第2話 赤くも青い空
「もしかしてツンデレなの」
彼女は表情をコロコロ変化させ片眉を器用に上げて笑っている。これがニヤニヤと、表現される顔なのだろうと理解した。この短いようで長い語らいの日々は彼女と私を育てていく。初めて歩いた時と、この茜色は変わらないのに今はとても温かい。
私は──彼女と歩く堤防を心待ちにしていた。
どこまでも長いこの堤防、家路の温かさが身に染みる。
「明日、仕事……行きたくない」
茜色が指すこの堤防で、小さく響く悲しみの叫び。
彼女はいつのまにか大人になり、紺色のスーツを着込み四角の鞄を重そうに持っている。
「行かなかったら、次の日も行きづらくなります」
「……正論、そうよね」
そう言って、俯き歩く彼女は痩せた。アンドロイドの私でも気がきくことを話せるだろうか。
「転職ならアリです」
「でも、石の上にも3年って──」
「どこの誰ですか、古代インドの僧ですか。法律でもなく見知らぬおじさんの言葉です。貴方とは関係ありません」
最近の彼女は表情が抜け落ち、顔色も悪い。
「そう、かな。そうだよね、私の人生だし」
ここのところ彼女はマイナス思考。そもそも人間はネガティブ本能が刻まれている。身を守るための必要な機能であり危機を察知しやすい特性だが、あまり敏感すぎると自分を苦しめる鎖となる厄介なものである。
「自分だけは自分の味方でいてください。それが無理なら、私が貴方の味方でいましょう」
俯き黙ってしまった彼女。予測、他人に酷い事を言われたのだろう。
「他人の話は半分に聞くものです。何故なら他人は貴方のことを100%理解出来ないからです」
これ以上のマイナス思考は健康状態の悪化につながるので推奨出来ない。
「でもね、他人にがんばったねって言ってほしいの」
「それは難しいです。他人は貴方の欲しい言葉を的確に話せません。──勝手に期待した分傷つくのは貴方です」
「──確かに。そして今、結構傷ついたんだけど」
どうやら私は言い方が悪かったようだ。けれど、健康悪化するのを止めたいのが最優先なのだ。
「それはすみません。話は半分で聞いて下さい」
「まあ、いいわ。便利な言葉ね」
話しているうちに、頬が緩んだ彼女は少しいつもの調子が戻った。
「貴方は何も悪くありません。その他人と波長が合わないだけです。仕事も頑張っています──貴方は必要な人間です」
この最後の言葉は言うつもりは無かった。会社や社会体裁より彼女の生命の方が尊い。そう考えると──なぜだか言葉が出た。
「堰を切ったように褒め出すわね」
呆れたように微笑む彼女に心で呟く。
一緒に乗り越えて行きましょう──これまでもそうだったように。ニ人なら、この長い堤防の先にどんな事があっても乗り越えられるはずだから。
「……マキナの言う通り、転職考えてみよっかな」
ここから彼女は無事転職をし、苦労あれど穏やかな暮らしが始まった。
次回最終回。
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