第26話 デート・パーク その1

 遊園地。

 昔は、よくいった記憶があった。幼馴染だから、そういうイベントごとは決まって一緒にいったものだった。親の仲が良いから自然と、だったな。

 だからこうして二人きりでいくのは初めてだった。恋人になってから、近くのショッピングモールには、デートでいったりはしたが、遊園地なんて、デートらしいデートはしていなかった。

 牧野との思い出作りには良いのかもな。

 それに、もう心の中では決めていたのだ。

 世界よりも、牧野を選ぶと。

 さっきまでは踏み出せなかった、迷っていた、これが正しいのかって――でも、今は一緒にいたいと思っているし、もっと一緒にいたいと……。迷いはない。

 牧野のためなら、世界を殺す。

 全てを犠牲にしてでも、牧野だけを失う最悪のエンディングだけは、迎えさせない。

 これが俺の答えだ。

 だから俺は立ち上がる。

 悩みなんて吹き飛んだ。自分の考えが決まれば、こうも動きたいと思えるのか――。

 体が、今にも牧野を抱きしめたくて、うずうずしている。

「よしっ、いこう!」

 すぐに牧野へ電話した。

「明日、遊園地にいこう!」と。

 あと、「今までごめんな……」とも。

 そんな俺の言葉に牧野は、「いいよ」と言ってくれた。

 本当にバカだった。ずっと牧野を避けて、悲しい思いをさせて――俺は彼氏、失格だ。

 だから世界が終わる、その日までは、俺は牧野を守り続けると誓う。

 ずっと一緒にいると誓う。それが俺の、最後の役目だ。


 ―― ――


 翌日、俺は牧野と共に電車に乗り、五つ先の駅を目指す。

 そこにあるのはオープンしたばかりの遊園地である。

「遊園地なんて久しぶりね」

「そうだな、高校生になって遊園地なんていかないしな」

「しかも今日は二人きりだしねっ」

「……そうだな」

 言われると意識してしまうな。幼馴染としてではなく、恋人としてだから。

 二人きりの時なんていくらでもあった。俺の部屋で二人きりの時の方が、ドキドキしてもいいくらいなのに、なぜか遊園地というシチュエーションだと、こっちの方がドキドキする……。

 部屋に牧野がいる状況が、俺にとっては普通になっていたってことか。

 幼馴染だからこそ、だった。

 牧野は、今日のことだけを聞いてくる。俺が抱えていたことにはまったく触れず、俺が閉じこもっていたことについても、一切、話題に出さなかった。

 聞かれていたら、俺はなにも言えなかったから――そういう気遣いは素直に嬉しかった。

 こういう時、言えるのが最高のパートナーなんだと思うけど……、でも。

 言うべきではないことも、ある。

 お喋りをしていると、あっという間に辿り着いた。五つ先の駅なんだけど……、思ったよりも早かったな。車じゃないから渋滞とかは関係ないし……、俺が勝手に遠く感じていただけで、五つ先の駅はそう遠い場所でもないのか?

 牧野とお喋りをしていたから、時間があっという間だったのかもしれない。

 駅から少し歩き、見えてくる遊園地に近づくと、広がるのは人、人、人だった。

 並んでるなあ……これを待たなくちゃいけないのか?

 待っている内にお昼を越えそうな気がするが……

「ねえ楽、このチケットって……」

 牧野が気づく。俺たちが貰ったチケット、これって……。

「招待券だよ」

 招待券?

 牧野が言うには、つまり並ばずに入れる優先客、というわけだ。

 冷さん、マジでどうやってこんなものを? 思いながら、案内されて園内に入ると、広がるアトラクションの数々に、俺は些細なことなんて全て吹っ飛んだ。

 思考が止まる。

 子供に戻ったみたいに、テンションが上がる!

 ジェットコースターっ、なんだあれ、レールがすげえ捻ってあるけど!?

 見回すと、絶叫マシンが多いのだろうということが分かった。そう言えば、雑誌で紹介されていたな、絶叫系を推している、と。なるほど、絶叫マシン好きにはたまらない場所ってことか。

 すると、牧野が俺の腕をがしっと掴み、ぐんっと引っ張ってくる。

「いこうっ、あれ乗りたいっ、楽!!」

 子供のようにはしゃぐ牧野。

 目がきらきらと光っていて、俺はそれを見て、きて良かったと思えた。

 牧野が俺を引き、どんどんと突き進んでいく。俺も走る速度を牧野に合わせ、並走する。

 一番最初に辿り着いた場所——そこはやっぱり、ジェットコースターだった。

「牧野はこういうの好きだもんなあ……」

「あれ、苦手だったっけ?」

 俺は……ダメ、というわけじゃない。

 けど最近、乗ってないから、正直、どういう反応になるのかは分からないな……。

 今の段階でちょっと怖いし。

「もっと優しいやつで慣れてから――」

「ダ・メ」

 でもこれ、この遊園地の目玉のアトラクションだろ!?

 ってことは、絶叫マシンの中でも格段に怖いのでは!?

「大丈夫よ、シートベルトがあるんだから」

「なきゃ困るわ!」

 お前が手を繋いでくれるのか?

 言うと、うん、と言われた。

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