2章_冬の日の宝物

第7話 半年後の冬

 ゴールデンウィークのあれから――。

 二周目が始まってから、半年と少しが経った。今は十二月の初め……、それまで、色々なことがった――あったのだ。話せば長くなる……だから省くが、とにかく色々とあったのだ。

 決して楽ではなかった。つらく、苦しく、死にそうな目にも何度も遭った。でも、それでも挫けずにいられたのは幼馴染である牧野がいたからだ。

 俺にちょっときついところがあるが、それでも長年、一緒にいれば慣れてしまう。住めば都だ。俺からすれば、もう牧野しかいないと言えるほど、家族のような幼馴染である。

 この半年で、距離を縮めた友達もいた。さらに深くまで知ることができた仲間もいた――そうなったきっかけがこのゲームであるというのは、なんだか微妙なところだが――。

 感謝はしたくないな、これに。

 なんにせよ、俺は順調に、二周目をクリアしてきている。一周目をほぼ忘れてしまっている俺としては、今後、どうなっていくのか予想がつかない。でも、あと少しだろう、ということはなんとなく察することはできている。あと、二、三回の大きなイベントをクリアすれば――、このゲーム自体をクリアすることができるのではないか。そんな気がしたのだ。

 だから、『これ』もそのイベントなのか? と疑った。

 それともイベントが起こる前触れなのか? ――とも。

 完全に冬だ。息を吐けば白くなる……、そんな日の放課後だった。

 俺と牧野は学校から帰る途中で、おかしなものを見つけた。

 電柱の真下。段ボールの中に入っていた、小さな――これは、キツネ、か?

 捨てキツネ? 犬や猫なら分かるが――キツネ、って……。

 捨てられているということは飼っていた誰かがいたわけで――キツネって飼えるのか?

「わっ、可愛いっ!!」

 牧野が近寄り、キツネを抱き上げた。

「こんっ」と鳴くキツネは、牧野に懐いている……。

「なんでこんな場所に……、捨てた、のか、それとも野生のキツネがたまたまこの段ボールに入っていたのか――だな」

「うーん、どうなんだろうね。あ、なにか挟まってる……、首に巻いてるスカーフの間に――えーっと、紙切れ?」

 牧野が、はい、と俺に手渡してくる。このキツネのスカーフに挟まっていたってことは、やっぱり飼われていたってことか。ってことは、この紙には、『拾ってください』とでも書かれているのだろう……。

 畳まれていた紙切れを開く。

 中には、以前の飼い主が書いたような直筆のメッセージがあり、


『拾え』

「命令形!?」


 偉そうな飼い主だった……もう飼い主ではないのか。

 このキツネは今、ひとりぼっちなのだ。

 俺はその紙をぐしゃぐしゃに丸め、ポケットに突っ込む。

 こんな風に言われたら、誰が拾ってやるかと言いたくなるが、しかし、

「あははっ、こら、舐めないでよーっ!」

「…………」

 と、目の前で楽しそうにじゃれ合う牧野とキツネがいて……。

 このキツネも、牧野のことを気に入ったらしい。

 懐いてるなあ……。

 たぶん、こんなメッセージがなくとも、きっと牧野は言うはずだ。

 ここで見て見ぬ振りはどうせできないのだ、見つけた時にもうこの展開は決まっていたようなもので……厄介な問題を抱えたなあ、と辟易するが、でも、簡単に牧野からこの笑顔を引き出せると言うのであれば、このキツネは確かに、使えるとも言える。

 キツネを抱きかかえる牧野が、その子の手を左右に振りながら、言った。

「私っ、この子を飼うわ!」

「…………ああ、だろうなと思ったよ」

 だけど、問題がある。

「飼うのはいいけど、牧野の女子寮はペット……、オッケーだっけ?」

「ダメに決まってるでしょ」

 まあ、だよなあ。男子がダメなら女子もダメに決まっている。

 かと言ってじゃあ実家に渡すとしても……、親に押し付けているだけだ。週末に顔を見せにいくとしても、ほとんど親が面倒を見ていることに変わりはないし……。

 寮で飼えなければ俺たちはこいつを飼えない。当たり前のことだった。

「隠れて飼う……、いや、すぐにばれるな」

「そんなこそこそと飼いたくないわよ。この子のストレスにもなっちゃうし。ようは、この子を飼えるようにすればいいんでしょ? 飼えるような状況——とでも言うのかな」

「なんだ、なにか案でもあるのか?」

 少し怖いが、聞くだけ聞いてみようか。

 牧野はふふーん、と得意気だ。

 策があるようで……、でもこういう自信満々の時、大抵、ろくなことにならないけど……。

 そして、女子寮へ辿り着いた。牧野を送り、俺は男子寮へ帰ることに――ぐえ!?

 俺の首根っこを掴んだ牧野が、ぐいっと引っ張ってくる。

 ――って、おい! ここ、女子寮なんだけど!?

「別に、泊まるわけじゃないんだから、少しくらい入っても大丈夫よ」

「……で、俺を連れてきて、どういうつもりだ」

「楽も一緒に説得するの手伝って」

「おま……ッ、自信満々だった策って、管理人の説得かよ!?」

「そうよ。ルールでダメと決まっているのなら、そのルールを変えてしまえばいいわけでしょう? というわけで、作戦決行よ!」

 ずるずる、と引きずられていく俺。

 牧野はこの策で強行突破するらしい……、俺は抵抗を諦め、乗ることにした。

 他に策がない以上、進展するかもしれないという賭けに出てみるのも悪くないか。

 俺は身を任せる。

 全ては牧野の言う通りに。

 まあとにかく、やってみようという精神は大事だろう。

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