夢の終わり。
「床下に、ぬっ、ぬか漬けが入った壺がある。そっ、そこに、そこに、うっ! ゲホゲホっ……!」
「オヤジっつ!!」
「壺の中にケテェちゃんの通帳と印鑑がビニール袋に入っている。それはいつかの為に蓄えていた通帳だ。お前にケテェちゃんの通帳と印鑑を渡すから、それを使って兄弟3人で遠くの街まで逃げて生きるんだ!」
「わっ、わかった……! ケテェちゃんの通帳だな……!? ぬか漬けが入った壺の中に入ってるんだな!?」
「ああ、そっ、そうだ……!」
『オヤジ頼むからもう喋るなよ!』
「ゲホゲホ、うっ……!」
父親は死の間際に床下に通帳を隠したことを告げてきた。そして、遠くに逃げろと言ってきた。俺は頭の中が混乱しながらもわかったと返事をした。
「アルス、アルス、あと、あと、お前に最後頼みがある……!」
「頼みっ!?」
「父ちゃんの部屋にある本棚の裏に隠したエロ本、ぜっ、全部燃やしておいてくっ…――!」
「エロ本っ!?」
――父親は最後、俺にそう言い残すと次の瞬間に静かに息を引き取った。死の間際に最後、父親が言ってきたのはエロ本を息子に燃やして欲しいと言った言葉だった。消えいく命の瞬間に放った言葉が胸に突き刺さった。
『バカ野郎ッ、死んでどうする……!? オヤジのバカ野郎ーーっ!!』
自分が死にそうなときにエロ本の心配する父。確かに他人に本棚の裏にエロ本が隠してあることがバレたら本人が大恥をかくのは間違いない。
オヤジは最後に、自分のメンツを守って死んでいった。これ以上、悲しいことはない。俺は溢れる涙を手で拭うと、そこで父親の亡骸の前で誓いをたてた。
「ああ、男と男の約束だ……! 俺が必ずエロ本を全部燃やすから安心しろオヤジ!」
そう言って父親の握った手をほどくと、虚しくて大声を出して泣いた。手はまだ温かいのに、これが死んだ者の手とは思えない。そこに命の儚さと脆さと、痛みと切なさを思い知った――。
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