空の塔 第5節

『これは、少し面倒だ』


部屋に着くなり、分析を終わらせた彼が言う


「どういう事?」


『接続装置のアンテナがズレていて、窓、接続口を室内に生成できない』


毎回毎回、良くも尽きずに面倒ごとが起きる物だと呆れた。世界は人をとにかく困らせるようにしているのではと考えられるほどだ。


「どこになら出来るの?」


彼はため息のような、形容しがたい音声を発した後に発言した。


『外だ。』

『君の文明で言う、スカイダイビングが必要だ。高度120メートル、摂氏600℃のガスの中を。』


「耐える装置は付いてる」


『万が一、外したらあのマントルに突っ込む。そしたら900℃だ。』


嫌な事を思い出した。スーツに防護機能があるが故に即死しない。過去にそんな死に方を見たことがあった。訓練期間中に基地が強襲を受け、その際に敵に熱線兵器による攻撃を受けた。私や他の隊員の脱出中に投下されたのだ。まだ窮地に慣れていない私達訓練生は何もわからずただただ無我夢中で軍人の指示に従い走っていた。先ほどまで居た施設はいたるところで出火し、遠くからは銃声が聞こえていた。離陸船に乗り込んだところで銃声が止み、周辺の軍人が口々に叫ぶ。


「サーマルフラッシュ!!!」

「フラッシュだ!!」

「乗り込め!!」


騒ぎで軍人の様子がおかしいと分かり始めた時に爆音がなった。その音自体は大したことがなく、大き目の迫撃砲でも当たったのかと思い程度であった。周りの様子とその音の小ささに困惑し訓練生同士で目を見合った時、船外が異常なほどに明るくなった。照らされた場所は急激に加熱され、光に直接当たった人のスーツは表面が真っ白になった。少し遅れて焼かれた人々はもだえ苦しむように倒れ暴れた。私達はと言うと、かなり遅れて体中に強い刺激を感じた。船体の一部が焦げ、樹脂部品が蒸発するが聞こえる。大型スーツを着けた隊員が私達に覆いかぶさる様にして守ってくれた事を覚えている。終わってから、記憶があるのは大分あとである。真っ白になった人々が広場に並ぶ光景と、腕に装着した端末が溶けて使い物にならなくなっていた。


『深呼吸しろ』


「大丈夫。大丈夫、今の方がマシ。」


『そうか』


私達は彼の案内に従い、装置の修理を始めた。当然ながら人類の物ではないため、彼がゴーグルに送るAR情報で作業をする。バーナートーチで蓋を開けたり、ペンチで回路をいじったりする。学生時代にやっていた事と同じことをしているなと思った。その時はもっとハッピーな気持ちでやっていたが。


『君の作業中、スーツを改良しよう。バックパックを外してくれ。』


現段階では完全には信用していない、とはいえ逆らう必要もない。あくまで合理的な判断としてバックパックを外し、一種のファブリケータ―に投入した。電力を多く使うが、この先施設を維持する意味はないと残りの電力を使って貰った。私が数時間の作業を終えると待っていたかのようにバックパックの改良が終わっていた。形は大きく変わり、色は大理石のような美しい白へと変更されていた。


『スーツに使われている動的機能性樹脂胞の本来の機能を解放する物だ。接続すればスーツも改造される。』


言われた通りに背中に接続すると、ゴーグル内の映像にヘイアルの文字が浮かび、スーツの表面が波打つ。たちまちに雪のような白と血のような赤色の模様が広がる。着心地が良くなり、腐食波による不快感が消える。


「凄い・・・」


『我々はここで終わりだ。君たちに受け継ぐ。』


「ありがとう」


いざ帰路に就くために外部ハッチを開ける。外気が入り込み、警告がなる眼下には想定通り窓が開いており、別の場所とみられる光景が見えた。窓の出口の方向が違うため、背中向きに落ちる事になった。


「君も、一緒に来ない?」


『圧縮して入れておくよ。元に戻れないかもしれないが』


「試すだけ」


話しを終えて私は飛び降りた。ハッチはみるみる遠ざかり、その時ハッチの端に人型が見えた。


『もしあえたら、また。』


本当に残りの電力でホログラムを投影したのだ。“あの彼”はここで終わり。それを理解した上での最期の言葉なのだろう。


『おぉ、良かったな。彼らも君を見つけたようd』


彼の謎の言葉が遮られるようにして通信が消え、窓をくぐった。出口では窓が横向きになっており、私はそこから飛び出す様にして脱出した。落下速度を伴った私は非常に速く飛び出たが、ネットによって受け止められて衝撃はそこまで感じなかった。地面に降ろされると、隊員の一人が私に話しかける間もなく、背中にあるバーコードを確認する。


「A906C!!」


その声が響き渡ると周辺で歓声と拍手で包まれた。


「大丈夫ですか」

「栄養状態は」

「意識は」

 

尋問されるよな確認しばし行われた後にやっと隊長格の隊員が来て言う。


「よくぞ耐えて生きてました。おかえりなさい。」


確かに遭難ではあった物の、時間としては10時間も立っていない。感動の再開というほどの物ではないだろう。と思いながら周りを見渡すと、窓が開いていたと思われる場所にはゲートと似たような装置が建設されていた。仮設とはいえここに建てるのは簡単ではない。


「私の、私の遭難からどれぐらいたったんですか!!」


私はあわてて聞く。慌てすぎて舌をかんだ。


「ど、どれぐらい?」


私の物資の確認を行っていた隊員がそれに口をはさむ。


「あなた、どうやって生きてたんです?」


この後すぐにわかったが、私は数か月遭難していたらしい。施設内探査の際に窓の装置が明らかになり、探査に用いる事が出来れば便利だという事で動作を行うと私のビーコンが検知された。窓越しに来ている事が分かったため、何週間もかけて調整し開通させたらしい。時間のズレは窓のせいだと思われている。こわれた装置を使ったからだろう。しかしひとまず帰ってきたし、大収穫もした。今度こそ未来が見えたと思えた。





機密文書hif13u4ghp9134

人口知性H-0001に関して


第1次再探索時に小隊β3が人口知性と遭遇。当該惑星にて製造されたAIに酷似した技術であると思われる。当該知性をH-0001と呼称し機関特別対策班の極秘監視下に置かれた。取り調べから、人口知性が他に多数存在する可能性と無時間接続装置の存在を確認。接続装置に関しては、文献からの発見という形で技術転用を行う形となった。(これに伴いA906Cの帰還に繋がる)

現時点でH-0001以外の知性を確認していないが、確認しだい同様の収容を行う事になる。惑星上の施設のより重要な設備維持に携わっていた知性があるとの事で、理解と利用のための探索を副次的に行う予定がある。また、A906Cは遭難中に惑星文明の装置によりスーツを改良する事に成功したと供述したが、当評議会では疑惑を持っている。遭難時の状況が特殊である事と改良されたスーツの技術水準から考えていずれかの人口知性と接触していた可能性がある。仮想人口知性H-0002として現在調査中である。また同時に、仮にそうである場合なぜ秘匿しているのかを含め捜査中である。

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