二話②

 帰省から数日、十分に羽を伸ばした素楽そらは冒険者業を再開していた。


 とおるに貸し出した本は、解読こそできないが何かしら引っかかるものがあるとのことで、しばらくの間は彼が預かることになっている。


 早朝の掲示板、張り出される依頼の数々から、目ぼしいものがないかを瞳で探る。

 季節が夏、初夏へと移り変わり生業としていた採取依頼の数々は、すっかり様変わりをしている。どれどれを集めてきてくれ、という根本が変わることはないが、必要とされる品々が変わっているのだ。


 乱雑に張り出された依頼紙の中から、毛色の違うものを金眼が捕らえることとなる。


『手習い所の臨時教師募集。依頼者、佐平玄鐘さひらげんしょう。条件、教師の経験者(臨時、家庭教師を含む)』

 手習い所とは市井の人が学びを得るための場である。読み書きや算術といった生きていくうえで必要な知識から、魔法学や史学、地学などといった、城仕えの官人や騎士になるために必要な教育を施す場所である。


 桧井ひのいでは貴族や商家が手習い所を立ち上げて人材を育成することがよくある。表面的には慈善事業のような形で、本人のやる気さえあれば無償で学びを得られる。とはいえ金銭に余裕がある者が多いとはいえ見返りがほしいというもの。自分の手勢である教師を使ってまで育てた人材に優秀な者が出れば、自陣に取り込み召し抱えるか、子飼いの官人として政の中心に根を忍ばせたりというのが目的となっている。ココ最近では。


 そういった背景もあり、手習い所で勉強すればいい仕事に就ける、という感覚で足を運ぶのだ。

 佐平家も手習い所を抱えている家である。何かしらの理由で教師が足りなくなったことは想像に難くない。素楽は跳ねるようにして依頼紙を剥ぎ取り、迷いのない足取りで受付へと向かう。


 実はこの依頼、素楽への指名依頼のようなものだ。教師として働けるのであれば、態々わざわざ冒険者になどならなくても職に困ることはないのだから。


 そんなわけで、指名することの出来ない素楽に対して、組合長は職権乱用というかたちでこの手の依頼をちょくちょく出している。なにせ職員に余計な事をされないように、彼自ら受付で待ち構えているのだから口どころか、爪の先すら挟む余地はない。


「おはようございます組合長、この依頼を受けようと思います。偶然にも依頼者が組合長とのことでしたので、直接お話を伺おうかとー」

「おやおや、まさかこんなにも早く冒険者がみつけてくれるとはね。助かったよ」

 お互いに偶然を装ってはいるが、少しばかし胡散臭い雰囲気をまとっている。


「いやね、教師の一人が怪我をしてしまって、復帰には十日ほど時間が必要なんだって。だから四日、四日で合計八日の間、代理をお願いしたくてね。それにはぐれた他所者が未だにいる可能性があるでしょ、アレはおっかないからね」

 賊の残党がいるかもしれない、というのが組合長の主張だ。期間からしても依頼が終わることには、天夏祭あまなつさいの少し前になるように調整されている。


「手習い所は前と同じところですか?」

「今回は別の場所だから簡単な地図を用意してあるよ。君の家から近い筈だから、迷う心配はないと思うけどね。時間的には…ちょっと早いから、どこかで朝餉あさげでも挟んでからいくといいよ。詳しい話は教師から聞いてね」


「りょーかい、です!」

 一通りの説明を終えた彼は、手短に受付処理を終えて奥へと引っ込んでいった。


―――


 揚げた肉饅頭を食みながら地図を頼りに手習い所に向かう。行儀がよろしくないが、市井では市井の慣わしに従うのが礼儀というもの。百花が見たら卒倒しそうだ。


 二つ目の肉饅頭を嚥下えんげし終える頃には、目的地に到着していた。


 遅れてはいけないからと、早めに移動していた結果か、当然のように手習い所の鍵は閉まっている。

 待っているか悩んだ素楽であったが、どう考えても時間が余りすぎているため、近くをぶらぶらと散歩することにした。共同住宅からそう遠くないということもあって、特別みるものもなかったのだがご近所付き合いというなの雑談をしている間に時間は潰れ、手習い所に戻る頃には鍵が開けられていた。


