第144話 門番との戦い

 アメリカ西海岸のとある街。


 その街中にトレントによって展開された場違いな森林の中を俺は進んでいく。


 オークキングの大剣による斬撃と最大までチャージした魔導銃の銃撃によって仕留められたトレントは次々に消滅していく。


 だが生い茂る木々の中には根元から破壊されてもそのまま消えることがない物も存在していた。


「全ての木々がトレントではないのが面倒と言えば面倒だな」


 全てが魔物なら倒せば消えてくれて先に進みやすいというのに。


 見ての通り生えている木々に擬態する習性を持つのがトレントだ。


 だからこそトレントは何もないところにいる場合は急速に成長する木々の種を周辺に生み落とすことがあるのだったか。


 周囲を自らが隠れられる環境へと変化させるために。


 その結果が目の前の街中に存在する場違いな森林な訳で、そういったトレントの分身ではない木々は破壊されても消えることはないのである。


(一応幾つかの枝とかは持ち帰っておくか)


 それこそ一鉄や大樹なら俺には思いつかない形で、これらの頑丈な木々の利用方法を思いつくかもしれないし。


 そうして俺は頑丈な木々を破壊しながら多くのトレントも排除していく。


 なお、その過程で倒されたトレントの中には魔石を残さない個体も結構な数が存在していた。


 どうやら異世界と同じで分身はあくまで分身でしかなく、その場合は魔石を残さないらしい。


(本体を先に倒しても分身は消えないくせにな)


 分身が魔石を残してくれるなら魔石を稼ぐ対象とした最高だったのだが、そう上手くはいかないらしい。


 ただそれらの問題があったとしても俺の歩みを止めるものではなく、大半のトレントは分身を含めて俺に近寄る前に倒されることとなった。


 そうして進み続けた先で明らかにこれまでとは違う気配を感じ取る。


 間違いない、この先で門番が待ち構えているのだ。


 それこそかつてのオークナイトが国会議事堂の前で敵を待ち構えていたように。


(軍の話だと、アメリカ各地のダンジョンの前に門番が配備されていることが多いらしいな)


 日本ではそれ例外のケースも結構あったのだが、それらとの違いは何なのだろうか。


 と、そんなことを考えている瞬間だった。


 門番の気配がする方向からドン! という大きな砲撃音が響いてきたのは。


 そしてそれに僅かに遅れる形で上空から何かが降ってくる。


「聞いていた通り砲撃してくるか」


 今回の門番はダンジョンの前でただ敵がくるのを待っているだけではない。


 こうして近寄ってくる敵に対して遠距離から攻撃を仕掛けてくるようなのだ。


(落下してくるのは巨大な木の実か? どうせ着弾したら毒か何かを周囲にバラまくんだろうよ)


 あるいは分身がたっぷり詰まっているとかもあるかもしれない。


 こちらの居場所については周囲のトレントが情報を流しているだろうから、砲撃が見当違いのところに落ちることに期待は出来そうもないだろう。


 何にしてもこのまま砲撃を受け止めるのはバカのすることという訳で。


「魔闘気、発動」


 既に敵の存在は捉えているのだ。


 だったらやるべきことは一つだけ。


 俺は魔闘気を発動すると、敵の砲撃が落ちてくる前に一気に駆けていく。


 それこそ仮に周囲のトレントが門番に危機を知らせても対応する時間を与えないくらいの速度で。


 その結果、放たれた砲弾が落下するよりも早く俺は門番の元へと肉薄する。


 ただそいつはこれまでに見たことのないタイプのトレントだった。


(枝の一部が不自然な筒状に膨れて、それこそ大砲のようになっているな。あれで砲撃を行なっていたのか?)


 その答えについてこの場で知ることはできなかった。


 何故なら門番が次の砲撃を放つ前にオークキングの大剣と魔導銃による攻撃が門番の身体を襲ったからだ。


「……!?」


 恐らく声にならない悲鳴を上げたのだろう。


 その妙な形をしたトレントは回避することも出来ずに攻撃を受けた身を震わせると、そのままどうすることもできずに消滅していく。


 その場に魔石と鍵を残して。


 どうやら亜種と言ってもそれほど強力な個体ではなかったようだ。


 それとも遠距離攻撃に特化していたせいで耐久力などには難があったのだろうか。


「ま、何だろうと鍵が手に入ればいいさ」


 ちなみにアメリカ軍がダンジョンの鍵を手に入れた方法だが、戦車などの砲撃で森と魔物を一緒に吹き飛ばしたらしい。


 それとこことは別の場所では森ごと焼き払うとかいう強引な手段を取ったケースもあるのだとか。


 勿論それらも一つの有用な手段ではあると思うし別に責めるつもりは毛頭ない。


 それこそ俺だってそれが必要となればやるだろう。今の俺なら火炎魔法を使えば同じようなことが可能だろうし。


 だけど木々を焼き払うとその炎が消えるまで危険だし、そうじゃなくてもどこで門番が死んだのかの把握が難しくなる。


 それでは門番が落とした鍵の発見も難しくなるので、今回はその案の採用を見送った形である。


(てかむしろ砲撃で倒したアメリカ軍はよく鍵を見つけられたよな)


 砲撃で吹き飛ばしたのなら、それこそ瓦礫や木々の破片の中に落ちた鍵も埋もれていただろうに。


 それこそ討伐するよりも鍵を見つけるまでの方が時間が掛かったのではないだろうかと思うほどである。


『叶恵、こっちは門番の討伐まで終わったぞ。ここからはダンジョン攻略に移行する』

『そう、こっちはまだ車で移動中よ』


 叶恵の狙っているダンジョンは俺よりも距離がある場所に存在するので、ある意味でこれは予定通りだった。


『それで俺の倒した門番なんだが、どうやらトレントシューターって名称の亜種みたいだ』

『ふーん、そいつも異世界では見たことのない魔物ね』


 魔石を確認したところ、どうやらゴブリンガンナーと同じようなこちらの世界で発展した魔物だという事が判明する。


(大砲みたいな部位も、もしかしたら本当にそれを模倣した可能性がある訳か)


 魔物も銃器などを見て学習しているだろうか。


 それとも御霊石を使って強化する際にそういう改良などが出来るとかもあるかもしれない。


『なんにせよかなりの遠距離からでも砲撃してくる魔物みたいだ。お前なら問題ないと思うが、一応気を付けろよ』

『りょーかい。ま、適当に対処するから問題ないわよ』


 気の抜けた返事が返ってくるが、これでも叶恵は歴戦の戦士だ。


 そう言うのなら本当に問題ではないだろう。


「さてと、俺も人の心配よりもまずは自分の仕事を終わらせないとな」


 まだ門番を排除しただけ。

 本番はここからである。


 そうして俺はこれまでと同じように鍵を使って、門番が守っていた建物の中にあるダンジョンへと侵入するのだった。

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