15話 返り血を刷り込む日々 

 僕は夏休み明けから学校に行き始めた。

 だけど、僕の心持ちが変わっただけであって、クラスメイトたちは何も変わらないのだ。

 僕はしいたげられるたび、また学校に行くふりをしてさぼってしまう。

 でも、僕は四季の言葉を信じたかった。

 みんなゾンビだ、ゾンビに心はないんだ、と思い込むという魔法。『指輪』を見て自分を奮い立たせ、学校に何度も向かった。

 しかし、結局は恐怖で解けてしまう。

 テキオー灯にも、持続時間があるのだ。

 心がくじけるたび、四季は必ず僕に同じ『哲学的ゾンビ』の話をくりかえしした。

 僕に、心の中で何度もゾンビを殺させた。返り血でモヤがうまく晴れた。

 テキオー灯を使い続けたのだ。

 といっても、実際のテキオー灯とはもちろん違う。僕のなかのゾンビの実感をリアルにしていくのには、一日、一週間、一ヶ月、

 僕の中にはずっと『あいつらはゾンビなんだ』という意識はあるけど、それは簡単なことで遠ざかってしまうのだ。

 親は、すぐに問題から逃げようとする僕にうんざりしていた。

 僕が学校で事件に巻き込まれても、庇うどころか詳しく事情を聞こうともしなかった。

 家庭科の調理実習中、僕は林田たちに突き飛ばされ、コンロにつっこんでしまい、髪が燃えてしまったことがあった。

 それも、学校では『友達同士の悪ふざけ』ということで処理され、親からもこっぴどく叱られた。

「どうして真面目に授業が受けられないんだ?」と父親が言うのを見て、僕はこの人もゾンビなんだと確信した。

 母親は、僕の話題が上がるたびに父親が不機嫌になるのを察してか、段々と僕から距離を置くようになった。

 別にいい。予想どおりだ。

 ただ、僕には四季がいる。一度だって僕を見捨てなかった。

 必死に僕の名前を呼んでくれた、四季がいるんだ。

 僕も彼女に応えたくて、何度も自分の中にその意識を、返り血を刷り込んでいった。

 ……ただ、僕には一つだけひっかかりがあった。

 四季はどうして、こんな僕を導いてくれるのだろう?

 見知らぬ『弟』をかわいそうに思ったから?

 新生活を迎えるにあたって、同じ立場の仲間がほしかったから?

 僕のことが好き?

 まさか。

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