「おはようございまーす」

 挨拶をしながら手習い所へと入れば、奥から落ち着いた男性の声が響く。


「はい、おはようございます」

 声の方へと向かえば、メガネをかけた壮年の男性が素楽を見て頭を傾ける。


「おや…どこかで以前お会いしましたかね?」

「どうでしょう、この辺りに住んではいますが。…はじめまして、素楽と申します。冒険者組合から依頼を受けて、臨時の職員として参りました」


「これはこれは丁寧に…はじめまして、私は所長をしている嘉太郎かたろうです。そういえば玄鐘様が、なんとかするとおっしゃっていましたね。どうぞよしなに」

「こちらこそ、よろしくおねがいしますー」

 互いに和やかな雰囲気の元、自己紹介と礼をする。


「素楽さんは教師としての経験はお有りですか?」

「組合長からの紹介で何度かありますねー。適度に見て回って、生徒のわからないところがあれば教える、という形でいいですか?」

「はい、問題ありません。玄鐘様が何度も依頼するとは、優秀な教師なのですね、期待していますよ。素楽さんはどの授業を持つのが得意ですか?」

 授業の一覧を覗き込めば、他とそう変わりない内容が記されている。


 基礎的な授業の読み書きと算術。文学、史学、地学、礼儀作法、十露盤そろばん、高等算術、魔法学等、手習い所で学べることは多い。場所によっては剣術、弓術、格闘術、馬術、外国語なども学べるところがあるが、この手習い所にはないようだ。


「魔法学関連は座学のみですが、それ以外は全部ですます。特別得意な物をあげるのなら…十露盤と史学、地学ですねー」

「わぁ、優秀な教師さんですね。どうです、正式に手習い所の教師として働いてみる気はありませんか?お給金も悪くないですよ」

「冒険者業を終えた後の働き口に予約があるので」

 素楽が困ったように頬を掻きながら答えれば、嘉太郎は当てが外れたと肩を落とす。松野では生徒にたいして教師が足りていないのが現状、学問を説ける者であれば猫であっても雇いたいほどなのだ。


 魔石魔法によって生活が豊かになったことで、人口が増えつつあるせいだろう。


「まあ、そうですよね。それでは、そうですねぇ、本日は史学と地学をお願いしますね、素楽先生」

「おまかせをー」


―――


 授業の、生徒が集まる時間までしばらくの猶予がある。


 後からやってきたやってきた教師たちに挨拶と自己紹介を終えた素楽は、書庫から運び出した教本を漁り、パラリ、パラリと頁をめくり眺めていく。


 松野領は桧井国ひのいのくにの最南東に位置する一年を通して温暖な気候の大領地だ。山で囲まれた肥沃ひよくで広い土地を丸々と領地としている。


 こと桧井では多くの領地が自治権を認められている、地方分権という体制で国の運営が行われている。

 松野領も自治権を有する領地の一つであり、防衛拠点といった認識が強い。

 防衛拠点といっても、松野は他国との国境を持ってはいない。ならば何故に、という話になるのだが、松野以東は珊晶大樹海さんしょうだいじゅかいと呼ばれる魔物が跋扈ばっこする魔境が広がっている。

 この大樹海、桧井国とは大連峰で隔てられているので、本来は驚異となりえないのだが、松野には大樹海へ繋がる開けた山間地がある。これが中々に驚異で、松野史とは魔物との戦の歴史とも言われていたりする。


 しばらくの昔に建てられた防衛都市の海閂うみかんぬきの街によって、領地への魔物の流入は減り領内の治安は安定している。

 余裕がでれば彼の地を調べ、有用な物があれば手に入れたいと考えるのが人というもの。その結果、名前にも冠されている珊晶樹さんしょうじゅという樹木を得ることになった。


 先日、百花主宰の茶会で素楽が髪留めにしていたのだが、幹枝は珊瑚さんご、実は宝玉とご婦人方の心を揺さぶる非常に美しい品が採取できるようになった。魔物を退けながら採取する必要があるため、数こそ多くはないのだが利益は大きく、松野では如何に採取量を増やせるかと熱い議論が繰り広げられている。


