第153話 追加拡張プログラム
サファリスの御神石によって追加された機能は幾つか存在する。
それらは現状の俺達の状況や抱えている問題を鑑みて、解決するのに役立つものとなっているそうだ。
『まずこれまで一律だった聖樹のマスターに対して、階級を作ることが出来るようになっています』
そして階級ごとに聖樹に作用できる能力なども事細かに設定できるようになっているとのこと。
たとえばここにいる帰還者達は一番上の階級にして、聖樹の全ての機能を使えるようにしておく。
だが全てを明かすことが難しい協力者、それこそ田所副総理や服部防衛大臣などには限定的な部分しか触れられないようにした上で、聖霊の主として登録することができるとのことだった。
「つまりその階級機能を上手く使えば、ある程度の秘密を守ったまま俺達以外の誰かを聖樹の主にすることができると」
『その通りです。一定の階級以下のマスターには、消費できるエネルギーの上限を設定しておいたり、施設の拡張などの重要な決定をする際には複数のマスターの認証を必要にしておいたりすれば、意図せぬ形で誰かが暴走する可能性を減らすことも出来ると思われます』
なるほど、そうやって与える権限を制限することで俺達に都合の良い形で仕事を割り振ることも出来るようになる訳か。
「でも主同士が全く異なる指令を出した場合はどうなるんだ?」
『その際は階級が上のマスターの指令が優先されます。仮に同階級の主の対立の場合は他の同階級の主の多数決によって決定します』
この場で言うと俺と先生の意見が対立した場合は、それ以外の主である叶恵や一鉄などが多数決を行なって決まるということか。
なお階級は絶対のものであり、下の階級の主が上の階級の主に逆らうのは不可能とのこと。
上の階級が下の階級の任命権を握っているということは、逆らう下の階級の主の権利を剥奪することも出来るということ。
聖樹の主でなくなったのなら聖樹に干渉する術を失う以上、出した命令が克ち合っても上の階級が負ける道理はないということか。
『これからの聖樹では解放した人物を最上位に設定。その人物がそれから後に主となった者の階級を決定する形となっています』
(だとすると聖樹の解放はなるべく俺達でやった方がいい感じか)
別に一番上の立場で強権を発動するつもりはないが、何かあった時に上の階級の主には何もできないとなったら困るので。
『次の機能ですが、聖樹の施設に隠し金庫が追加されました』
「隠し金庫?」
聖樹は銀行でもないのだから金銭をしまっておく金庫など必要ないはず。
だとするとこの金庫に収納できるのは金銭ではないということか。
『この隠し金庫は、聖樹を動かすためのエネルギーの一部を隠蔽して収納しておくことが可能になる施設です』
仮に10億のエネルギーが聖樹に存在した場合、その内の1億とか2億とか好きな分だけこの隠し金庫の中に移し替える形で隠しておけるのだとか。
そして隠し金庫の中身を見られるのは主によって権限を与えられた者のみとなる。
「よく分かんないんだけど、それってどんな意味があるの?」
茜の言う通り一見するとあまり意味があるようには思えない施設だろう。
それこそ単純に思い付く使い道としては、緊急事態の時のためにここに余剰分のエネルギーの蓄えを用意しておくくらいだろうか。
だが続く聖霊の言葉で俺にとってこの隠し金庫は大きな意味を持つことが判明する。
『この隠し金庫ですが、設定によっては特定の人物から供給された魔力だけを対象にする、ということも可能となっています。即ち無限魔力と魔力譲渡で増加する分のエネルギーを隠し金庫の中に隠しておくことが可能となるのです』
「そうか! それで俺から供給されている魔力を、他の奴には見えないようにすることができるんだな」
これまで秘密を知る人間以外に聖樹の残存エネルギーを見せる事は難しかった。
なにせ俺のユニークスキルによって数秒ごとに不自然な増加を繰り返しているからだ。
だがこの不自然な増加分を誰にも見えない形で隠し金庫に蓄えられるとすれば、普通の奴が見る残存エネルギー上では、その増加が存在しないかのように偽装できる訳である。
「それこそ裏金のようなものということじゃな」
「
先生と一鉄が納得したように頷いている。
『先程の階級も、ある意味では隠し金庫に触れられる存在を限定するために追加されたという面があります』
聖樹の主だけが隠し金庫に触れられるとしても、それだと帰還者以外を主に登録することが出来ないという点では変わりはない。
だがこれらの機能を駆使して帰還者だけを最上位の階級にしておき、それ以外は隠し金庫に触れられないようにしておけば良いということだろう。
(確かに現状の俺達が抱えている問題を解決するのに役立つ機能ではあるな)
神の使いも分かっているのだろう。俺の無限魔力と魔力譲渡が聖樹を正しく稼働させるのに現状ではどうあっても必要不可欠だということを。
そしてその能力を敵に知られないように隠しておかなければならないことも。
だからこそ、そのための拡張機能をこうして幾つも追加しているのだ。
『最後は、神の使いとの交信用の施設が聖樹に追加されています。ですがこちらはまだ不完全なものであり、緊急時以外では使用できません』
これは例の死者蘇生の情報などで何か進展があった時のため、神の使い側が一方的にこちらに連絡を入れるようになっているそうだ。
本来なら神の使い側も常に交信できるようにしたかったようだが、現在の情勢ではそれは些か厳しいらしい。
「だとしても聖樹を解放した時だけしか交信できないよりはずっとマシだな」
死者蘇生の件からして敵の陣営が裏でコソコソと悪巧みをしているのは間違いない。
だとしたら何か分かった際に、その情報だけでもこちらに伝えられるようなっているのは助かるというもの。
これなら情報伝達が滞ったことで、対処するのが手遅れになるなんてこともないだろうし。
『以上がサファリスの御神石で追加された主な機能です。そして最後に、そのサファリスからの伝言があります』
その内容を要約すれば、各地の聖樹を解放すればするほど神の使い側にも余裕が生まれ、このような形で俺達に有利となる施設や機能を聖樹に追加できるということ。
だからこれからも、どうかこの調子で頑張って欲しいという激励の言葉だった。
「ふむ……それなら譲と叶恵にはアメリカでより一層聖樹解放に尽力してもらうとして、それ以外でも動かせる駒は動かすとするかのう。これらの機能を使えば、ある程度までなら聖樹の管理を人に任せられるじゃろうし」
「おい爺さん、また俺に何かさせようとしてねえか?」
「ほっほっほ、そう警戒するでない。流石の儂でもお前さんにダンジョンを攻略させるような惨い真似はせんて」
嫌な予感を覚えた様子の一鉄の疑問に対して、先生は笑って答える。
そう、先生が動かそうとしたのは一鉄ではなく、俺達の中で最強の戦力を誇る人物だった。
「茜、悪いがお前にもダンジョン攻略に動いてもらうぞ」
「うん、いいよ。チッ君も落ち着いたし、クーちゃんがいれば魔物なんて私一人でも敵じゃないから任せておいて」
そうして一人で攻略する意思を見せる茜に対して、
「こらこら、早合点するでない。なにせ今回は儂も一緒なんじゃからな」
先生はなんてことないようにそう告げるのだった。
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