6話 私と君以外、全員ゾンビなんだって知ってた?

「……」

 沈黙が流れる。

 さっきの言葉は、なんだったんだろう。

 ――私と君以外、全員ゾンビなんだって知ってた?

 僕と四季以外、ゾンビ?

「あの、さっき言ってたのって……」

「さっき?」

「ゾンビが……なんとかって」

 どうしよう、見当違いなことを言っていたら。

「……これを聞いたら、もう戻れないよ。それでもいい?」

「戻れないって」

「もう、今までの日常には戻れない」

 テレビゲームか何かみたいだ。魔法の世界へ連れていかれるとか、そういうのと同じようなことを言っている。

 日常?

 こんな日常、戻りたいはずもなかった。

 もし、全然別の世界へ行けるんだとしたら、そうしたいに決まってる。

「はい、いいです」

「ん。わかった」

 四季は、携帯灰皿にタバコをねじ込んだ。立ちのぼる煙が、天井にたまって渦を巻いた。

「この世界にいる人間は、現と私だけなの。それは説明したね?」

「……はい」

「そのほかの人はみんなゾンビ。人間になりきって、泣いたり笑ったりしているフリをしているゾンビなの」

 ふと、四季の笑顔が消える。

 赤っぽい髪とコントラストをなすように、冷たい印象だった。

 肉付きが薄く、無表情だからかもしれない。

 ハッと思い出したように四季は僕に笑いかける。急いで作った笑顔は、顔立ちと違って子どもっぽくて、人なつっこく映った。

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