 美味しい話があれば、それを僻む者がでるのも常。対外関係もやや面倒な部分がある。

 松野領というのは獣人亜人が多く住まう土地だ。比率はというと、純人すみびと三に対して獣人亜人が七だ。どうして純人以外が多いのかといえば、桧井国は純人を至上とする貴族が中心となっている。特に中央、北部は純人至上主義者が殆どといっても過言ではない。


 一時期、獣人亜人排斥運動が盛んとなり、種族間紛争となりかけた過去がある。その時、当時の松野領主が獣人亜人の受け入れを表明し、無理矢理に場を収めたことで松野は多種族領となっている。

 そんな過去と思想、利益の僻みから、以北に接する領地との間には大きな溝がある。先日の賊騒ぎも以北貴族が雇って送り込んだものだった。


 では以西以南はどうかといえば、こちらは良好といっても差し支えないだろう。南方領地群は椋原一派と呼ばれる、椋原家は主体となっている派閥で、松野もそれに属している。直接矛を向けようものなら、この一派が黙っているはずもなく、内戦というものはそう多くない。

 以上が松野という土地の大まかな掴みであろうか。簡潔にまとめれば、デカくて厄介な隣人がいるが見合う利益のある土地だ。


 タタタ、といくつかの足音を素楽の耳が捉える。


 よく見知った教本の復習を終えると同時くらいに、生徒たちが現れる時間帯となったようだ。手習い所に前に掲げられた黒板に、白墨はくぼくで書かれれた通りの部屋に向かう。


 素楽の受け持つ史学と地学の部屋には、成人前後と思しき年齢の生徒が見られる。皆一様に素楽の姿を見ては頭を傾け、見知った顔と密々と話をしてから、教本を受け取りにいく。

 それもそうだろう、なんせ成人は十五歳、素楽は十六歳。年齢に開きはなく年上すらいることに加えて、彼女の容姿はいささかか年齢より若くみえるのだから。


 手習い所は個別学習を基本としている。自分の進みに合った教本を受け取り、わからない部分があれば教師に尋ねるといった形となる。


「はじめまして、えっと…史学と地学の先生でよろしいのでしょうか?」

 やや強面で恰幅の良い狼然とした獣人の生徒が、言いづらそうに尋ねる。


「はじめまして。本日から数日間、臨時の教師として派遣された素楽です。よろしくおねがいしますねー」

「そうですか、よろしくおねがいします」

 怪訝そうな表情ではあるものの、軽く会釈をしてから教本を受け取って席についた。礼儀正しい生徒のようだ。


 生徒たちは最初こそ不安そうに躊躇とまどいながら質問を投げかけていたのだが、正しく丁寧な回答をする素楽に信を置いたようで、正午になるまでひっきりなしに呼ばれる事となった。


