14話 星なんかに願うな

。何をしてようが、気にしなくていい。何をしたっていい。傷つけても……殺したって、構わない」

「……」

「心が、そこにないんだから」

 四季が確かめるように言った。

 この一週間、繰り返し言われてきたこと。

 くだらない空想だと思っていたことだ。

 でも、このときはそれがすっと腑に落ちた。

『ように』と判を押したように願い事を重ねる彼らは、きっとみんなゾンビなんだ。

 ゾンビたちは、どうだってよさそうな『ように』で言葉を結ぶ。

 だって、ゾンビには本当は願いなんてないのだから。

「現。星なんかに願うな」

 四季はポケットからライターを取り出した。緊張が走った。

「神様にも願っちゃいけない」

「……」

 四季は願い事の短冊の一つを手に取ると。

 ボッ。

 炎が上がる。

 色とりどりの短冊に書いた願いごとも、笹の葉ものみ込んで、全部を同じ赤に染めていく。

 火の柱が立ち上り、それは――。

 炎に包まれて燃えつきていく、ゾンビそのものだった。

「私と現以外、みんなゾンビなんだから」

 四季は神様さえもゾンビでしかない、と言い切る。

 風が吹く。

 木々がゆれる。

 そうか。笹をゆらすために、風が吹いているわけではない。

 ……そうだったんだ。

 四季の言葉が、僕の心を支える。


 ――私と現以外、みんなゾンビなんだ。


 僕と四季以外の全員が、心のないゾンビだと思えば……。

 僕は、こんなにも楽に息をすることができる。

 四季が与えた、テキオー灯だ。

 カオナシがしにますように、か。

 誰が何を言おうと、そこには感情なんかそもそもないってこと。

 僕をいじめるのも、風が葉をゆらすのと変わらない。

 ゾンビが腕を意味なく振り回し、たまたまそこにいた僕がぶつかったのと同じ。

 偶然なんだ。

 そもそも、願ってもいないんだ。

 ゾンビが腹も減っていないのに、人間をおそうのと同じ。

 僕と四季だけが人間。

 残りの『人間』たちは、心も意思も持たないゾンビ。

 生きる理由があるのは、僕と四季だけなんだって。

「指、出して」

 僕は言われるがまま、手をさし出した。

「現。今日のこと、絶対忘れるな」

 四季はそう言って、僕の薬指に指輪のように針金を巻き付けた。短冊を括りつけていたものが燃え尽きた残骸だ。

「私も、忘れない」

 四季も僕と同じように、指にそれを巻き付けた。

 結婚指輪みたいだと思ったけど、声に出していうのははばかられた。

 結婚なんて、そんな安いもんじゃない。

 僕と四季が、ゾンビだらけの世界で生きていく誓いの証しだ。

 指に巻き付けた針金――『指輪』を見ると、とても誇らしい気持ちになった。

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