第13話 心の中での探索者

 潜航対象者の意識によって家の中に仕掛けられた悪戯の仕掛け。私とヒューノバーは翻弄されまくるのだった。

 ある場所には踏むとクリームパイが顔面目がけ飛んでくる。またある場所には踏むと爆発する小さな火薬。そうして紐に引っかかると顔めがけてバーナーが噴射。


「なんなんだこの家は! どこかに下層への入り口あるとしても妨害行為ばっかじゃねえか!」

「相当やんちゃな少年時代だったんでしょうねえ」

「……ホームでアローンな映画、存在する?」

「ああ、アース時代のリメイク作品ありますよ。自分も幼い頃見て兄弟と実行したら両親にこれでもかと叱られました」

「そりゃそうだよ! 私の時代でもやらかす子供居たんだから!」


 どこに入り口あるんだよお、などとぼやきながら悪戯仕掛けに引っ掛からぬよう注意を払って家の中を探索する。引っかかる度に子供時代の対象者がどこぞでくつくつと笑う笑い声が聞こえるので、大層腹が立った。


「あるとしたらどこか……二階にもある場合はある?」

「ええ、こちらに送られて来る前潜った時は地下室だったそうですが、先程見ても何もありませんでしたし場所が移動したんでしょうね」

「ローグライクのランダムダンジョンみたいなものか……。二階に行こう」


 先ほど踏んだ火薬玉を再び踏んで飛び上がったが、さっさと下層へと向かいたいのもあり悪態を吐きながら階段へと向かった。が、階段にも仕掛けがあるのが見える。小さな車の模型がこれでもかと階段に置かれている。処理しなければ踏んで滑って階段を転がり落ちるだろう。

 手で払いながら階段を上がると数室部屋の扉が見える。


「あり得るとしたら自室か」

『対象者の部屋は一番奥よ。気を付けてね』


 リディアの声に応じ奥の部屋へと向かう。足を引っ掛ける目的らしい紐が存在していたがそれを跨いで通り抜けるが、ヒューノバーが引っかかりビー玉の雨に見舞われた。


「なんなんだこの家!  いやいたずら童が! なるなら座敷童になれ!」

「ザシキワラシとは?」

「家に住み着くと福を呼んでくれる妖怪だか神様だよ」

「へえ〜、いいですね。自分の家にも住み着いて欲しいです」


 呑気な会話を交わしながら目的の部屋に入る。子供部屋だとひと目でわかるような内装だ。青い壁紙には落書きが所々散っているし、学習机にはタブレット端末が乗っている。


 棚には絵本や漫画が並べられていた。なんだかんだで紙の文化は残っているらしい。今までデバイス頼りだったため紙に触れる機会がなかったが、一般では普及しているようだ。


「下層への入り口があるならここですかね」


 ヒューノバーがクローゼットを開けたが普通に服が掛かっている。とすると後可能性があるのならば……。


 ベッドの下を覗いてみるとぽっかりと穴が空いている。ヒューノバーに知らせて二人でベッドを持ち上げて横に避ける。暗い底が見えない穴が存在していた。階段は無く、深淵にしか見えない。


「階段……じゃあ無さそうだね」

「こう言った落とし穴のような入り口もあるんです。本当に人によっては千差万別ですから」

「これ着地ミスって死なない?」

「大丈夫ですよ。行きましょう」

「うう、紐なしバンジーはちょっと怖いな……」

「それなら自分が抱き上げましょうか?」


 ええ? と思っていると、よいしょ、と抱き上げられて姫抱き状態になる。慌ててヒューノバーを止めようとするが、行きますよ。と暗い穴へと飛び込んでしまった。突如襲う浮遊感に汚い悲鳴をあげるが意味も成さず。


 二十秒ほど落ち続けるとふわ、と落下は落ち着き浮遊感は無くなった。


「ひい、死ぬかと思った……」

「そんなに怖がらず、潜航捜査官側も多少は自由は効きますから」


 降ろしてもらい周りを見回す。ここはどこだろうか。建物の中なのはわかるが。


『事前の潜航では第二階層は潜航対象者、ジョゼの職場です。下層への入り口は前回は倉庫でしたが、一応調べてください』


 リディアの声に、ヒューノバーと共に調査を再開する。窓から外を見てみると地面にはかなり距離がある。ビルの中なのだろうか。


「リディアさん、ジョゼはどちらに勤めていたのですか?」

『中小企業ね。そこまで大きな会社では無かったわ。けれど勤続十年以上ですし、周りへの聞き取りでも普通の社員だったそうよ』


 両親殺害の動機はここには無さそうだ。さっさと下層への入り口を見つけてしまった方がいいだろう。リディアの誘導に倉庫に向かったが、下層への入り口は無かった。


「ローグライク系ダンジョンって難しいんだよなあ」

「トイレとかあるんじゃないでしょうか」

「この会社トイレ何個あると思ってんだよ……」


 しらみつぶしに探していくしか無さそうだ。と色々部屋を周りながらトイレの調査をすることに。


 男性トイレばかり調べたが見つかることはなかった。ので二巡目で女性トイレも調べるとある女性トイレの個室に大きな穴がぽっかりと空いていた。


「なんで女性トイレに入り口あるわけえ?」

「さ、さあ……」

「ジョゼセクハラおじさんだったのかな……」


 今度は抱き上げられることもなく、戸惑いもなく穴に飛び込む。とそこは大層ご機嫌な方々の集うクラブであった。


「んぎぃ陽キャの巣窟!」

「わー、クラブってこんななんですね〜」


 ジョゼに女遊び激しかったのでは疑惑が出たが、ここは閉鎖空間と言ってもいい。どうせまたトイレにあるだろう。とトイレに向かう。と、個室を一室開けると、男女が絡まり合っていた。性的な意味で。


