空の塔 第3節

我々が廊下を進むと最初に見た扉のように、無理やり何かが通り抜けた結果傷ついたと思われるような破損が増えていった。数多くの部屋があったが、どれも酷く破損していて回収できる情報は無かった。ある程度進むと間取りが複雑になり始め、何かの研究室の様相を醸し出した。そして同じように多くが破損し潰されていた。ヘッテルアンテナがあった場所だけは汚染が少なく、破損もしていなかったがその理由は分からなかった。

 破損が少ない場所を探そうとしていた時、隊員の一人が声を上げた。


 「エイリアンの遺体を発見しました!!」


全員がそちらへ向かい確認する。従来から何度か発見されてきた遺体である。遺体の状態から高耐性者のエイリアンの遺体と分かった。しかし、それ以上の発見は、遺体に大きな裂傷があったという事である。裂傷の中には赤い結晶が多く散見された。これは汚染地域に出現する赤い砂を同じ者であるが、なぜ傷口にのみ分布しているのかという疑問があった。さらに遺体のすぐそばの壁には裂傷と重なる大きな傷があった。そこにも結晶がこびりついており、壁に押し付けられて切り付けられた事が推測された。このような遺体は初めてであった。戦争があった事はなんとなく分かっていたため、このような遺体の存在は考えられるが、保存状態の良い遺体の様子から、これをした存在が未だに居るのではないかと思ってしまった。遺体の写真撮影とスキャンを一通り終えると、ドローンを使ってデータを地上まで送った。

 探査に戻り、破損の少ない方へと進もうにも、さらにさらに破損が増えていった。確かになにかの研究所ではあるが、とても情報がてにはいるとは思えない。途方に暮れながらも進める場所を行くと、周辺の建材とは異なる何かで出来たの巨大な塊が見つかった。黒い金属のような質感の何かであるがそれが何であるかはすぐに分からなかった。完全に初の発見であるため、スキャン作業を開始した。様々な機材を開き設置していると、塊がわずかに赤く発光し始めた。低音を発し始め、塊の一部が動き出した。赤く光った部位はカマキリの腕のような形状に伸び、我々の頭上をかすめるように横なぎをした。空振りは壁を壊し、隣の部屋に続くほどの穴を作り出した。突然の緊急事態に退避を使用としたが、鎌はすぐに構えなおし、我々に対して振り下ろしを行った。私のすぐ右の地面に突き刺さり床が抜けた。床にはかなりの大きさの穴が空き、私ともう一人の隊員、そしてその塊はともに穴へ落ちて行った。隊長がとっさに手を差し出したが間に合わず、私は落ち、落下中に何かに衝突した事で意識を失ってしまった。

 

 「映画とか作りたいんだよね」


「いいじゃん」


サキは明るい声で賛成した。


「なんか、だいぶ昔にちょっと遊びでやったよね」


昔馴染みであるサキとは、ちょっとした映像作品を作ったことがあった。私がSFが大好きなのでそういう世界観でつくったのだ。今見てみればあまりに陳腐で、音量バランスや編集のされかたが非常に雑で見れたものではない。やっと自由になったので、こんどはきちんと作ってみたいと思ったのだ。今のサキであればスキルが高いのでいろいろと教えてもらえるかもしれないと思ったのだ。


「編集ソフトって今どうなってるの?」


「まぁ基本変わんないよね。あと、リアルでの撮影なんてほとんどできないからVR使うね。」


「あぁなるほどね」


かつての時代ほど土地のないこの時代ではスタジオなどを作る余裕はないのでVR内で行うしかないのだ。


「やり方教えるよ」


私はVRを装着したが、うまく動かす事が出来なかった。私はサキに呼びかけたが反応がない。マイクがミュートされているのかとおもったがそうでもない。ただただ反応がない。状況が良くわからず焦っていると体に痛みを感じた。VRのフィードバックが狂ってしまったのかと焦ったその時、私は意識が戻った。バイザーにはサバイバルモードである事が示されており、スーツがロックされていた。高所落下から守るための機能である。


「意識回復を確認。サバイバルモードを解除します。」


スーツのAIがそう告げると私の体は自由になった。バイザーの情報が少しずつ復活し、視界がONになった。焦点が合うようになると前方にあの塊と、一緒に落ちてきた隊員の体が見えた。スキャナーが再起動すると隊員をスキャンし、無慈悲にも志望している事を示した。

「スーツ腹部を鋭利な物体が貫通しています。これによる失血死です。」


「そう・・・」


立ち上がろうとすると背中が痛む。ロックがかかる前にぶつけた場所だろう。


「軽度の受傷です。骨折はありません。鎮痛剤を使用しますか?」


「お願いする。」


塊はボロボロに崩れており、もはや動きそうでは無かった。全くもって正体不明な存在であるが、少なくとも危険性のある物である。また、あの遺体との関連性が疑われた。

少し冷静になると自分の状況を確認した。なんと、重力の値から深さ10kmほどである表記が見られた。気圧は深さ以上の高圧を示しており、気温は120℃ほどであったため、地熱の近くである可能性があった。しかし、AI曰く、落下は10秒ほどであり、ここまでの深さを示すような落下ではなかったはずと指摘した。落下中に突然重力が変わったと報告した。エイリアンの文明であるからして何かしらの理由があるのだろうが、答えを思いつくにはあまりに情報が少なすぎた。


「さすがに登れないか」


そう独り言を言いながら上を見上げると、さらに困惑する光景を見た。天井がしっかりとあるのだ。落下してきたはずなのに。修復した?この施設の機能?様々に考えたが、周辺を見る限り施設が稼働しているようには見えなかった。戻る方法が思いつかないまま座り込んでいるとAIが告げた。


 「微弱な信号を検知しました。7時方向に非常に微弱な反転場が検出されました。」


 「え??!!」


あまりの事実に驚いた私は勢いよく立ち上がった。反転場を作る機械やその設計図などは発見されてきたが、反転場の生成などは確認された事がなかった。そういうことで、これはかなり大きな発見である。どうやって戻るのか、そもそも脱出は可能なのかという事を忘れ、検出された方向に向かって歩き出した。









反転場とは何か ジャーナルパブリッシ ■■■■■■准教授


 反転場は腐食波の波源の転化を解消し、腐食波の発生を無くす機能を持つものである。反転場を理解する上で勘違いされている事として、「反転場は新しい場である」という理解をしてしまっている事がある。反転場は電磁場によって成り立っており、鍵による計算にて調整された信号を含んだ短波送信によって放出している。この信号を受けた転化物体は転化が解消する。これの原理自体はわかっていない。そもそも転化が本質的に理解出来ていないため、偶然にもそのように作用するから利用しているにすぎない。原理を解明する前に使用せざるを得ないほど切迫した時代に研究されていたため、そのあたりの証明や理解が不足しているのだ。

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