第15話 悲劇の日
十二月二十五日。
学校でいつものメンバーと出会い、「今日はクリスマスパーティーをしよう!」と言われた。
「いいけど……どこでやるんだ? 寮の部屋はだって狭いだろ?」
「それは大丈夫よ。花の家が空いているもの……ね、花?」
咲夜が聞いていなかったように「え」と声を漏らしたが、しかしすぐに雅に隅っこへ連れていかれ――こそこそとなにかを話している。二人の関係性上、脅しているってことはないと思うが……、それは関係性を知っている俺だからこそ分かったことだ。
雅が脅しているようにしか見えないぞ、それ。
花は寮ではなく実家から通学している。雅も実家が近くらしいが……今日はダメらしい。
俺も牧野も恭太も寮だし、雅は実家がダメ……となると咲夜の家しか残っていなかった。
「では、わたしの家で構いませんよ」
と、咲夜。
「じゃあ決まりね!」と牧野の声でパーティが決行されることになった。
今日は朝から雪が降っていた……ホワイトクリスマスである。
道の隅では、もう既に少しだが積もっていたりもしている。
「楽しみね、クリスマスパーティー!!」
「雪の上ではしゃぐと転ぶぞ?」
牧野は手の平を息で温めながら、よし、と言って積もった雪に手を突っ込んだ。
そして野球ボールくらいの大きさに雪を固めて――俺に投げてくる。
「うぉ!?」
飛んできた玉を避けることができたが、急な動きで足下が滑り、バランスを崩した。
積もった雪に尻もちをつく。
「あははっ、だっさーい!」
「……このっ」
牧野を真似して俺も玉を作り牧野へ投げる。
額に当たり、牧野も本気になったらしい。寮へ帰る最中、本気の雪合戦になった。
勝ち負けで言えば俺は負けたのだろうけど、お互いに雪を浴びているので制服は濡れている。
動いたおかげで温まっているが、服が濡れているのですぐに冷えてしまった……。
着替えないとな。
一旦、牧野と別れて、俺は部屋へ戻った。
すると、「こんっ」と、うどんが出迎えてくれた。
「ただいま。ああ、牧野はあとでくるよ。準備をしてから――、そう言えばお前を連れていってもいいのかな?」
咲夜の家にうどんを連れていく気でいたが、よく考えてみれば咲夜に許可を取ったわけではない。……大丈夫だとは思うが、まあ、あとで聞いてみるか。
「よし、いくか、うどん」
「こんっ!」
俺たちは部屋を出る。俺の足下を歩くうどんは、雪の上を走り回り、ごろごろと転がっていた。寒くはなさそうだ……、あいつももしかして雪でテンションが上がってる?
と、俺たちを見つけて走ってくる牧野がいた。
片手には大きな荷物。パーティで使うものらしい。
「ごめん、遅れちゃった」
「大丈夫だ。ほら、うどんも楽しそうに遊んでるし」
「こんっ!」
牧野を見つけたうどんが自分遊びをやめて牧野に駆け寄る。そしてぴょんっとジャンプし、牧野の胸にめがけて飛びついた。牧野がうどんを優しくキャッチする……。
まるで感動の再会のようである。……いや、朝も会っただろ、と言うのは野暮か。
「じゃあいくか。あ、荷物、俺が持つよ」
「ん、ありがと」
俺たちは進む。楽しい日常を堪能するために。
――悲劇が、すぐそこまで迫っていることに、気づきもせずに。
―― ――
「それ、なんだ?」
牧野の荷物を指差して聞いてみた。パーティで使うもの、とは聞いているが、細かくは知らない。装飾品とか、ゲームとかなのだろうか。
しかし牧野は「ふふ、内緒っ」と教えてくれなかった。
「向こうでのお楽しみよ」
言って、足を早める牧野。俺はなんとなく、足下の雪を固めてボールを作り、投げてみた。
それが綺麗な放物線を描き、牧野の後頭部へ当たり、ぼふ、と、牧野の頭に雪が積もる。
振り向いた牧野が、俺をギロリと睨んだ。
「……なに?」
「え、あ……ごめん、なんか当てられそうだなと思って……」
すると、無言で牧野が雪でボールを作り、俺の顔にめがけて投げてくる。
「やめっ、無言は怖いからやめろ!!」
「あんたが後ろから投げてくるからでしょうが! さっきの汚れとか、部屋で落としてきたのにっ、これ以上、新しい汚れを作らせないでよ!!」
喋っている最中に牧野の顔に雪の塊が当たって――ぶふ!? と牧野が虚を突かれた。
これは俺じゃない……ということは……うどん……?
「こーんっ」
「う、うどん……?」
足下をぐるぐる回るうどんが、足で器用に雪玉を作り、足で弾いたのだ。
まるで馬が後ろに立つ人間を蹴り上げるように――。
こんっ、という鳴き声と同時に雪玉が飛ぶ。今度も牧野の顔にめがけて飛んで――
しかし牧野も学習したようで、咄嗟に手でガードしていた。
「そう簡単に当てさせると思う? 二人がその気なら、私だって本気を出すからね……!」
遊びたがっているのはうどんだけだけど……?
まあ、二人が楽しそうだからいいか――ぶほぉ!?
「ぼーっとしてるからよ。やる気がないなら帰った方がいいんじゃない?」
――上等だ、牧野。
「雪合戦に関して、俺はそれなりの経験値を持ってるからな……!」
「口だけじゃないことを願うばかりね」
足下にあった雪をかき集め、玉を作る……一個じゃない、たくさんだ。
その間にも、うどんと牧野はどんどん先へいってしまっている。
「おい、ちょっとは待てよ!」
どんどんと突き放されていくので仕方ない、たくさん作った玉の一部だけを持って――
……あれ? と。
今、ふと気になった。雪景色で分かりにくいが、ここはきたことがある場所だ。
嫌な方に覚えている場所——ここは――
「牧野っ、待て! ここはっっ!!」
道幅が狭い道路、そして横断歩道。しかし交差点である。
周囲が白で染まり、視界はかなり悪い……しかも、ここはただでさえ見通しが悪く、交通事故が多い危険地帯だって言うのに――!
牧野はうどんを追って、その横断歩道を渡っていた。
その時、耳を突き刺すような音。
確認をする前に思わず体がびくっと反応してしまうような、荒いクラクションの音だ。
「へ?」
操縦が利かなくなり、一時停止もせずに突っ込んでくるトラック。
牧野は見ていても、なにもできずに、ただその場で棒立ちしたままだ。
逃げることもできない。助けを求めることもできない――、一瞬過ぎるのだ。
あまりにも唐突。
そうだった……浮かれていた。雪のせいで分かりにくかったとは言え、地元じゃ有名な危険地帯である。こういう悪天候の時にこそ、さらに気にするべきだったのに……っっ!
「牧野ぉ!!」
「楽——っ」
俺は駆け出す。だが、足下が雪で滑り、激しく転倒してしまった。
でも、手は伸ばす――届かないと知りながらも、牧野を助けたいがために。
「まき、のぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
その時。
こん、と。
声が聞こえて。
ごぉっ、と、トラックが通り過ぎた。
「牧野!?」
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