第143話 同じ種類の別のダンジョン

 この先にいる魔物はアメリカ軍から聞いていた。


 その名はトレント。


 かつてSNSなどに乗せられた動画などで見た、アメリカに出現した魔物の代表格のような魔物だった。


 ただそのトレントなのだが、どうやらこれから俺が行く先だけで出現している訳ではないようなのである。


(何十キロも離れた別々の地点でトレントが出現している、か)


 それどころかアメリカにもゴブリンやオークなどの日本で出現した魔物が同じように暴れている地域が存在していた。


 それも遠く離れた別々の地域で。


(各魔物の行動範囲などを見る限りでは、ゴブリンダンジョンやオークダンジョンが一つではなかったってところだろうな)


 日本に現れたのがオークダンジョンAやゴブリンダンジョンAであり、アメリカではBやCのような形となっているのだろう。


 そうやって同じ種類でも別のダンジョンが世界各地で配置されており、そのダンジョンに対応した魔物が周囲を制圧しようとしていると思われる。


 勇者によって邪神が討伐されたことにより、敵陣営も相当な痛手を受けているのは間違いない。


 その状態では強力な魔物や多種多様な種類の魔物を生み出すことが難しかったに違いない。


 だからこそ敵はそれを可能にする御霊石を乱獲して、陣地を支配することで力を取り戻そうとしているのだ。


 そしてそれを阻止するのが今の俺の役目である。


「それにしても思っていた以上に数が多いみたいだな」


 既にダンジョンの場所は感じ取れているし、それはアメリカ軍から教えてもらった地点で間違いなかった。


 その道中に樹木の形をした魔物であるトレントが待ち構えているのを感知したが、どうやらその数はかなりのものとなっているようだ。


 それこそ目的地までどのルートを辿っても敵に遭遇しないというのは無理なくらい、範囲内では景観が変わるほどにトレントが溢れ返っているではないか。


「てか本来なら続いている道路が木々で分断されてるとかどんだけだっての」


 アメリカ軍の話では駆除しないと日に日に数を増していくのだったか。


 その結果、本来なら車が通れるはず道路が、突如現れたかのような森林によって見事に封鎖されてしまっているらしい。


 樹木にも様々な種類があるように、トレントも模した樹木の形などによって何らかの特性を持っているケースが存在する。


 その内の一つに、木の実を落としてそれが成長すると新たなトレントとなるような、同族を生み出す能力を持っている奴がいるのだったか。


 正確に言うなら生み出すというよりは分裂とかに近いかもしれないが、ダンジョンから排出される以外の方法で増殖する手段を持っているという意味では大きな違いはないだろう。


 そいつらの活躍によって、ここから先は人を殺す恐ろしい木々が生い茂っているに等しい。


 それこそアメリカ軍の一部では、こうして出来た森のことを魔の森と呼んで恐れるほどの。


 だからこそ直前まで同行した軍人もあれほど心配していたのだろう。


「だけど今の俺にとっては、たかがトレントだ」


 目的がダンジョン攻略な以上、雑魚に構っている暇はない。


 俺はおもむろに魔導銃を構えると、最大までチャージして解き放った。


 そうして発せられた魔力の弾丸が複数のトレントの身体を穿ち、そのほとんどを魔石へと変化させる。


 動かず木々に擬態する形で待ち構えていた奴もお構いなしであり、数が多くて密集していたこともあってかなりの数を仕留めることができたらしい。


 だがそれでも全体からすればほんの僅かに過ぎないのも事実。


 現に攻撃によってこちらの存在に気付いたトレント達は、侵入者を撃退するべく動き出し始めた。


 本来なら動かない林や森。


 それがゆっくりと敵を迎撃するために形を変え始める様は、現実世界の人間にとって異様な光景に見えることだろう。


 そして力無き者がこの森の中に足を踏み入れたら、森に食われるように二度と外に出ることは叶わないに違いない。


 と言っても動くこともできる樹木のような魔物のトレントではあるが、その動きは見た目に準ずるように遅い。


 だから森の外の離れた位置にいる俺の元に到着するまで時間が掛かるし、その間に逃げることは容易である。


 だけど逃げていてはダンジョンのカギを持つ門番の元まで辿り着けない以上、俺はこの群れの中を突っ切る以外しかない訳で。


(オークキングの大剣でも一撃で仕留められるか。なら何も問題ないな)


 最大チャージの魔導銃である程度の範囲のトレントを削れることも確認できた。


 ならばあとは大剣で近づくやつを片っ端から切り捨てながら進めばいい。


 そして魔導銃のチャージが完了した都度、進む先の方向の一定範囲を薙ぎ払ってやろうではないか。


 本来なら最大チャージで放つと魔力が空っぽになってしまう魔導銃だが、俺の能力なら何度だって魔力を充填できるのだし。


 今の俺なら魔闘気を使わなくても、そして通常のトレントがどれだけ数で襲い掛かってきたとしてもダメージを受けることはない。


 だから気を付けるとしたらオークキングのような強力な亜種となる。


(最低も門番とダンジョンのボスは亜種だろうし、それ以外でどれだけの亜種が出てくるかだな)


 そんなことを考えながら俺は再度、魔導銃をぶっ放しながらトレントが待ち構える魔の森へと足を踏み入れるのだった。

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