第152話 聖霊とその役目

 聖樹の化身改め聖霊。


 仰々しい名前だが、先生の話を聞く限りでは別に神聖な存在という訳ではないようだった。


「要するに、そいつは聖樹の管理を手伝ってくれる存在ってことだな?」


 聖樹には様々な施設が組み込まれており、元々はそれらを管理するための補助的な存在として聖霊が各聖樹に配置されていたとのこと。


 だが邪神陣営によって聖樹の種を奪われたことにより、聖霊は起動することなく眠り続けることとなったらしい。


 管理する聖樹が存在しなければ聖霊は何もできない訳で、だとしたらそいつがこれまで活動できなかったことも分からない話ではなかった。


「本来なら聖樹が解放された時点で聖霊も目覚めるはずだったようじゃ。だが現状の事態に対応させるために色々と仕様変更を施していたとかで、ここまで目覚めるのが遅れてしまったようじゃのう」


 当初の聖霊は、聖霊の主よりも神の使いなどの命令を優先するようになっていたとのこと。


 だが今回の仕様変更により、聖樹の主の命令を最優先にする形となっているらしい。


(未だに潜んでいる神の使いの中の裏切者が何をするか分からないから、それを警戒してのことか)


 ルビリアの御神石で聖樹にも同じような処置が施されたこともあった。


 だとすると今回の聖霊の処置もそれと似たようなものなのだろうと予測できる訳だ。


 またそれ以外でも聖霊の目覚めと合わせて、現状の俺達に必要と思われる機能を追加されるらしい。


 このことから御神石は聖樹の機能を拡張させる追加プログラム的なものが込められていると見て間違いないだろう。


「話は何となくは理解できたけど、実際に見てみない事には何とも言えねえな」

「そう言うと思ったからこそ、実際に聖霊を目覚めさせて説明させると言っておるんじゃろうて。と言っても既に目覚めさせるのは終わっておるがのう」


 一鉄の言葉も予想していたのか、先生はそう言って聖霊を呼び出す。


『お呼びでしょうか、マスター』


 その声は今までも聞いてきた謎の声だったが、それと同時に抑揚などがこれまでとは違っているように聞こえた。


 まるでこれまでが感情のない機械音声だったのに対して、今は人が機械音声のような声で話しているかのような感じと言えばいいのだろうか。


 少なくとも感情のようなものがその声から僅かなりとも窺えるようになっているのである。


「お前が聖霊か。てか声だけで実体はないんだな」

『私は聖樹の主であるマスター達の補助を行なう支援プログラムであり、分かり易く言えば人工知能のようなものです。それ故、実体がなくても支援が可能な状況では使い道の少ない肉体は不要だと判断しています。ですがマスターがお望みとあれば、仮の肉体を作成することは可能です』


 ただし肉体を作成するのにも、それを維持するのにも聖樹のエネルギーを必要とするとのこと。


「今のところだとこの状態が最も無駄がないってことか……まあ今はそれでいいや。それでお前が説明してくれる大事な話とやらは何なんだ?」

『それではまず聖霊としての私に与えられた役割と機能についてご説明いたします』


 どの聖樹も魔物や魔族の侵入を拒絶する聖域を展開している。


 あるいは最初から居住区が完備されていることからも分かる通り、どの聖樹にも共通している役割が魔物の脅威の及ばない安全地帯を生み出すこと。


 要は人類にとっての避難場所となることだ。


『当初の想定では、聖樹や聖霊の維持のためのエネルギーは人類全てを避難させたとしても十分に確保できる予定でした』


 世界中で展開されているダンジョンの場所に聖樹が設置できるとすれば、今よりもずっと多くのエネルギーを自前で生み出すとも可能だった訳だ。


 それこそ全てを自前のエネルギーで賄えたならば、今よりも多くの施設が存在しても俺の魔力譲渡などでエネルギーを供給する必要もなかったはずなのだろう。


『ですが御察しの通り、現状では様々な不測の事態の結果、安全地帯である聖樹の数も、それを維持するためのエネルギーも圧倒的に不足しています。それに伴い、聖霊である私の機能にも大部分に制限が掛けられることとなりました』


 万全の状態で動かすはずだった聖霊も、動くためのエネルギーが不足していては性能を十全に発揮することなどできやしない。


 それどころか以前までの状態のつもりで万全の聖霊を起動した場合、それこそ聖霊の活動のために多くのエネルギーを消費。


 それによって他がエネルギー不足になって、聖樹の維持も難しくなってしまうかもしれないという本末転倒な状況に陥る可能性もあったのだとか。


 だからこそサファリスがそういう細かい仕様変更を行なっており、ようやく形となったのがつい最近ということらしい。


『現在の私の役目は、聖樹の運営が破綻しないようにマスターの意向に従って各聖樹の施設などを管理することです』


 たとえばどれだけの人間を居住区に避難させたいのかを伝えれば、そのためにどれほどの施設の拡張が必要になるのか。


 更にそれらを維持するためにはどれだけのエネルギーが必要になるのかなどを即座に計算して正確な形で教えてくれるようだ。


 そればかりか聖樹の主が望むのなら、現状で取れるだろう方策なども考えて提案してくれるとのこと。


『またマスターがダンジョン攻略などで聖樹に不在の際でも、聖霊である私がマスターの代理として対応に当たることも可能です』


 俺達がダンジョン攻略に出払っている時を狙って魔族などが聖樹に襲撃を仕掛けてきても、聖霊がそれに対応してくれる訳だ。


 その対応の仕方も徹底抗戦を指示しておけば聖樹が機能停止するまで戦い抜くし、中の一般人の避難を優先するように言っておけばそれを優先した作戦を立案してくれる。


 更にもし聖霊が十全の状態だったのなら、聖霊自身が実体を作成して敵の迎撃に率先して出向くことも可能だったのだとか。


 もっとも今はその機能はエネルギーが足りなくて実現不可能みたいだが。


『このように聖霊である私の役目は聖樹の運営をサポートすること。延いては聖樹のマスターであるあなた方の手助けを行なうことになります』


 そうやって聖樹の主である俺達に語り掛けてくる聖霊は、


『そしてそのためにサファリスから聖樹に対して幾つか機能の追加がなされています』


 そうやって追加された機能についての説明をし始めるのだった。

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