1章_始まった後のプロローグ

第1話 滅亡スイッチ

「やっ、たぁああああああああああああっっ!!」

 学生寮全室に響き渡るような声で叫ぶ。うるさいだとか静かにしろ! だとか、そういう苦情なんか知ったこっちゃねえ! そもそもこの時間の学生寮にいるのは俺だけかもしれないしな。

 なぜ俺だけなのかと言えば、今がまさにゴールデンウイークの真っ最中だからだ。学生たちは友達と遊んだり家族と出かけたり人とのコミュニケーションを取る者が大半だろう。

 だけど俺は友達と遊んだりせず、家族と出かけたりすることもなく、家でずっとゲームをしている……、嫌われているわけじゃなくてな!?

 ダメ人間だと寂しいやつだと外野が言うのは勝手だが、これはこれで楽しいものだ。特に俺自身は不満など持っていない。

 信じてもらえないかもしれないが、人との関わり合いはもちろん好きだ。でもそれ以上に、今は家で一つのことに熱中していることが俺にとってはなによりも楽しいことである。

「ふぅ、ゴールデンウィークの全てを使って、やっとクリアか……、期待よりも面白い内容だったな――。いいものを送ってくれたよな、叔父さん」

 俺が熱中しているものは、当然、ゲームである。

 叔父さんから急に送られてきたもので、最新機種のゲームソフトってわけじゃない。二世代前の古い家庭用ゲーム機だ。古いけど、面白さは最新ゲームと張り合っている。映像に力を入れていない分、ギミックが重視されているので、ゲームとしての面白さはこっちが上だ。

 千差万別あるだろうけど、俺はそう思う。

 内容的には横スクロールのアクションだ。だけど他にも色々な要素が詰め込まれていて、飽きずに楽しむことができた。レース、シューティング、推理など……、ジャンルはなんだ? そう思ってしまうほど、色々な要素が詰め込まれている。

 俺はこのゲームが気になり、一回、ネットで調べてみたものの、情報が一切なかった。

 なんでだろう……? もう会社が倒産でもしたのか?

 ゲームのパッケージを裏返す。

「それにしても不吉なタイトルだよな……『ゲェィム・オウバァ』だなんてさ」

 なんだか最初から、『クリアなんてないですよ』って言われている気分だ。

 最初も、タイトルだけを見た時は俺もやる気がなくなったし……。

 まあ、ダメ元でやってみたら面白くてついつい熱中しちゃったんだが。

 ゴールデンウィーク全てを費やし出したクリア画面を眺める。

 今はエンドロールが流れていて、ピアノの演奏曲が流れていた……それもまた、不気味に感じると言えばそうだが――、切ない気分にもなるな。

 プレイ中の記憶が甦る……。

 そうこうしていると、エンドロールが終わり、画面が切り替わる。

「やっと終わりか、寂しくなるな……」

 なんて思っていると、ザザッ、とテレビ画面が砂嵐のようになった。

「ん? 故障か? まあ、連日ずっと動かしていたし――」

 ゲーム機の方も心配だけど、そっちはなんともなさそうだった。

 軽く、テレビを叩いてみる。昔の人は強く叩いていたみたいだが、あれは箱型だからこそできることだ。今や薄型テレビが当たり前。叩くところは、かなり限られてしまっている。

 力を入れにくいだろ……。

 なのでとんとん、と優しく叩く形になってしまう。

 これで直るのか? と思っていると、砂嵐はさらに酷くなっていき――、

 そして、テレビ画面が暗転し、なにも映し出さなくなった。

「ちょっ、それはないってマジで!」

 エンドロールを終えたが、まだ後日談的な話があるかもしれない。まだそれを見ていないのだ――頼むから映ってくれ! また途中からやり直すのはしんどいんだから!

 少し強めにテレビを叩く。すると、俺の願いが通じたのか、テレビの画面がぱっと明るくなった。……ふう、無事に直ったみたいだな。良かった良か――


 しかし次の瞬間、画面に映った文字に、俺は言葉を失った。

 いや、演出なのだろう、と最初は思ったけど……ゲームなんだし、こういうハッタリを使うことだってあるかもしれない。ここで焦ることが、製作者の手の平の上であるとも言える。

 でも――。

 直前の画面の砂嵐。それも、もしかしたら演出かもしれない――けど、それがあったからこそ、俺の心は、楽観的にこれを考えることはできなかった。

 テレビ画面に映されている文字——。


『世界滅亡のスイッチが押されました』


『世界滅亡まで、残り365日——』


 そして、画面が切り替わる。


『残り時間——364日/23時間:59分:59秒:00』


「――――――――――――、は?」

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