第3話 災難の始まり

 デュボワース家に女子が誕生する少し前の事。フェラン王国から遥か遠く離れた北方にアディリアと言う国があった。そこは王侯貴族が堕落し、民は飢えて苦しい生活を余儀なくされていた。そのために反乱を起こすことを密かに画策する民達もいたが、貴族抱えの私兵や貴族から大金を貰って情報を流す輩がいたために計画はことごとく潰されていた。そして計画に加担した者達は次々と粛清に遭い、民は絶望し、ますます国は荒れていく一方だった。そんな中、ある男が突然「自分は神から力を得た。我こそがこの世を治める者となる。」といきなり民の前で宣言した。その男の名はアルバス・コストゥーラ。アディリアでは下位の貴族だった。コストゥーラは自らを教祖と名乗り、新興宗教を興して民を救済する。飢えていた者達には食料を与え、孤児たちを新興宗教の主催する孤児院に引き取り、宗教の教えを教育として叩き込む。戦闘の才能、魔法の才能がある者達は次々とコストゥーラの兵士となり、読み書きの才能がある者達には宗教施設の経営をさせていた。コストゥーラは「貧しい人々にも平等に生きる権利を!病や様々な事情で弱った人々にも癒やしと恵みを!」と叫び、自らそうした人々を訪ね回り、次々と信者を増やしていった。そうしていくうちに誰かが「コストゥーラ教は本物の宗教だ!」とあちこちで触れ回るようになり、民はますますコストゥーラ教に心酔していった。そしてアディリア国の民が段々纏まりだした時を見計らい、コストゥーラは民達に「時は来た。今こそ堕落した王侯貴族達を滅ぼして今まで受けた苦しみ、憎しみを晴らすのだ!」と自ら鎧を纏い、武器を手に取り先頭に立って王侯貴族達への反乱を起こしたのである。民はコストゥーラの為ならと果敢に立ち向かい、ついに王侯貴族達を次々粛清。国王も王族も処刑し、反乱は大成功に終わった。コストゥーラは王亡き後の国の混乱を宗教の力で鎮め、王国の城を新興宗教の神殿にし、教祖として神殿の玉座に就いた。王侯貴族から召し上げた財力であちこちにコストゥーラ教の神殿、教会を建てて布教をしていく。更にコストゥーラは自分の教えに背く者達を容赦無く消した。その恐ろしさに最初はコストゥーラ教に心酔していた者達も宗教から離れようとしたが、命は惜しい。「飢えの苦しみからやっと逃れて平和に暮らせると思ったのに、自分の考えた通りにならないなんて…。」民は心中そのように思いながら自分達の暮らしを営まなければならなかった。アディリアの民の憂いとは裏腹にコストゥーラ教は北方の周辺国に次々と広まっていったのである。異例の速さで民に浸透していくコストゥーラ教は大神をただ一つの神と崇めるフェラン王国にとっては大きな脅威になるのである。北方の行商人達の中にもコストゥーラ教信者がいるためにフェラン王国内にもコストゥーラ教を信じる者達が出てきたのだ。特に若者たちはコストゥーラ教の教えである「弱者救済」の精神に同調し、国を出てアディリアに行こうとする者達までいたのだ。フェラン国王はとうとう決心し、北方の行商人達の国内の出入りを禁止し、国を出て行った者達の帰国も許さないと言う勅命を下した。そうなると働き手が居なくなった地域は悲鳴をあげることになるのである。フェラン国王は大神に「この憂いを晴らす者をお与えください。」と真摯に願い、ついにデュボワース家に希望の子が与えられることになるのである。

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