刻々と変化する状況。
「クソ、出口はどこだ!?」
まっすぐ突き進むと、一番奥の方に明かりが見えた。その先に下水道の水が下の川へと向かって流れていた。恐らくここは橋に近い場所だった。そのまま突き進むと、そこで立ち止まり下を見下した。
「下は川か……!」
『追い詰めたぞ小僧! 悪く思うなよ、お前を奴に差し出さないとワシらの命が危ないんじゃ!』
「このひとでなし最低ゲスクズ野郎め、それでも同じ街人か! 俺が一体何したって言うんだ馬鹿野郎ッ!!」
俺はその時ばかりは勇者の子孫として生まれたことを死ぬほど後悔した。しかも、自分の名前を呪った。
クソ、よりによって……!
よりによってぇ……!
「勇者アルスの名前がついてるのは、この街ではお前しかいないんだ! 観念しろ、アルス!」
――勇者アルスの名前なんか付けやがってぇ!!
『おい、お前ら本気でこの俺を捕まえる気か!? この世界を救った勇者の子孫に、刃を向ける気かテメーら! 俺の先祖の勇者アルス様が魔王からこの世界を救わなかったらな、テメーらは今頃、生きてはいなかったんだぞ! この無礼知らずの恩知らずのクズどもが恥を知れ!』
ありったけの言葉で威嚇すると、ヤツらは顔に縦線が入りながら、恐ろしい顔でノソノソと鍬を構えて近づいてきた。
「おお、それなら感謝しているさ。だかな、今は状況が状況 なんだ。観念するがいい!」
『このゲス野郎、死んでしまえー!』
そう言って吐き捨てると、一か八かのダイブを決行した。高い上から下に向かってダイブをすると川に向かって派手に落ちた。
勇気の無い俺でもさすがにこのまま黙って捕まる訳には行かないので、一か八かのダイブで川に飛び込むとそのまま直ぐ犬掻きをして泳ぎ、川岸に辿り着いた。
「ぜぇぜぇ、何とか奴らをまいたぜ。ハハハッ、俺もいざとうなればやれるじゃないか……」
ずぶ濡れになりながら九死に一生を得ると、そのまま歩いて逃げた。
「奴らに見つかる前に早く逃げよう、きっと街の連中も血まなこになって探しているはず……!」
「クソが、勇者の子孫と名前だけでホントに災難だぜ、まったくよ!」
そこで舌打ちをすると怒りをこみ上げた。さっきまでは平和だったのに、あの平和は一体どこに消えたのか?
まさに急展開過ぎて頭が上手く回らないとは、この事だ。今頃この時間だったら、家でネトゲーして遊んでるのに。しかもイベント時間もとっくに過ぎている。
「あ〜! クソクソクソっ!!」
頭を掻きむしり、絶望感に浸った。オヤジとお袋が死んだのに俺には悲しむ余裕もない。むしろ今は街人に狙われて追われている身だ。何処も安全じゃない。まさに八方塞がりだ…――。
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