2話 死さえ、僕を嫌ってこばんでいるようだった
「あー、ごめん。お前の願いなんか誰も聞かないって言ったの、ウソだから」と、林田は顔の前で謝るように手を合わせた。
「……?」
「そもそも、お前が何かを願うこと自体がいけないことなんだよ」
「……あ、あ」
三人は、急に今までのやりとりなどなかったかのように無邪気に笑い合い、「お前、何書いたんだよ?」などと互いにふざけあいながら、教室を出ていった。
全員がいなくなったあと、僕はふやけた短冊を口から出した。切れはしに、僕の願いだった何かがにじんでいた。
僕は小学校に入ってから、学校を休みがちだった。理由はわざわざ説明するまでもない。学校に行くと、こういうことが起こるとわかっているからだ。
それでも、今日は勇気を出して学校に来た。
七夕をきっかけに、もしかしたら誰かと仲良くなれるかもしれない。
息苦しくなくなるかもしれない。
そんな風に勇気を出したことを、すごく後悔した。
あいつらは、本当に僕と同じ人間なんだろうか?
あいつらにも、誰かを大切に思う気持ちとかがあるんだろうか?
わからなかった。
……家に帰ることさえ、気が重くて仕方なのに。
今日は、父親の再婚相手と、その娘が家に来る日だ。
その娘……僕の姉となる人は高校生らしい。僕がまたカオナシ状態になったら、きっとその姉も僕をしいたげるに違いない。
――テキオー灯がほしい。
どこにもなじめなくて、いつも胸が苦しい。
僕は家でも学校でも、一度だって自由に息が吸えたことはなかった。
林田たちだけじゃない。クラス替えが起こるたび、似たようなやつが目の前に現れて、僕をいじめる。
この世界には、誰かが必ず、僕のことを悲しませなくてはいけないというルールがあるようだった。
林田だけが嫌なやつなんだったら、それでいい。卒業までがまんすればいいのならどうにかなる。
でも一生、僕が行く先々に、林田みたいなやつが必ず待っているようにしか思えなかった。卒業しても、転校しても、大人になっても、ずっと一緒なんじゃないだろうか。
今日家に来る母親と姉も、きっと僕のことをしいたげる存在なのだ。
父親だって、絶対に僕のことなんか助けてはくれない。
お前は生きてちゃいけないんだと、みんなして教えにくる……。
こんな繰り返しが、ずっと続くのか?
僕はまだ一一歳だ。あと、七〇年くらいは生きてしまうことになる。
あと、七回もこれを繰り返さないとおわらないのか?
交通事故とかでうっかり死んでしまえればよかったけど、自分から飛び込むのは怖い。
死んでしまいたいのに、その死さえ、僕を嫌ってこばんでいるようだった。
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