第11話 老婆のドーラ

アストレアが変化を覚えた次の日、僕はダンジョンには向かわず町へ向かって歩いていた。


「ミドル様、今日はどちらに行かれるのですか?ダンジョンの方向では無いようですが……。」


アストレアはいつもの通り、ローブのフードの中から顔を出し、尋ねてくる。

変化が出来るからローブの外に出てもいいと言ったのだが、「わたくしはこっちの方がいいので」とか言って、頑なにローブから出ようとしなかったので仕方なくそのまま出発した。


「今日は、僕の武器を買いに行く。」

「ミドル様のですか?」

「ああ、この前のゴブリンのときみたいに万が一の場合があるだろう?その場合に備えておくんだ。備えあれば患いなしだ。有難いことにお金も少しづつ溜まってきたしな。」

「なるほどです。」


そんな話をしながらも町に到着し、武器屋を探ししばらく歩き回るが、あまりピンとくるものがなく困っていた。


「いい物が見つかりませんね。」

「そうだね。いいと思ったものはすっごく高かったりするから今は買えないしね。」


そんな時、遠くに見覚えのある二人組を見つけた。

カエルのフロッグとムササビのスクアラルをパートナーとするサモンズの仲間、ハケスとレノンだった。


彼らは、少し周りをキョロキョロと見渡し何かを警戒しながら細い路地裏に入っていった。


「あの2人怪しいですね。」

「ああ、後を付けてみるか。アストレアはフードから出て来ないでよ。」


そう言って僕が彼らを追って行くと、彼らは薄暗い路地をしばらく歩き、1つの建物の中に入っていった。


看板を見ると、武器屋と書いてある。


「こんなとこにも店があったんだな。」


僕は、そんなことを思いながら店の外で彼らが出てくるのを待っていた。

今入ってしまうとアイツらと鉢合わせてしまって面倒なことになるからだ。



しばらくして、彼らが話をしながら店から出てきた。


「やっと、準備が整ったな。」

「ああ。これで、サモンズのやつを懲らしめられる。」

「来週に決行だ。今に覚えてろよサモンズ。」


そんなことを話し、ハケスとレノンは不気味な笑みを浮かべ帰っていった。




「えらいことを聞いてしまいましたね。」

「そうだな。」


2人が去るのを見届けて、アストレアが僕にそんな事を聞いてきた。


「どうするのかって聞きたいんだろう?」

「はい。」

「そうだな、まずこの武器屋を見てから考えよう。人の心配よりも先に自分の心配をしなきゃだしな。」

「そうですね。」


そうして、僕はハケスとレノンの入っていた店の古びたドアを開けると、そこには今まで見た武器屋では見たことのないような武器がいくつも並んでいた。


「いらっしゃい。」


奥からそんな声が聞こえ見てみると、そこには一人の老婆が立っていた。


「初めて見る顔だね。こんな路地裏の奥にあるうちの店をよく見つけられたね。」

「み、道に迷って歩いていたら見つけました。」


僕は何故か分からないがとっさに嘘をついた。


「……そうかい。ゆっくり見てお行き。」


少し間のあった返しをして、老婆はゆっくりと近くの椅子に腰かけ、目を閉じた。


僕は老婆に言われた通り店の武器を見て回っていると、気になった一つの武器を手に取った。


それは一見普通のバックラーのような盾に見えた。


「そいつはカトラスって武器だい。」

「カトラス?」


座って目を閉じていたはずの老婆が僕の様子を見て話しかけてきた。


「うちの店は武器屋と言っても魔道具専門の武器屋でね、そいつも魔道具の一種だよ。そいつに魔力のこもった血を垂らすと、好きな時に盾にも短剣にもなる武器さい。」

「そんな武器があるのか。」

「パートナーが強いお前さんの戦い方的にはもってこいの武器さいね。臨機応変なこういう武器は。」


僕はその言葉に驚いた。

アストレアはこの店に入ってから一度も姿を見せていない。なのにこの老婆はアストレアの存在だけではなく、強さまで見破ってしまったのだから。


「お二人さんとも、ビックリしたって顔してるね。」

「はい。驚きました。どうしてわたくしのことが?」


アストレアはローブから出てきて小さいままの格好で老婆に尋ねる。


「この店をやっていろんなテイマーを見てきたからね。良い奴も、悪いやつも。強いやつも弱いやつも大体わかるんじゃよ。」


老婆は笑いながらそんなことを言った。


「道に迷ったってのも嘘じゃろ?どうせ、さっきの二人組を尾行したら見つけたみたいなことじゃろう。」

「ははは、僕の嘘もバレてたんですね。」

「当たり前じゃろ。あたしを誰だと思っとんじゃ。」

「バレたついでに一つ聞いても?」

「何じゃ。」

「そのさっきの二人組はどんなものを買って行きましたか?」

「さっきの子たちか?さっきの子達は、確か……。」






「おばさん、また来るね。」

「おばさんとはなんじゃ。あたしゃまだ若いよ。あたしの名前はドーラじゃ。ドーラと呼びな。」

「ドーラさん、また来るね。」

「ああ、いつでも待っとるぞ」


僕は不思議な老婆、ドーラの話を聞いた後、日も落ち始めていたのでカトラスを購入して店を出て家に帰った。

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