第12話 魔道具カトラス

カトラスを買って帰った翌日の朝、僕は机の上に置いたカトラスと向き合っていた。


ドーラさん曰く、特別な儀式などは何も必要はなく、ただ自分の血をカトラスに一滴垂らすだけだという。


僕は一つ息を飲み、右手で用意していたナイフを握る。


「ミドル様、安心して手を切ってください。すぐにわたくしが治しますから。」


小さくなったアストレアも見守って応援してくれる。


僕は”よし”と気を引き締め、


左手の人差し指にナイフで傷を入れた。

僕は急いで指の先を下に向けた。


傷を入れたところから、ツーっと血が流れてきて、ポタンと一滴落ちた。


すると、カトラスが一度明るく光り、しばらくしてまた元に戻った。


「終わったのでしょうか。」


アストレアは僕の指を治しながら聞いてくる。


「たぶん。つけてみるか。」


僕はそう言って、右腕にカトラスをバックラーのように装着してみる。


そして、念じる。


すると、みるみる形が変わり、縦の形からあっという間に短剣に変わり、握っていた拳の中に握っている状態になった。


盾からどうやって変わるのかと思ったが、右の手のひらに吸い付くように短剣がついてきた。


恐らく自分の血を入れたことによってこいつは僕の血肉と同じ扱いのようになっているのだろう。

全くつけていても違和感を感じない。


「すごい武器ですね!」

「うん。」

「早速試しに行きましょうよ!」


そう言って僕らはいつもとは少し遅いが、ダンジョンに向かった。






今回は8階層にやってきた。8階層も6階層と同様に毛皮をドロップする獣系の魔物がいる。


しばらく、歩き回っていると一体のモンキートとエンカウントした。


モンキートは格闘術を使う猿型モンスターでタイマンを好む習性がある。


「アストレアは今回は見てろよ。僕がカトラスの性能を試すために戦うから。」

「はい。」


剣に手をかけて、引き抜こうとしていたアストレアは僕の言葉を聞いてその手を直す。


僕はその様子を見た後に、モンキートと向き合う。


モンキートは頭に響くような鳴き声を上げた後、こちらに向かって先に仕掛けてきた。


モンキートが左手でパンチをしてきたが、僕はそれをカトラスで弾く。

攻撃を弾かれて体制を崩した隙に、カトラスを短剣に変えモンキートに振りかざす。


その刃はなんの抵抗も出来ないモンキートの首を掻き切り、モンキートは消えた。


「ミドル様素晴らしい戦いっぷりでした!!わたくしの出る幕などありません!」


戦いが終わったのを見て、アストレアは拍手をしながら、そう褒めてきた。


「凄いのは僕じゃなくて、カトラスなんだけどね。」

「その凄い武器を使いこなせるのが凄いのです。流れるような武器の変形でした。流石、ミドル様ですよ。」


と、何故かアストレアが自慢げに言った。


しかし、このカトラスにはとても驚かされた。

盾と短剣の変更が時間を争う戦いの中でどうなるのかと思っていたが、一切それを感じさせない性能で僕の心配は杞憂で終わった。

むしろ、僕に馴染みすぎて怖いぐらいだった。



僕らはそれから、アストレアと協力しながら、いや、殆どがアストレアの手によってモンキートは消し去られてしまった。

僕の初戦闘を見て感化されたアストレアの気のすむまでモンキートと8階層で戦い続けた。


日が下がり始めた頃に、モンキートのドロップ品の皮をいつも通り冒険ギルドに全て提出し、今日は帰宅した。



―――――――――――


本日より別作品「迷子の妹を送り届けた着ぐるみの中の人が俺だと知ったクラスのマドンナがぐいぐいやって来る」を公開いたします。

今日は3話分公開しますので一読してみてください。


あらすじ


『私たち、分かれよ』


ゴールデンウイークに入った初日、幼馴染で彼女でもある有村唯ありむらゆいからの電話に出た瞬間そんなことを告げられた俺、田原輝たはらひかるはある日、着ぐるみのバイトの最中一人の女の子の迷子に遭遇する。

迷子の子を送り届けるとそれは、同じクラスのマドンナ松村陽菜まつむらひなだった。


陰キャの俺は自分の身を隠して、彼女と関わることに決心するがとあることで俺が田原輝だということがバレてしまう。

そこから彼女の態度が急変する。

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