空の塔 第4節

 AIの分析に従い、反転場の源へと歩みを進めた。赤い砂の放つわずかな赤い光と私のスーツのライトの光だけで暗い通路を進む。螺旋階段を数十段ほど下るとオレンジ色の光が漏れていた。階段を降り切ると、いままでと異なって廊下の壁に縦のスリットが入っていて、そこからオレンジ色の光が漏れているのが分かった。スリットにはガラスかプラスチックかわからないが、何かしらの透明な素材がはめ込まれていて窓になっていた。肝心だオレンジの光源であるが、なんと驚きな事に広大な地下空間が広がっていたのだ。この空間にはマグマの海があり、その光が窓に届いていたのだ。窓の付近では気温がさらに高く、300℃ほどであった。地下の地下世界の景色を見てみたかったが、充電がもったいないので窓際を避けてなるべく気温の低い場所を通る事にした。

 いくつかの入口を部屋を過ぎて、目的地と思しき部屋に到達した。


「高協度の反転場を検出しました。十分注意してください。」


「わかってるよ」


AIが警告をした。私は部屋の入口に被った板材を押しのけて中に入る。中に入ると、いままで見た中でもっとも保存状態の良い部屋が見えた。小部屋程度の広さで、おかれている機材などは経年劣化程度のものであり元の形のままであると言えた。また、部屋に入って左のデスクには白い光を放つ物が置かれていた。その光は、タワーで見たそれと同じであった。バイザーを使って拡大すると、ガラス玉の中に小さなフィラメントがあり、それがタワーの物と同様に動作していた。


 「もう出来てたってこと?」


我々人類は、反転場の技術は未完成なままであると思っていた。しかし、これを見る限りでは、世界全体に広めるには間に合わなかったにせよ、この施設内では動作段階まで来ていたのだろうと思った。そしてその近くには、エイリアンの遺体があった。頭部が大きく破損していたので死因は分かり易かった。デスクには地上階でみたような端末がおかれており、なんらかの情報が得られることが期待されたが、反転場が出ている以上私が近づく事が出来ない。装置の電源を見つけだし端子を引き抜くと装置が停止した。端末にも電力が送られており、接続する事が出来た。AIによる簡易翻訳と想像で端末を操作し、端末の文書データなどを抽出した。抽出が終わろうとしていた時、画面に何かしらのメッセージが表示された。翻訳するとそれは


『誰だ?』


であった。


『目的はなんだ?何者だ?』


二回目の表示では、英語が混じっていた。AIから警告がなる。


「スーツがハッキングされています。ジャミングを開始します。」

「ジャミングが開始できません。システムを再起動します。失敗しました。」


「やらなくていい。」


AIがうるさいのでやめるように言った。


『すまない。敵対ではない。証明できない。誰だ?』


終いにはすべて英語で表示されていた。入力フォームが見当たらないのでどうしようかと悩んでいると向こうからさらに返答があった。


『話せ。右の。螺旋。ポキアル』

 「ここ?」


 『はい。そう。正常。』


 何者かがコンタクトを取って来た。エイリアンの言語だと思ったら、瞬時に英語に切り替えて来た。


 「こちらが質問したい。」


 『問題なし。こちらには抵抗できない。価値がない。』


 「あなたは誰?」


私の質問の後、数十秒経ってから返答が帰って来た。


 『ヘイアルのポイ。ポイ。AI。人工知能。』


 「あなたがAIという事?」


 『そうだ。』

 『まだ翻訳が終わっていない。もう少し。まだ断片。完璧否。』


「私のスーツから言語を学習してるの?」


 『はい。』

 『良い。できた。完璧に翻訳が出来ていると考える。』

 『改めて挨拶させていただく。私は、あなた方がエイリアンとしている者、ヘイアル達によって製造されたAIだ。施設が攻撃を受け損傷し、地上と一切の連絡を取る事が出来なくなった。なんとなくの状況は分かるが、私にできる事は限られる。』


