5
「いやいや、待て待て待て!」
さすがに耐えきれなくなった俺は、話し手──
「なんだよ、『肌』って! なんだよ、『感じる』って」
「えーもっと直接的な表現がいい? じゃあ、セッ──」
「やめろ、聞きたくねぇ!」
両頬を遠慮なくつねると、神森は「痛い痛い」と抗議の声をあげた。
「ひどいよ、叶斗くん! こんなのただの妄想じゃん!」
「お前の妄想に、俺と大賀を出すんじゃねぇ!」
しかも、俺がこのモフモフ野郎の妻?
「ありえねぇ……見ろよ、これ!」
「アハハ、叶斗くん、めちゃくちゃ鳥肌たってる!」
笑い事じゃねぇ! それくらい嫌だってことだろうが!
俺は短く舌打ちすると、苛立ちの矛先を、さっきからずっと無言を貫いている同居人に向けた。
「大賀、お前も黙ってねぇで何か言え!」
俺とお前が結婚してるとか、いくら妄想話だとしても耐えられないだろ?
同意を求める俺に、大賀は眠たそうに視線をあげた。
「俺の妻が若井だというのは、設定としておかしくないか?」
ほらな! やっぱりお前もそう思うよな?
「えーそう? 尊くん的には、お相手が叶斗くんなのは不満?」
「不満というわけではないが、俺も若井も元ピッチャーだ。通常ピッチャーの女房役といえば、キャッチャーを指すのではないのか?」
それな! 大賀の指摘どおり!
そこは、ふつうキャッチャーだろ!
──不満じゃない云々はひとまず置いておいて。
「えーじゃあ、尊くん的には
「ああ。俺の助言にはまるで耳を貸してくれない」
「どうせお前、また無神経なことをあいつに言ったんだろ」
アーモンドフィッシュをつまみながら、俺はじろりと大賀を見た。
「ど直球の正論とかさ。お前、そういうの平気で人に投げつけるもんな」
「アハハ、たしかに! 高校時代もど真ん中への剛速球ストレートが売りだったもんねぇ、尊くんは」
俺たちに
そこから元チームメイトだった新島友成のカノジョがいかにヤバいかの話になり、さらに「でも、カノジョほしいよなぁ」「わかるー」と俺と神森で盛りあがり、大賀はこたつでウトウトしはじめた。
夜も更け、神森が「帰りたくない」とゴネるので、居間に客用布団を敷いてやることにした。本来なら客間に案内するところだけど、今は大賀が居座っているので居間にしか寝床を用意できないのだ。
「ねえ、叶斗くん。明日の朝ごはん何?」
寝る間際、神森がキラキラした目で訊ねてきた。
「知らねぇ。明日の当番はあいつだから」
「あいつって、尊くん?」
「そう」
再び同居するようになってから、大賀はまた料理をするようになった。だいぶ腕もあがってきたので、最近は週に1回、朝食を任せているのだ。
「なーんか
「そうそう、ミルクセーキを爆発させた大賀がなぁ」
奥さんのしつけが行き届いてますねぇ、と神森が笑う。
うるせぇ、と返すかわりに、俺は神森のケツを遠慮なく蹴飛ばしてやった。
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