8話 ゲームのキャラクターは哀しむのか?

 四季は黙った。僕にその『ゾンビ』の説明をするために頭をひねっているようだった。

 僕は息をのみ、緊張しながら次の言葉を待っていた。

 四季は床を軽くけり、回転するイスでゆっくりとまわり始めた。

 制服のスカートがはためく。

 目のやり場に困り、首から上に視線を固定する。なびいた彼女の髪の内側が、ツーブロックに刈り上げられていることに気づく。

 女の子の髪の内側を見てはいけない気がして、僕はまた目をそらす。

 彼女は無邪気なようにも見えたけど、いそがしく動く目は、部屋を観察しているようにも見えた。

 ぴた、と四季は足でブレーキをかけ、イスの回転を止めた。

「そうだ。現はゲーム好き?」

 四季は、まるで一緒に育ってきたように、「現」と慣れた調子で僕の名前を呼ぶ。

 それが、すごく不思議だった。

「うん……」

 おそらく、部屋にあるゲーム機や、本棚のゲームの攻略本を見て思いついたのだろう。

「ドラクエやるんだよね?」

 僕は新しいゲームは買ってもらえず、父親が昔やっていたものをもらうだけだった。日に焼け、黄ばんだゲーム機。

 たぶん、同じクラスでスーパーファミコンをやっているのは僕だけだ。

「あの、ビアンカとフローラと、どっちと結婚するか選ぶやつだけ……」

「Ⅴね」

『ドラゴンクエストⅤ』には、男主人公が結婚をするシステムが設けられていた。

 幼なじみのビアンカか、お金持ちのお嬢様のフローラ。

 結婚相手を選ぶことができるが、当然、選ばれなかった方は健気に笑いながらも傷つく。

「どっち選んだの?」

「……フローラ」

 僕は答える。ゲームの女キャラの名前を呼ぶことさえ、恥ずかしかった。

「なんで?」

「お金、もらえるって……攻略本に書いてあったから……」

 必死に会話についていこうとする。声が震える。自分の声が大きいのか小さいのかさえ、わからなくなってきた。

 そう。お嬢様のフローラを選ぶと、彼女の父親から冒険中にお金やアイテムがもらえる。

 ビアンカにメリットはないが、気持ちの問題で幼なじみのビアンカを選ぶ人が多いともネットで見たことがある。

「へぇ、現って面白いんだね!」

 四季は大笑いした。何が面白いのか、僕にはわからなかった。

「じゃあ、選ばれなかったビアンカは哀しんだかな?」

「……え、うん」

 いざそう尋ねられると困る。

 だって、ビアンカはにはしていたけど、彼女はゲームのキャラクターなのだから。僕も、それは理解していた。

「でも、

「……?」

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