第2話 二周目のゲェィム・オウバァ
じっと、見えるその映像を見ることしかできなかった……。
信じられない、というのもあるし、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきてしまった。こんなもの、誰が信じるんだよ、と自分に言い聞かせる。そうだ、これはゲームの演出だ……、そうとしか考えられないだろ! そう自分を納得させる。
でも、画面が切り替わることはなかった。
カウントが、常に減り続けている――。
「……ッ、おい、なんだよこれ……っ! 悪趣味だろっ、早くタイトル画面に戻れよ! おい!」
叫んでも、当然、画面は戻らない。
俺は思い切ってゲーム機本体の電源を切る――コンセントを抜き、電気が送り込まれないようにして……、あとで冷静になってみれば、これは確証がない悪手だったとも言えた。電源を引っこ抜いた瞬間にカウントを無視してどかんっ、もあり得たわけだ。
そうでなくて良かったが……しかし、ゾッとする。
コンセントを抜いたのだ、画面は映らないはずだ――なのに。
やっぱりそこには、変わらずカウントが減り続けている映像が……。
「――っ!?」
不安が加速する。テレビの電源も抜き――、これならテレビ側が応答をしない以上、ゲームの映像を映し出すこともない。ただ、これでも一時しのぎにしかならないが、不安を取り除くためであればやって無駄ではないだろう。
でも、変わらない。
どれだけ抵抗をしても、なにをしようとも、変わらずに、そこに映されている。
世界滅亡のカウントダウン――。
「なんだ、よ、これ! どうすりゃいいんだよ!?」
俺はその場で膝を落とす。嘘だと、冗談だと信じて、この画面を見て見ぬ振りをすることはできる。でもそれをしたら、一年後、世界は滅ぶ――かもしれない。
そう、『かもしれない』だ。ということは滅ばない『かもしれない』――。
でも、そんな軽い思考でいられるはずもない。
見て見ぬ振りをする? 人類を見捨てる? 裏切るのか? 俺に、なにができるって?
結局、止めようなんてないじゃないか。世界滅亡のスイッチだなんて、俺がこの町を走り回ったところで見つかるようなものではないはずだ。
「どうすりゃいい……?」
すると、スマホが振動する。メッセージだ。
……知らない相手。
だけど、分かる。相手はこのゲームだ――『ゲェィム・オウバァ』だ。
この状況に関係することである――間違いなく。
『ようこそ、二周目の世界へ』
『「
『次に待っているのは二周目の「ゲェィム・オウバァ」の世界です』
『楽人様はゲームの世界ではなく、この現実世界でもう一度、「ゲェィム・オウバァ」をクリアしていただく必要があります』
『それでは二周目の世界へ――「ゲーム・スタート」です』
……メッセージを読み終える。
スクロールを繰り返しても、それ以上の連絡事項はない。
もしかして――もう、始まっているのか……?
俺は慌てて、身構える。ここまで手の込んだ冗談……じゃないよな?
手が込んでいるほど、ドッキリである可能性もあるが……。
しーん、と、静か過ぎて自分の荒い呼吸が聞こえた。
ごくり、と唾を飲み込み、変化を待つ――が、
「なにも、起こらな――」
「ねえっ、いる――っ!? らく――っっ!!」
バンッ、と勢い良く部屋の扉が開く。
ずかずかと部屋の中に入ってきたそいつが一言。
「つまんないから遊びにきてあげたわよっ、って、なにしてるの?」
俺は机の下に思わず飛び込んでいた。小学校の頃にやらされた避難訓練の経験が活きたのだろうか……、咄嗟だったとは言え、やはり本能的に頭は守るようになっているのか――。
「お、おお、脅かすなよっ、
「なによ、もしかしてエロ本でも見てる最中だった? それとも自慰行為中? ……そんなわけないか。一瞬でパンツを上げられるほど器用じゃないわよね。ごめんね、だからちょっとチェックさせて」
「だからの意味が分からねえ! あとエロ本じゃねえし自慰行為もしてねえ! というか、言うなよそんな言葉!」
そもそもエロ本なんか持ってねえし!
「あんたの前でしか言わないからいいの。それにしても――ふうん。持ってない、ねえ。確かに雑誌で持ってる子って少ないもんねえ。今はネットでいつでも見られるし」
「そうそう、だから手元には残してな――」
「布団の下」
「!?」
「ベッドの下のスペースじゃなくて、ベッドフレームとマットレスの間とか、ねえ」
「なんで!?」
「あ、本当なんだ」
っ、まんまとやられたぁ……ッッ!!
目の前で、「はあ」と溜息をつき、呆れている幼馴染の姿が見える……、
だが、サイドテールのイメージは牧野の中でもかなり古い部分にある。確か小学生の頃、それ一本だったんじゃなかったか? 中学生から色々と凝り始めた気がする……。
だから童顔なのもあり、俺からするとまったく成長していないように見えてしまう。
まあ、一部、ちゃんとしているけど――
「視線、気づくからね?」
視線でお説教をされた。えへへ、と誤魔化すが、牧野はじと目を変えてはくれなかった。
「で、エロ本じゃないなら、なんでそこまで怯えてたのよ」
テレビ画面を指差しそうになって、寸前で止める。……いいのか、言っても。まあ、特に人に教えてはいけない、と注意を受けたわけではないし、意図的でなければばれてもいいのだろうけど……ただ、俺自身が、牧野を巻き込みたくなかったのだ。
けれど、牧野に隠し事をするのはさらに不可能だ。
俺のエロ本の場所も言い当てたし、日常的に俺を見ていればいずれ気づくだろう……だったら早めに共有しておいた方がいいかもしれない。
「なにこれ。世界滅亡まであと――、へえ、やばいじゃん、地球」
冷静だった。牧野のことだ、信じていないだけなのだろうけど……。
「だってこれってゲームの画面でしょ? 子供騙しじゃない。ホラー映画を見て夜一人でトイレにいけない子供みたいねー。一緒にいってあげよっかー?」
「ま、まあ、そうだよな……子供騙し、だよな……」
牧野の声で俺は落ち着きを取り戻す。そうだ、やっぱりこんなもの、ただのゲーム映像なのだ。まさか本当に世界滅亡のスイッチが押されたわけじゃ――
「じゃあもういいでしょ! 今から夕飯を作ってあげるから、まずは買い物にいきましょう! ほらっ、立って! いくよ、楽!」
「お、おう」
手を引かれ、無理やり立たされる。顔も洗っていないし身なりも整えていないが、強引に部屋から連れ出された。もちろん、カウントダウンは減り続けたままだ。
頭の片隅にはまだ残っている……でも、こうやって牧野が連れ回してくれるのであれば、いつの間にか忘れているのかもしれない――いつもの日常が、返ってきてくれるだろう。
忘れた頃に、「実は嘘でーす!」なんて、表示されているかもしれない。
悪趣味だが、同人ゲームだとすれば、あり得ない話でもないな。
起動し、放置して数か月でやっと表示されるようなカラクリってことも――。
でも、じゃあ、俺に届いたメッセージは?
電源を抜いても映し出されるあの映像は?
分からないことはまだまだある。ドッキリだとしたら不可能な現象も……。
科学の最新技術で片づけるには、とてもじゃないが、納得できない現実だった。
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