオイさんの夢だったらしい。
ただ、誰でもいいと言うわけでは無く、俺との相性の良さが真空パックエッチをしようと決めたキッカケらしい。
そんな話をしていて、拘束されるのが好きとかきら嫌いとか、拘束するのがが好きとか嫌いと言った話になっていった。
俺は正直言うと拘束する方が好きで、アオイさんは拘束される方が好きだと言った辺りからかアオイさんがモゾモゾし始めた。
そして、顔を赤くして言う。
「着替えてくるので拘束して貰えませんか?」
と。
俺が断る訳もなく、笑顔で大きく頷いて応えた。
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