夢の終わり。

「なっ、何なんだよ……? 俺は夢でも見てるのか……?」


 余りにも酷い光景だったので、自分の顔を軽くつねってみた。だが、痛みは本物で、これが夢じゃないことがわかった。街は火の海に呑み込まれていて、人が苦しみに叫ぶ声が聞こえた。



ーー一体、何が?



 さっきまで平穏だったのに、いきなり爆風が街の中で起きて、俺の家も、部屋もめちゃくちゃになって、親父は俺を庇って血だらけになって倒れている。さっきまで親父と喧嘩してたのに急に静かだ。漠然とした状況の中で、一体何が起きたのかという疑問の方が強かった。そして、焦げた臭いと、空気中に混ざった臭いに吐き気をすると思わず後ろに後退りした。すると右足に人の足先がぶつかった。ハッとなって視線を向けると、壊れた窓際の近くに母親の姿があった。



「かっ、母ちゃん……!!」



 母親は吹き飛んできたガラスの破片を全身に浴びたらしく、おびただしいほどの出血をして、血まみれの姿で倒れていた。それをみつけて一瞬で表情が凍りついた。


 全身が血まみれで、床に横たわっていた姿は見るのも痛々しかった。そして、息をしてないのもわかった。母親の表情は、目を開いたままだった。身動きひとつもせずに、両目を開いたまま空を見ていた。どうみても即死している人の表情だった。


「嘘だろ母ちゃん……! なんで……!? こんな事って、あんまりじゃねーかよ! なあ、起きろよ母ちゃん、返事をしろよ!」


 俺はそこで愕然となると、急いで母親のもとに近寄った。どうみても死んでるのは解っているのに、返事をかけずにはいられなかった。さっきまで元気だったのに、こんなの嘘だろと、馬鹿げた状況に只ひたすら取り乱した。


「ふざけんよ、母ちゃん……! なんで……!? 目、覚ませよ……! まだ喧嘩のつづき終わってねーだろ……!」


 そこで取り乱すと、まるでガキみたいに泣いた。そして、色々な感情が脳裏に過ると、また悲しくなって泣いた。身近にいた人の死が、こんなに重たいものだとは思いもしなかった。死んでる母親の亡骸にすがりつくと、訳もわからずに泣いた。すると、側で親父の微かな声がきこえてきた。

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