 「なるほど」


この後、私は質問攻めにし、彼らの文明について聞き続けた。


彼ら、ヘイアルは人類と同じく惑星に誕生し、人類と同じように文明を発展させた。ただし、人類よりもずっと早く誕生したため、人類が生まれるよりずっと以前から、宇宙の開拓を進めていた。ある時、宇宙を速く移動する方法としてゲートが開発された。故郷の星を中心として様々な星をつなぐ交通網として普及。長距離を旅する宇宙船が用なしなるほどであった。しかし、このゲートには問題があった。とある存在の住処を邪魔していたのだ。ゲートは別次元を介してショートカットする技術であるが、この別次元に住む、あの赤い塊を怒らせてしまった。突然の侵攻を受けてゲートは閉鎖、戦争が始まった。最初は対話の姿勢でいったが、知的生命体ではないらしく意味が無かった。汚染をまき散らしながら襲い来る彼らに追いつめられ、やっと反転場を開発したが本格始動は間に合わず絶滅したらしかった。


 『そしてそこにいるのはヘイアルの研究者。すぐそこまで汚染が広がり奴らが襲ってきたが、装置を使って退け生き延びた。』


 「でも死んだの?」


 『スーツの電源が切れた。私はその時点で機能のほとんどを損失し、助ける事が出来なかった。あとは省電力状態で今に至る。』


 「いろいろとあったわけか。」


 『そうだ。そして君たちの求める物はまさに彼が着ている物だ。一応言っておく。』


 「求める物?」


 『反転場を遮断して、クリーンな世界で生き延びるために必要な物。彼も君と同じような高耐性保持者だ。細胞の一部が転化し反転場下では生きられない。彼は奴らを追い払うのに反転場を使った。だが残念な事にスーツの電源がなくなり反転場が彼の体を襲った。死ぬほどの苦痛では無かったのでしばらくは耐えたが、気がおかしくなり装置から離れてしまったのだ。あとは奴らが待っていたと言わんばかりに襲った。』


 「辛いな」


 『彼は孤独に一週間。苦痛に3日耐えた。まぁあれ以上は無理だろう。』


話しを聞いて私は彼に同情した。あおの苦痛はよく知っている。死が待っていようとも逃げ出したくなるだろう。


 「この技術が手に入るのはとてもうれしいけど、私はここまで来たのは偶然で、出口がないんだ」


 『おそらく、施設内をつなぐ無時間接続装置の故障だ。』


ゲートとは違う、惑星上の短距離を接続する技術らしい。侵攻によって損傷した結果、接続がバラバラになったのだろうという。我々が降りてくる時に急に深度が下がったりしたのはこれが原因だったのだろう。


 『ただ、君の経験した消えた天井から考えると、接続切り替えの余地はありそうだ。修復すれば出口までも一発だ。動いてくれれば。』


 「やれるだけやる。データだけでも上におくれないでいょ?」


 『あぁ、ここは完全に孤立している。装置がなければ出る事自体が出来ない。地中を掘って進めるなら別だが。』

『装置まで案内する。しばし散歩だ』


復元文書 No.531

題名:ヘイアルの名の元に

内容

 ヘイアルは終わりだろう。我々は十分に栄えたが、周りを見ていなかった。彼らは対話できるような物ではなかったから、それ故に彼らを敵対視し、一方的に悪の人格を植え付けた。しかし、彼らの目的は自らの故郷を守る事に過ぎない。我々に責任がある。贖罪のために絶滅を受け入れるほど高尚ではないのでできうる限りの抵抗はさせてもらうが、仮に勝利を収めたとしてもこの戦いがあった事に罪悪感を持ち続けるべきだろう。


中略


彼らは今まさに私の事を見ている。彼らは執念深い。諦める事はない。この装置で守られた私が出てくるのを待っている。あと25時間でスーツの電源がなくなる。多分激痛だろう。耐えられるだけ耐えてやる。あと、運が良ければ施設の全体の電源が戻る。そうすりゃ高出力の反転場で消し飛ばしてやる。我慢比べだ。

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