「失礼しゃっしたー!!!」


 どがん! と扉を閉めて足でついでに思い切り蹴り付けた。


「あれジョゼじゃなかったですか?」

「え」


 顔を見る余裕もなかったが、ヒューノバーには見えていたらしい。


「やっぱり女遊び激しかったのかな」

「まあここが出てくる時点でそうでしょうねえ」


 それちょっと偏見入っていないか。と思いつつ別の個室も調べるとまた穴が空いていた。毎度思うが恐ろしい穴だ。光を通さないし、真っ暗闇で不気味だ。


「よしじゃあ、行くか」

「あ、ミツミさん。手を繋いでもらっても?」

「え、なぜ」

『今回のジョゼの心理世界は大体第五階層までと分かっています。深く潜れるヒトには分からないと思いますが、ヒューノだけだと弾かれる場合があるの。だからあなたと繋がって潜る必要が出てきます』


 リディアの声に一応納得する。ヒューノバーと手を繋いで、行くよ。と穴に飛び込む。

 数十秒落下していくと、ふわりと落下が止まる。一面が白い空間に出た。


「ここは」

「病院、ですね。……すみませんちょっと休憩してもいいですか」

「ど、どうしたの。体調悪いの?」

「潜航酔いです。深層心理に近づくとなったりするんです」


 ヒューノバーは具合が悪そうに口元を押さえている。一旦休憩しよう。と待合室らしく場所のソファに座った。


 背中をさすってやりながら病院の様子をみる。受付には獣人の女性。待合室に座っている獣人も多くいる。ヒトを出すには色々面倒と以前ヒューノバーは言ってはいたが、深い場所では無意識に出るようだ。獣人の顔はぼんやりとしていたりはっきりとしていたりと様々だが、ジョゼの感じていた世界なのだろうか。


「リディアさん、ジョゼ本人か、両親のどちらかが入院歴があるんですか?」

『父親が入院していたわ。ハリス・ホーン』


 しばらくして落ち着いてきたヒューノバーと共に受付へと向かってみる。受付の獣人は顔がはっきりとしていた。


「すみません、ハリス・ホーンさんのお部屋は」

「三階になります。ナースステーションで詳しくはお尋ねください」


 顔の朧げな獣人たちとすれ違いながら三階に向かうエレベーターに乗り込みヒューノバーと会話をする。


「ここで下層への入り口見つけるのは骨だね」

「ええ……探索も仕事ですから、やる他ありませんが」


 三階に着いてナースステーションに向かう。顔のはっきりとした獣人の看護師に部屋番号を教えられ病室へと向かう。扉をノックして入ると、ジョゼ本人の姿が確認できた。ベッド横の椅子に座り込んでいる。ベッドにはジョゼに似ている狼獣人が座り込んでいた。


「父さん、この機会にちょっと休みなよ」

「俺は休み気なんてねえよ。母さんがいる。お前に任せすぎるのは嫌だぞ」

「母さんのことは俺も手伝うからさ」

「お前が心配する必要なんざないんだよ」


 お前にはお前の人生があるんだから。とジョゼの父親が告げるが、ジョゼは俯いた。こちらに背を向けているために表情は見えない。こそこそとヒューノバーに話しかけた。


「これって話しかけて大丈夫?」

「いえ、もう少し見守りましょう」


 しばしジョゼたちの話を聞くことにする。


「母さんの認知症、最近はあまり調子は良くないね」

「俺が戻ればまた違ってくるさ」

「うん……でも俺に出来ることがあったらするから、遠慮なく呼んでよ」

「……お前は親孝行もんだよ。いい息子を持った」

「へへ、そうかな」


 ジョゼの父親が入院している理由は謎だが、母親は認知症か。


 深層心理に近づくほど本能が現れると言うが、回想も見ることが可能だとヒューノバーからは教えられていた。

 リディアにジョゼ近辺の情報を教えてもらう。


『ジョゼの母親はかなり進行の進んだ認知症だったそうです。介護を苦に思っての殺人と考えられていましたが、これだと……』


 父親という存在が居る手前、殺人を犯すのはおかしいと言うことか。そろそろ声をかけてみなさい。とのリディアの声にヒューノバーが近づいて声をかけた。


「ジョゼさん」

「ん? 誰です?」

「心理潜航捜査官の者です。お話を聞きたく」

「スフィアダイバー? 何言ってんだよ。ここは現実だろ?」

「いいえ、あなたの心理世界です」


 ジョゼはの顔から色が消えた。父親の方はこちらを気にする様子もない。心理世界に置いての中心人物は潜航対象者のみだ。ジョゼ自身が攻撃性を持たない限り他の人物は動くことはない。


「……そうか。そうかい。そうだったなあ。俺の心をいじくり回した奴らがいた。お前らもそうだって言うのか。ははっ」

「理由をお聞きできませんか」

「嫌だね」


 がた、と椅子から立ち上がると椅子は転がってしまった。


「本当の俺を見ることなんて、お前ら如きに出来るわけねえんだよ!」


 ジョゼは窓に向かって走り出したと思ったら、窓に下層への入り口が現れた。それにジョゼは飲み込まれていった。このまま逃すわけにはいかない。ヒューノバーの手をとって助走をつけて入り口に飛び込んだ。

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