13話 ように。ように。ように。

「現?」

「……」

「現! どこにいるの?」

 四季の上ずった声。僕の名前を叫んでいる。

 心がしびれた。

 だって、誰も僕の名前をあんな風に強く、真剣に叫んでくれたことはない。

 誰かが、僕を探してくれたことなんて一度もない。

「……」

〈お姉ちゃん〉?

 一度もまだ、彼女を呼んだことがなかった。

 なんと呼べばいいのかわからなかった。

「現!」

 四季が目の前に現れた。汗で額に髪が張り付いていた。

 汗ひとつなく、体温がないみたいな顔しか見たことがないから、その必死な形相が僕を硬直させる。

「四季」

 僕は四季の名前を呼んでいた。すごく、自然に呼ぶことができた。

「現、呼び捨て?」

 人懐っこい笑み。作り笑顔だとわかっていても胸が締め付けられる。

 そんな風に笑わないでほしい。

「……」

 僕は泣いていた。

 ずっとがまんしていた。

 どうして、僕に死んでほしいなんて思うんだろう?

 僕には顔もあって、みんなと同じように哀しい気持ちになるのに。

 笹のわきに、白い看板が立てられていた。

 四季がそれを読み上げた。

「『自分が言われたら嫌なことは、ほかの人の心も傷つきます。短冊に書かないようにしましょう』」と四季はそれを読み上げて、笑った。

「……どうして、僕が死ぬことなんか願うの?」

 四季にたずねてもどうしようもないとわかっていながらも、きかずにいられなかった。

 彼女は僕の視線から、『カオナシ』が僕のことだと察したのかもしれない。

「こんな願い、叶うわけがない。『ように』とか言ってるやつらの願いなんて」

「……ように?」

 呆気にとられた。

「見てみな?」

 僕は短冊の願い事をひとつずつ読んでみた。

 願い事は一つ一つ違うのに、すべてが『ように』と結ばれていた。

 ――志望校に受かりますように。

 ――Nくんと結婚できますように。

 ように。ように。ように。

 作り物の笹の葉からは、示し合わせたかのような無数の『ように』がつり下がっていた。

 蚊柱が頭をよぎった。

 ――カオナシが しにますように。

 そんな、蚊の一匹。

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