10話 托卵されたゾンビ

 翌日からも、四季は僕の部屋をたびたび訪れては、『哲学的ゾンビ』について語った。

 どうしてしつこくそんな風に語るのか、僕に構うのか、わからなかった。

 ときどき心を開きそうになってしまうけど、気を許してしまうのは怖い。

 もし、僕のことを嫌いになってしまったら。どこかにいってしまったら。

 きっと、耐えられない。

 僕は、四季と母親の玲美さんの存在になれていくのに必死だった。

 朝、学校に行くふりをして家を出ることだけが面倒だった。

 気づいたら、夏休みが始まろうとしていた。

 父親は、玲美さんが来てから途端に僕にちょこちょこ話しかけてくるようになった。「宿題、終わりそうか?」なんて、話題に困っているのはまるわかりだったけれど。

 それでも少しだけ嬉しかったのが、逆に寂しかった。

 再婚前までは、僕に興味を示さなかった。僕がたびたび病気を理由に休むことを気にかけた担任から、何度か電話がかかってきていた。父親は、面談を提案されても何か理由をつけて断り続けていた。

 あるとき、父親がヒートアップし、電話のむこうの担任に放った言葉を聞いて以来、僕はあの人を親とは思えなくなった。

 父親はあのとき、言ったのだ。

『面談のために仕事を休めというんですか? できるわけないじゃないですか、私は現を育てることになっているので』、と。

 なっているので?

 その言いぶりは、他人の卵を託されてしまった一羽の鳥のようだった。好きであんな息子といるのではない、と言うのと同じだった。

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