「せんせー、お昼一緒しませんかー?わたし、午後も史学受ける予定なんですよー。せんせーの腕もふもふですねー」

「ホントだ」

 一旦、教本を片付けようとしていた素楽に後から抱きつく女生徒と、腕をもふもふと触る女生徒が一人ずつ。年齢は素楽よりも年上だろうか。


 こういった扱いには、とある女性の影響で慣れている為、とりあえず身を任せながら口を開く。


昼餉ひるげですか、いいですよー。先ずは教本を一旦片付けるので、手伝って貰ってもいいですか?」

 はーい、と元気に返事をする女生徒たちは、素楽を解放して教本を手に取る。余っている分を持ち上げれば、一回の運搬で終わるので大助かりといったところだろうか。


「わぁ、せんせー力持ち」


―――


 小洒落た食事処にて三人は食卓に着いている。

 道中に自己紹介をされていおり、二人は小恋ここい夏帆かほというらしい。二人は幼馴染で、共に十七歳とのこと。素楽の年齢を聞いて目を丸くしていた。


「素楽ちゃんが年下って聞いて、ちょっと凹んじゃったんだよねー。ウチも勉強頑張んなくちゃ」

 こちらの緩く喋る額から角の生えた角人つのびとが小恋だ。「手習い所の外なんだから、せんせーじゃなくて友達ねー!」と人懐っこい性格だ。


「他にも得意な勉強あるの?史学と地学だけ?」

 落ち着いた性格の純人が夏帆。「それじゃ、わたしも友達ね」と親しげに話しかけている。


「あの手習い所で教える事ができるのだと、魔法実演以外は全部。魔法は魔力の操作と感知に難があってねー」

 二人に親しげに話しかける翼人が素楽である。先程知り合ったとは思えないほどに馴染んでいる。


「すごいね、明日からは素楽のいるところで受けようよ小恋」

「いいねー。素楽ちゃんいつまでいるのー?」

「今日から四日、一日休んで四日の合計八日間だねー」

「よろしくね!」「よろしく」

 女三人寄ればかしましいとはこのことで、わいわいと話をしながらの食事を三人は楽しんだ。


 家が近いところにあることや、冒険者をしていることに驚いた二人と、寄ったことのある店の娘だった事に驚いた素楽。互いに笑いあい和やかな昼餉ひるげで友好を深め合うのだった。


―――


「やっほー、せんせー。今日も来たよ―」

 本日で四日目、小恋と夏帆の二人は仲良く手習い所に顔を出していた。手習い所の外では気軽でお転婆な、いや手習い所ないでもあまりかわりないが、ともかくあまり勉強を好まなそうな風な二人なのだが、毎日しっかりと手習い所に通って勉学に励んでいる。


「今日は十露盤と算術、高等算術なんだね。苦手だから沢山聞くと思うけど、よろしく」

「ウチが教えてもいいよ、得意だしー」

「小恋の教え方よくわからない、教えるの下手」

「ひどくなーい?」

 この二人がいると中々に賑やかになる。他の生徒が勉強を始めれば声を潜めるのだが、一番乗りでやってきたため元気いっぱいだ。


「遠慮なく聞いてくださいねー。その為の教師なので」

「じゃあさっそく、ここなんだけど――」

 懇切丁寧こんせつていねいに勉強を教える素楽と教わる夏帆、それに茶々を入れる小恋とここ数日でよく見られるようになった光景だ。教科によっては夏帆と小恋が入れ替わったりもする。


「おはようございます、先生。小恋と夏帆、最近早くから来ているのだな」

 初日にも見かけた強面で恰幅の良い生徒だ。


「おっ、真面目くんじゃん。せんせーが可愛いからねー、やる気が出るんだよー」

「…俺が真面目くんなら、お前も真面目ちゃんだろうが。次にそう呼んだら、しばらく真面目ちゃんと呼ぶからな」

「ごめんごめん、怒んないでよしゅうちゃん」

 彼の名は秋三しゅうぞう。彼は可愛らしい呼び方に眉を曇らせるも、諦めたように教本を受け取って席についた。

 そんな二人を見て、夏帆は素楽の耳元でそっとささやき声を出す。


(秋はね、小恋の事が好きでいいところ見せるために頑張ってるんだよ。…どの分野でも負けてるんだけどね。城の登用試に受かったら告白するんだって)

(へぇえ、青春だねー!)

(うん、すごい青春)

 ひそひそ話をしていれば、徐々に徐々に生徒が集まってくる。素楽の周りで屯していた二人も邪魔にならないように席へと移動する。


 今回の授業は史学地学の時と比べると、若年層も多く見られる。一番幼い子で十歳くらいだろうか。初等算術の教本を受け取ると意気揚々と頁をめくっている。


「ん?あっ!素楽じゃん!最近全然見なかったとおもったら、こんなところで何やってるんだよ!」

 数日前にも聞いた男児の声。同じ共同住宅に住んでいる圭太けいたである。


 素楽がしーっ、と口に指を添えると、周りを見回して謝ってから歩み寄る。


「おはようございます、今日も元気だね」

「おはようございます。…なんで先生してるんだよ、冒険者は辞めちゃったのか?」

「ううん。冒険者として臨時の教師をしているんだよ」

「なんだ、そうだったのか」

 あまり姿を見れなかった素楽のことを、彼なりに心配していたのだろう。そっと胸を撫で下ろしたような仕草をしている。


「圭太はこの手習い所に通っていたんだね。どの教本を持ってく?」

「これとこれ。父ちゃんが母ちゃんがココが良いって言ってたからな」

「そうなんだ。それじゃ頑張ってね」

「…おうよ」

 少々バツの悪そうな顔をした圭太であったが、直様真面目に教本とにらめっこを始めた辺り、城仕えになりたいという将来の夢は本物なのだろう。


 城に仕える騎士や官人というのは、安定した給金と立場から非常に人気の職である。登用試験を合格し面談と素行調査の末に問題がなければ、晴れて騎士や官人として登用されることとなる。


 これは貴族家でも例外ではなく、素楽も昨年に登用試験を受かり文虎の側近として召し抱えられている。現在は休職中であるが。

 とはいえ、子どもの教育という点では貴族と市井では大きく差があり、素行や礼節についても地盤が違うために、貴族というのは優位にある。


 そんな訳で、未来の優秀な城仕えを育てるべく素楽は、生徒たちの様子を見て回り、質問に答える。


―――


 同じ共同住宅に住まうもの同士、足並みを揃え素楽と圭太は帰路に着く。


「まさか素楽の頭があんなによかったとはな…」

「あはは、なかなかに失礼だねー」

「だってよー、頭よく見えないんだし」

「意外性があっていいでしょー?」

 大なり小なり馬鹿にされているのだが、気にした風もなく哄笑する。


「じゃあさっ手習い所でわからないことあったら俺に教えてくれよ!」

「んーいいけど。いつも家にいるとは限らないし、手習い所で教師に聞いたほうがはやくない?」

「聞き忘れて、帰ってから気になることとかあるだろ?」

「そういうものなのかな?ま、いたらいいよ。手習い所で習うことなら大体はわかるはずだから」

「よっしゃ!」

 楽しそうに笑う圭太は実に嬉しそうである。


「それじゃ、あたしは野暮用あるから、またねー」

「あんま遅くまで遊び歩くなよー」


 共同住宅まで圭太を送り届けた素楽は、手を振りながら体を翻す。時刻は申三つ時といったところ、家で体を休めるには早い時間帯である。

 その足でどこへ向かったかといえば冒険者組合である。組合内は冒険者が疎らにいるくらいで、賑やかさというのは微塵も感じられない。この時間であれば、平常運転であろう。

 迷いのない足取りは、真っ直ぐと依頼板へと向い。金の瞳は貼られている依頼紙を順繰りと見回していく。


(時間帯も時間帯だし、大したものはないかなー。……残党の警戒も兼ねて教師の依頼をだしたみたいだけど、流石にもう心配はないでしょ)

 初夏に見られる植物やなんかの採取依頼を見かけるものの、この時間帯まで残っている理由がわかるものばかりである。


(夏呼の採取依頼かー、悪くないなー。明日まで残ってたら受けようかな)

 採取依頼の報告には二種類ある。依頼を受けてから採取に向かう場合、偶然持ち帰った物を納品する場合だ。


 細かな指定などがあることも珍しくないので後者は然程さほど多くないのだが、素楽の目に止まっている依頼には面倒な条件などは書かれておらず、掲載されてから時間がたった売れ残り感がある。故に他の依頼ついでに納品物を採取してくる可能性も否めないのだ。


 依頼自体は早いもの勝ちなので、ここで彼女が依頼紙を剥ぎ取って受けてしまっても問題はないのだが、依頼者が待ち望んでいるかもしれないと、明日まで残すことにした、というところだろう。


(他はイマイチだから、明日次第かなー)

 依頼の様子を確認した素楽は、馴染みの冒険者と一言二言言葉を交わしてから組合を後にするのであった。

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